取引

 ビョルンは、世界中の「神の子」が覚醒した原因が俺にあるという。


「俺が?」


 デザートのプリンを食いながら、俺は聞き返した。


「ランバートが、オイラを転生させただろ? ジュエルを使ってさ」


「ああ」


 ドラゴンのウロコ型ジュエルを使い、俺は死んだビョルンを蘇生させたのである。


「そしたらよお、オイラみたいなタイプが全員覚醒したんだとよ」


 ビョルンのような天使は、過去に神があらゆる種族と交わってできた子どもたちらしい。地上の危機を憂いて、神が「防衛システム」として地上に遣わすためだとか。


 そんな存在は、ビョルンだけにとどまらない。他にも大勢いるという。


 ゾーイも、そのひとりなのだとか。


 セイクリッド族のようなアンドロイドにも、神は自分の力を分けていたそうだ。


「誰から聞いたんだ?」


「ゾーイって女、本人からさ」


 なんと、ゾーイは災厄の塔にも来ていた。


 ルーオンが、「ここに来たのか!?」とビョルンに聞き返す。


「直接、ここに来たぜ。同じ神から命をもらった存在として。ランバート、お前さんを探しにな」


 だから、俺の名を知っていたのか。


「くっそー。ホントおれって、ついてねえな。てんで、そういう大事な場面に出くわさねえ」


「いいじゃん。顔を覚えられていたら、人質にされていたかもしれないよ」


 コネーホが、メガネを直す。


「けどよ!」


 ルーオンは反論した。


「いくら【ギャグ補正】持ちのアタシでも、あんたまでは守れないって」


 説教をコネーホから受けて、ルーオンも黙る。


 コネーホの着ているウサギのキグルミには、【ギャグ補正】という不死身のスキルがかかっているのだ。そんなコネーホの発言には、説得力がある。


「セイクリッド族の中でも、かなりの力を持っているぜ。あのゾーイって女。多分、オイラより強いぜ」


 現在は、ゾーイがセイクリッドをまとめているらしい。


「天使に覚醒したお前でもか?」


「ああ。ちょっとだけ強かったぜ。リュボフと二人がかりなら、わからねえが」


 それでも、油断できない相手というわけだ。


「とはいってもさ、お前さんも大概強いんだぜ、ランバート」


「そうなのか?」


「魔王の力を、サピィちゃんから分けてもらっているようなもんだからな」


 フィーンド・ジュエルのことを、ビョルンは言っているのだろう。


「だったら、それはサピィがすごいんだ。俺なんて」


「だからお前さんは、いつまでもヘタレなんだっての」


「なんだよ?」


「道具だって、使いようなんだよ」


 俺はジュエルを、自分だけのために使ったりはしない。


 ビョルンはそこを指摘した。


「お前さんの強さは、道具に頼らないところだよ。根性が違うんだ。自分で強くなることをあきらめていねえ。だから、みんなついてきてるんないのか?」


 言葉を聞いて、トウコとフェリシアがうなずき合う。


 ハンター用の端末が鳴った。キンバリーからである。『ゾーイが呼んでいるから、来てくれ』とのことだ。


「あいつが、俺を探している目的は?」


「さあね」と、ビョルンは肩をすくめる。


「だが、そんなに警戒するような話じゃないって」


「かもな。話を聞けてよかった。ビョルン」


「おう。メシごちそうさん。グレースちゃんによろしく」


 手を振るビョルンの頬を、リュボフがつねった。


 ルーオンとコネーホが、呆れている。




 ポータルを使い、俺たちはルダニムのギルドに来た。


 ゾーイと取り巻きが、俺たちを囲む。


「お? なんだ? ケンカするのかー?」


 トウコが身構えるが、俺が静止する。


「ついてきて。我がセイクリッド族の宮殿に案内するわ。といっても、今は遺跡のような状態だけど」


 言われるまま、俺たちはゾーイについていく。ホバータイプのフロートに乗せられ、ルダニムの中心までたどり着いた。


 そこには、ドーム状の宮殿ができている。

 街に来た当初から存在していたが、復旧が進んでいるのか、元の状態がイメージしやすくなっていた。

 それでも、居住スペースとライフラインが整った程度だが。


「我がセイクリッド族は、魔物たちとの戦いで戦力の七割を失ったわ。本来なら、あなたのような魔王タイプは招かないのだけど」


「では、退席いたしましょうか?」


 サピィが立ち止まると、ゾーイは歩くようにすすめた。


「あなたにも、ぜひ聞いてほしい話なの」


 ドームに案内されて、簡易的な会議室に着席する。


「はっきり言うわ。クリム・エアハートを捕らえたら、こちらへ引き渡してちょうだい」


 本当に、はっきりというヤツだ。これがアンドロイドか。しかし、彼女がクリムの名を発したとき、怒気のようなものが感じられた。


「お前たちの敵は、χカイだろ? クリムはχの一味である可能性はあっても、工作員としてかけられる容疑はないはずだ」


 そもそも、クリムはどうして世界中のギルドから狙われている?


「何も知らないのね。教えてあげるわ。この男が、この地で何をしたのか」


「なにを言っているんだ?」


 ゾーイが俺たちに、一枚の写真を見せた。


 アンドロイドを撃ち殺している、男女のハンターが。


「これは……」


「そう。我が聖地ルダニムを襲撃した犯人こそ、クリム・エアハートなのよ」


 この街を破壊したのは、クリムとジェンマ・ダミアーニだった。

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