最終章 いま、殴りに行きます

魔族の旅

 魔王グスターヴォが息を吹き返したというので、俺たちは見舞いに来ている。


「まさか、小僧に助けてもらうとはな。見事だった、秘宝殺し。たしか、ランバート・ペイジといったか」


 王宮の寝室にて、グスターヴォが半身を起こす。意識を取り戻したとはいえ、まだベッドから立ち上がれるほど回復していない。


「褒美を取らせよう。なんなりというがいい」


 俺には特に、欲しい物なんてないんだが。


「礼には及ばない」


「謙虚だな。悪くはないが、高貴なる者の施しを断るのは、かえって無礼に当たるぞ」


「では、遠慮なく。オミナスの調査報告は」


「ないな。オミナスの残骸らしきものが、各地で発見されたというが」


 あれからもう、一ヶ月になる。

 ファウストゥスになりすました虚弱公キョジャクコウは、クリムの手で始末されたらしい。そのせいか呪いの装備郡、通称「オミナス」が製造された報告は上がっていない。


 未だにクリムは、行方不明のままだ。ルダニムでの女王殺害容疑は晴れ、指名手配も解除されたというのに。


「まあ、虚弱公が現れたとしても、我々で対処する。安心するがよい」


「ありがとうございます。魔王グスターヴォ。ところで、ジェンマの姿が見えませんが?」


「ああ、あいつなら……」


 グスターヴォがなにか言おうとしたとき、寝室のドアが乱暴に開いた。現れたのは、ジェンマと老執事である。


「姫様、いくらなんでも急すぎます!」


 老執事の言葉に耳を貸さず、ジェンマはグスターヴォにひざまずいた。


「父上、お暇をいただきたく。参上いたしました」


「なに用だ?」


「ワタシはクリム・エアハートを追います。いくら操られていたとはいえ、父上に傷を負わせた男。生かしておくわけには」


 たしかに、クリムはそれで逃げているのかも知れない。


「ほう。惚れた男を追いかけるか?」


「そ、そのようなことは! 失礼します!」


 立ち上がって、ジェンマはスタスタと寝室を出ていく。


「図星をつかれて退散したか。アレも素直ではない」


「旅先で情でも移ったのでしょうね」


「さてな。女の心は、娘だとしてもわからん。お主が人間の男と同行している理由もな」


「女には色々とありますから」


「勝手にするがよい。オレは魔族の長ではあるが、魔族の個人事情に介入しようとは思わぬ」


 グスターヴォから、莫大な褒美をもらう。


「そうだ、グスターヴォ。ギヤマンという魔王が、俺が産まれたときに褒美をくれたらしいが」


 グスターヴォがいうには、どうも俺は、母の母体で死にかけていたという。


 それをグスターヴォが、「月のフィーンド・ジュエル」で助けてくれたそうなのだ。


「お前が産まれたときにはもう、ギヤマンは死んでいた。彼の遺品こそが、月のフィーンドジュエルだ。友を、どんな形であれ復活させてみたくなったのだ」


 俺の身体は、月のフィーンドジュエルでできていたのである。


 父が昔、グスターヴォの配下だったのは驚きだったが。


「かつて部下だった人間を、ほうっておけなかったまでだ。貴様を、オミナス破壊の実験体にしたのかもしれんぞ」


「構わない。おかげで、サピィに出会えた」


 サピィと会うのは、運命だったのかも知れない。

 今度こそ、俺たちは退散する。


「ランバート。振り返りざまに、ジェンマの様子を見てみました」


「どうだった?」


「わずかに、うれしそうでした」

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