要塞の操作系を奪え:サピィサイド

「ランバート殿が、うまくやってくれたようですな」


「そうですね。シーデー、ここで下ろしてください!」


 要塞が止まった時点で、サピロスは艦橋までたどり着いた。


「姫、外はおまかせを!」


 バイクモードから戦闘モードに変形し、シーデーが指マシンガンでクモ型の魔物に風穴を開ける。しかし、シーデーも砲撃を食らう。


「一人ではムチャです、シーデーッ!」


「しかし、すべての移動砲台を、制御下にも置けないでしょう?」


「かも知れませんな。だが、我なら」


 たしかにマギ・マンサーとはいえ、これらすべての砲台モンスターを支配できない。


 シーデーはデッカーの力で、砲台を一台ずつ乗っ取った。タレットを味方につけ続けながら、クモの魔物を破壊していく。


「我が足止めしておくので、サピロス姫は船のコントロールを!」


「ええ。お願いします」


 サピロスは、この場をシーデーに任せた。


「なんだ貴様は!?」


「魔王です」


 手から破壊光線を、浮遊兵器から各属性魔法を放つ。サピロスの手にかかれば、この程度の魔物など物の数ではない。問題は、要塞の制御だ。


 敵の反応を確認し、マギ・マンサーのスキルを発動させた。高次元魔力空間へと、潜っていく。


 緑色に広がる空間の中へ、サピロスはダイブした。


 まずはクモ型魔物たちの制御を。そちらは一瞬で完了した。船を修理しているサソリ型のモンスターも、ショートさせた。


 これで、一時的に砲台の機能は無力化できるはず。だが、要塞内部の固定砲台がまだ生きている。要塞本体も、自己修復もしてしまうだろう。この要塞は、そういった改造がされていた。


「ブルー・ドラゴン!?」


 巡り合うことなどないと思っていた存在と、目が合う。


「こんなところに、ドラゴンとは」


 この要塞は、ドラゴンの素材が使われているようだ。


「どうなされました?」


「フォザーギルの娘かっ! 貴様も私を支配しに来たのだろう!」


 ドラゴンから指摘され、サピロスは首を振る。


「古からの支配者が、わたしのような若輩に従うことはありますまい」


「黙れ! 貴様ら魔族も、結局はχカイと同じよ! ムリヤリにでも、拘束してしまうのだ!」


 怒りのブレスが、サピロスに降り注ぐ。高次元魔術式空間では、命に直接ダメージが入る。むき出しの魂で接しているため、防御も不可能だ。避けるしかなかった。


「我の身体を切り刻み、機械を埋め込んで、いいなりにしようとしておるのだろうが!」


「違います! あなたを解放しに」


「黙れ!」


 いけない。このドラゴンは、怒りで我を忘れている。ドラゴンを制御するコントロール機能は、洗脳に近い。言いなりにするために、脳まで破壊してしまったのか。


 ファウストゥスが、ドラゴンさえ支配下に置くとは。これだけの設備を用意して、χは何と戦っているのだろう? やはり、ダミアーニ卿率いる魔族たちか。


 ドラゴンは、魔王すら軽く凌駕する。異界から現れた魔物や魔族たちに対抗するために作られた、古の有機生命体がドラゴンだ。ひとたび動けば、街どころか大陸さえ破壊したという。


 サピロスは、ドラゴンの猛攻を突っ切って、相手との距離をゼロにまで縮めた。


 そちらが野生にかえるというなら、話し合いに応じないなら、こちらもそれなりの対処をせねばならない。


「やはりしょせん魔王よ! 我と魔族の間で、話し合いなどできぬのだ!」


「指示に従わなくてもいいです。話だけ聞きなさい」


 サピロスの威圧に、ドラゴンが怯む。


 それでも、「聞く耳など持たぬ!」と、相手はブレスを吐いてくる。


 ブルードラゴンのブレスを、紙一重でかわした。かすっただけでも、精神力が持っていかれる。そこまで接敵して、ようやく懐にダメージを入れた。ブレスを吐く状態の下アゴに、膝蹴りを食らわせる。


「ガウフ!?」 


「あなたが頑なにわたしとの対話を拒むなら、わたしとしても強硬手段を取らざるを得ません。わたしはあなたを殺したくない。かといって、利用したいわけではないのです」


 目を回しているドラゴンの頭部に手をかざし、サピロスは対話を試みる。


「おのれ。力を失っていても、魔王か!」


「話だけ聞きなさい。それで納得できなければ、戦えばいい」


 マギマンサーの能力により、ドラゴンが抱えているだいたいの事情はわかった。やはり、「復活させてやる」というファウストゥスからの口車に乗って、洗脳を受けたようだ。


 洗脳を解くと、ドラゴンは多少おとなしくなった。とはいえ、味方になったわけではない。


 ランバートが戦っているフォート族を殺さない限り、ファウストゥスの呪縛による拘束は解けないようだ。


「気をしっかり持ちなさい。偉大なるドラゴンが、こんなところで朽ち果てるのですか?」


「どのみち、我はもう長くない。精神をムリヤリ燃料にされていたのだ。我が魂は削り取られ、今は絞りカスが残るのみだ」


「ひどい」


 精神力を直接破壊されていては、ポーションや治癒魔法でも回復は不可能だ。治療には長い時間をかけて眠るか、そのまま死を待つのみ。


「我を倒したこと、称賛に値する。最後に、我が力をやろう。これでお主も、父ギヤマンと同程度のレベルに達するはずだ。我が無念を晴らせ。これは願いではない。命令、だ」


 ドラゴンのエネルギーが、体内に流れ込んでくる。


 身体が熱くなっていくのを、サピロスは感じた。このぬくもりは、父である魔王ギヤマン・フォザーギルに近い。


 命をかけてフォザーギルに手を貸してくれたドラゴンに、報いる。


「姫、終わりましたか?」


「はい」


 艦橋に戻ると、シーデーがボロボロになりながら砲台に持たれていた。


「クモの魔物の動きが止まったので、もしやと思いましたがな」


「ええ。カタはつきました」


 しかし、サピロスも動けない。相当ダメージを負っている。要塞を止めるだけで精一杯だった。ドラゴンから受け取ったパワーも、制御しきれない。


 ランバートからもらったダイヤのジュエルを握りしめながら、サピロスは眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る