ドワーフモンクの帰郷

「おっ! ランバートじゃん! えっと……そっちは?」


 トウコに、サピィとシーデーがあいさつをする。


「お世話になったな! あたしはトウコだ! ありがとうな!」

「ええ、よろしく。あ、よろしければ、キャンディなどいかがですか?」


 手のひらサイズの缶を、サピィがトウコに見せる。フタを開けると、カラフルなアメが入っていた。フィーンド・ジュエルに見えなくもない。


「うおー。ありがとーっ。いただきます。もぐもぐ……」


 トウコはアメの色を見ることもなく、手のひらに出した。そのままバリボリと口の中へ詰め込む。


「あーうめー。やっぱ疲れているときは甘いもんだよなー」


 情緒のかけらもねえ。とても、さっきまで死にかけていたヤツとは思えない。


 その後もトウコは、携帯食のジャーキーを全部食ってしまう。俺が持っていたアメ玉すら目ざとく見つけて頬張った。ジャーキーとアメって……。


「ご無事で何よりです。トウコさん」

「おお、キンバリーありがとなー」


 キンバリーの運転で、アイレーナの街へ。


 さすがにトウコもへばっているのか、アイレーナに付く前に眠りにつく。


「俺が助けた、女ファイターはどうなった?」

「意識が戻ったそうです。すぐに立ち上がったそうですよ。あのダンジョンで何が合ったのか、調査団共々事情を聞いています」




 アイレーナの門前には、シーデーが。


 コナツとその妻も、トウコの帰りを待っていた。ハンターギルドに、トウコ発見の報告をしたためだろう。


「父ちゃん、帰ったぞーっ!」


 機動馬車から降りて、トウコが拳を上げた。ブンブンと手を振る。


 その姿を見るや、コナツたちがトウコへかけつけた。


「トウコ!」


 コナツ夫妻が、トウコを抱きしめる。


「おいおいよせよ、父ちゃん母ちゃん。あたしが子どもみたいだろー?」

「バカ! 子どもを心配しねえ親があるかってんだ!」


 トウコを抱きしめたまま、コナツ夫妻は涙で顔をグショグショにした。


「ランバート! サピィちゃん! シーデー! ウチのバカ娘を助けてくれて、本当にありがとう! この恩は一生忘れねえ!」

「あたしからも、お礼を言わせてもらうよ。どうもありがとう!」


 コナツと妻が、深々と頭を下げる。


「あ、いやあ。あはは……」


 経緯を知っているため、なんとも言えない空気が漂う。

 まさか、「お前の娘は蘇生魔法をかけても意識が戻らず、エサにつられて起きました」なんて言えるわけがない。


「さあさあ、うちでゴハンにしようか」


 コナツの妻が、エプロンを締め直す。


 久々に帰宅したトウコは、母が作ったちゃんこ鍋をかっ食らう。コナツの弟子にすら分けない勢いで。おかげでコナツの妻は、鍋を三つ作る羽目に。


 給仕役である女弟子の輪に、俺たちも加わった。周りが、あまりにも忙しそうだったから。中でも魚のつみれを手のアタッチメントで練り込むシーデーは、女子の間でたいそう重宝された。さすが元執事である。


 女性の弟子が料理をしているのは、決して男女間に差別があるわけじゃない。男性弟子が以前、手を洗わないで料理を始めようとした。なので、任せられないとコナツの妻が言ったせいである。なにより、「安心して、うまいものが食いたい」という考えからだった。


「ごめんね、手伝わせちゃって」

「いえ。お世話になっていますから、おもてなしをしたくて」


 サピィが丁寧な手付きで、白菜を切る。「いーのいーの。こんなのザク切りでいいんだからさ」と、コナツの妻からアドバイスをもらいながら。


「すいません。お邪魔して。お手伝いしますね」


 受付嬢のキンバリーも、慣れない手付きで包丁を握る。


 本来なら、コナツの元へ向かう前にギルドへ報告する予定だった。


 しかし、トウコの空腹がとどまるところを知らない。


 なので、キンバリーにコナツの工房まで来てもらったのである。


 鍛冶屋の扉をノックする音が。


 女弟子が対応すると、その人物は俺と受付嬢に用事があるという。


「ごぶさたね」

「おお。お前は」


 来客したのは、例の白猫シーフだ。俺に、ハンター仲間の探索を依頼した女性である。

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