オレンジのジュエルの、本当の使い道

「ランバート、相手をかく乱してくれ!」


「よし、おらああ!」


 俺の【ディメンション・セイバー】を追いかけつつ、【死神】ファルチェと接敵する。


 ハンドキャノン一丁で、リックは敵フォート族と渡り合っていた。『早撃ちリック』の異名は伊達ではない。

 相手が腕を振り下ろす前に、一八発撃ち込む。しかもリボルバーでだ。三回リロードして、銃撃している。


【クイックトリック】というスキルだ。


 俺でも当初は、リックのリロードが見えなかった。同じ技をクリムが持っていたから、目が慣れてきたが。


「おらああ!」


 ディメンション・セイバーを放ち、リックを援護する。


 だが、フォート族である【死神】ファルチェは、すべて避けてしまった。


 何を思ったか、リックは俺が放った衝撃波に銃弾を撃ち込む。


 セイバーが軌道を変えて、ファルチェの首を狙った。


「ちい!」


 腕を犠牲にして、ファルチェは首を守る。


 想像以上に、ファルチェも強い。リックが撃つ銃弾のすべてを受けても、再生してしまう。


「再生用のコアがあるようだな。ダメージは通っているはずなんだが、肉体が戻ってコアを防いでしまう」


 あのボディは防護用と割り切られ、コアを仕留めない限り再生し続けるというわけか。


「だが、コアがどこにあるかわからん!」


 リックの早撃ちをもってしても、倒せないか。


 しかし、対抗策はある。


「これはお前が持っていてくれ、リック!」


 オレンジ色のモノクルを、リックに渡した。


「いいのか、ランバート?」


「俺にはオニキスがある。属性を無視して貫通できるんだ」


 オニキスの武器は、属性関係なしに相手を攻撃できる代わりに、ダメージが半減する。せいぜい腕や足を切り落とす程度で、相手に再生を許してしまう。まともなダメージを与えられない。


 リックの射撃なら、ピンポイントで相手の核を攻撃できるだろう。


「頼む、リック」


 俺はリックに狙撃してもらうため、ファルチェの前に出る。


「ひ弱なウィザードごときが、勝てると思っているの!?」


 白髪を歌舞伎役者のように伸ばし、【死神】ファルチェは俺に巻き付けようとした。


「おらあ!」


 刀身の白い刀【イチモンジ】で、白髪を切り裂く。


「もういっちょ、おらあ!」


 イチモンジの柄から【黒曜顎コクヨウガク】を展開し、二刀流にする。


「ファイトスタイルを変えたのね。手を尽くしたところで、ワタシには勝てないわよ!」


「戦ってから言え! おらああ!」


 濃い藍色の【ディメンション・クロー】を伸ばす。


 飛び道具である【ディメンション・セイバー】と違い、【クロー】はリーチを伸ばすだけだ。

 その分、魔力の消費を抑えられる。


 黒曜顎は、とにかく術士の魔力を食う。

 リソースを考えつつ、大ダメージを狙う必要があるのだ。


「その技、エフェクトがカッコイイだけね! たいして戦えてないわよ!」


 俺の本職が、格闘系じゃないからな。それは仕方ない。こちらの手の内は読まれ、防戦になってしまう。機械でできたフォート族は、やはり分析力が高い。


「どけ、ランバート!」


 身体を横に向けて、リックは銃を構えていた。


 俺は身体をのけぞらせ、リックの射線からそれる。


 リックが、引き金を引いた。


 脇腹に、リックの放った銃弾がめり込む。


「くそ、こんなもの!」


 力を込めて、死神が銃弾を体外へ放出しようとした。


「させるか、おらあっ!」


 俺はすかさず、黒曜顎を脇へ指す。リックの銃弾を、さらに体内へ押し込んだ。


「ギッ!」


 甲高い声を上げて、死神ファルチェの頭が爆発した。あれだけ活動的だったフォート族が、バランスを失う。


「ふう!」


 俺は、刀を納めた。黒曜顎に吸われた魔力を、ダイヤのジュエルで回復させていく。


「やったな」


「お前の力だ、リック」


 リックと、拳を突き合う。


「これは、お前にやる。オレンジのジュエルと一緒に使え」


 敵が落としたルビーの光るオーブジュエルを、リックに差し出した。


「いいのか?」


「お前なら、光るジュエルでも使いこなせるさ」


 光るジュエルは、高レベルのハンターでしか扱えない。共に地獄を経験したリックなら、託せる。


「お前と組むとレアが出ないと言って、悪かった。こんな大事なものを、オレにくれるなんて」


「いいさ。今までの迷惑料だ」


「パートナーのところに行ってやれ」


「ああ。またな」


 俺はリックと別れ、サピィのいる艦橋へ。


「サピィ!?」


 艦橋で横になっているサピィを、抱き上げた。


「無事か? やけに疲れているようだが」


「高次元空間で、ドラゴンと戦闘になりまして」


「ドラゴンだと!?」


 相手は、ドラゴンさえ操る科学力を持っているらしい。


「お気をつけて。敵はヴァイパー族を上回るこの要塞さえ、たやすくコントロールします。追い詰めて入るようですが、油断はできません」


 呼吸を整えながら、サピィが起き上がる。


 遠くで、爆発音がした。


 艦橋から、遠くを観察する。


 たった一人で、ゾーイが別のフォート族と戦っていた。


 相手は俺が対峙した、【墓穴】のような、パワータイプだ。


 ゾーイが、コートのボタンを外す。


 コートから羽のような自律兵器を展開して、フォート族の頭部を撃ち抜いた。


 浮遊していた羽は、そのままゾーイの背中に集結し、二対の翼に変わる。


「ゾーイの正体が、天使だと?」


 あの女、どこかで見たことがあると思ったのだ。


 奴は、俺が倒した堕天使、ラムブレヒトと雰囲気がそっくりなのである。


「女王! また勝手にハンティングに出て!」


 キンバリーが、肩を怒らせながらゾーイに詰め寄った。

 さっき、キンバリーはゾーイを「女王」と呼ばなかったか?

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