バカップル見納め

 続いて、ヒューコにある【災厄の塔】へ。

 ビョルンに会いに行くためだ。


 彼は、かつて神が人間と交配して産まれた、天使族である。

 先に起きた堕天使との戦いで、ビョルンは命を落とした。「神」の奇跡を得る代償として、ビョルンは一生この塔から出られない。塔の管理者を、任されたからだ。


「あーんっ」


 相変わらず、ビョルンは妻のリュボフに食事を食べさせてもらっている。


「ああ、うめえ。やっぱ地上のメシは最高だな。お前らも、あーんくらいはやったのか?」


「ねえよ。するかっての」


 運搬係のルーオンとコネーホが、その光景を白い目で見ていた。


「でも、コネーホは女の子だから、やってもらいたいわよねえ?」


「いえ。まったく」


 コネーホは、ドン引きしている。


「だから、コイツとはバディだっての。恋人同士とかじゃねえんだよ!」


「そうそう」


 ふたりとも、カップル呼ばわりされて、関係性を否定した。


「しかし、ルーオンが死にかけていたとき、コネーホは真剣に泣いていたが」


「ランバート、しっ!」


 サピィが、コメントする俺をたしなめる。


 なにか問題があることを、言っただろうか?


 言ったのかも知れない。あれだけカップル説を断固否定していた二人が、黙り込んでしまったである。


「こりゃあ、ランバートのせいだな」


「そうね。朴念仁って空気が読めないから、周りのカップルに飛び火したりするのよね」


 かもしれない。だが、俺が朴念仁とは?


「どういう意味だ?」


「自分の胸に手を当てて考えるんだな。それか、自分のパートナーの声に耳を傾けるとか」


「サピィはもう、パーティの一員とかそういう領域じゃない。公私共に、世話になっている」


 俺の発言に、全員が凍りついた。


「なんだって? いつの間にそんな関係になりやがった?」


「人間って魔物と交配できるのかしら? 異種族ならわかるけど。実に、興味があるわ」


 ビョルンとリュボフが、俺のことであらぬ誤解をしているようだ。


「ランページ商会だけじゃない。各国とルダニムとの交易にも、尽力しているんだ。コナツも含めてな」


 元はクリム捜索に手を貸してもらっていたのだが、ゾーイはクリムの指名手配を解消しただけでなく、ルダニムの永住権も渡すという。


 しかし、当のクリムは未だに行方がわからない。


「私生活では?」


「俺は結局、すべてが終わってもレアドロップしないんだ。幼い頃に俺の身体に埋め込まれたフィーンド・ジュエルの影響でな。しかし、そのおかげでジュエルが手に入っている。それだけじゃない。そばにいてくれるだけで、サピィは俺を癒やしてくれるんだ」


 俺の話を聞いて、ビョルンとリュボフが「は~あ」とため息をついた。


「しょーもな」


「そんなの、ノロケにもならないわよ。もっと気の利いた言葉をかけてあげなさいよね、ランバート」


 いけなかったのか。


 サピィの顔を見ると、たしかにやや不満げだが。


「すまんサピィ。お前のことはすごく慕っているんだが、心が満たされすぎてまったく言葉にできない。こんな俺だが、ついてきてくれるか?」


「……はいっ」


 どうにか、サピィは納得してくれたようだ。


「ああやるのよ、ふたりとも」


「だから、オレたちはカップルじゃねえし!」


 リュボフのアドバイスに、ルーオンが反抗する。

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