リザレクション

 きっと近くに……いた! 【ファミリア】が、道の奥で強く光り輝く。


 全身にクモの巣が絡まった女性を、発見する。


「大丈夫か!」



 そこにいたのは、女性のファイターだった。

 ドワーフで、金色のビキニを思わせるアーマーで武装している。

 依頼者のシーフから聞いた特徴と一致した。多分、彼女がシーフの探していた仲間だろう。


「息があるな。しっかりしろ!」


 女ファイターの頬を叩き、意識があるかを確認する。

 眠っているだけのようだ。しかし、衰弱がひどい。頬もやせこけている。心臓は動いているが、危険な状態と見ていい。


「よく無事でしたね。三日も食べていないのに」

「ドワーフの胃は、特殊なんだ」


 一週間分の食事を、腹に溜め込めるのである。



「シーデー、彼女を連れて先に帰っていてくれ。頼めるか?」


 受付嬢キンバリーの手はず通りなら、もうすぐ救護班が到着するはずだ。シーデーは、それに乗って帰ってもらう。


「お安い御用です」


 ファイターを抱き上げ、シーデーは外へと急ぐ。


「お二人は、まだここに?」


「ああ。嫌な予感がする」


 あの女ドワーフは、髪飾りの主ではなかった。

 きっとまだ、どこかに……。


 ファミリアが反応した。


 道の奥に、クモの巣に絡まった少女がいる。


「いた! 今助けてやるからな!」


 クモの巣に引っかかっていたのは、ドワーフの少女だった。僧侶の服であるワンピースの貫頭衣を身に着け、武器の類を持っていない。


「ランバート、この方は? お知り合いですか?」

「トウコ・フドー。コナツの娘だよ」


 やはりだ。首飾りの持ち主は、彼女だったか。


「アラクネに捕まった感じではないな」

「わかるんですか?」

「自分で自分をくるんでいる」


 クモの巣をカモフラージュに使ったのだろう。

 コイツがそこまでするとは、どれだけの達人を相手にしていたのか?


「だれにやられた? トウコ!」


 俺は、横たわるトウコに話しかける。しかし、返事がない。


「大変です。呼吸が浅くなっています」


 生体エネルギーを吸われ続けていたんだ。


「命に危険が及んでいます。【リザレクション】で、蘇生しましょう」


 戦闘不能になっている、死の一歩手前にある状態から一気に蘇生する術だ。心臓は正常に動くだろう。そこからは、こいつの生命力にかけるしか。


 サピィが俺の向かいに座り、トウコの手を握った。


「蘇生なさるがよかろう、ランバート殿。我が周囲を警戒しておく」


 敵に備えて、シーデーが指マシンガンを両手で構える。


「助かる」


 俺は、武器からダイヤを取り外す。トウコの心臓に近い位置に持たせた。


「そうやって、なんのためらいもなく、誰かのために自分の強さを捨てられる勇気、すばらしいと思います。ランバート」

「ありがとう。だが、これでもコイツが目を覚ますかどうかは五分五分なんだ」


 こうしている間にも、トウコはだんだんと唇の色がなくなっていく。


「俺がお前に魔法を送る。それで足りるか?」

「十分です! いきます。【リザレクション】!」


 サピィの魔法が、トウコの真上で炸裂する。


 暖かい光が、トウコに降り注いだ。

 トウコの唇が、血色を取り戻す。


「おお、血が通いだしているぞ!」


 蘇生には、成功したようである。


 しかし、トウコは目を覚まさない。心臓は確実に、鼓動を再開したというのに。


「なぜだ? どうして目を開けないんだ? トウコ俺だ! ランバートだ! わからないのか!?」



 ぐうううう。


 

 必死で呼びかけていると、気の抜けた音がトウコの腹から漏れ出す。



「お腹が減っていただけのようですね?」

「まったく、世話の焼ける女だぜ。ほらよ」


 アイテムボックスを開き、俺は携帯食を取り出した。ビーフジャーキーだ。


「はあ!」


 トウコがガバっと半身を起こす。俺の手ごと食うのではないかという勢いで、ビーフジャーキーにかぶりついた。


「痛ってええ! 放せ!」


 俺は、トウコの頭を振りほどく。


 ビーフジャーキーが、またたく間にトウコの口へと消えていく。犬かよ!


「現金なやつだなぁ。リザレクションではなく、非常食で復活するとは」


 かじられた手を振って、トウコの無事を確認した。

 とにかく、保存食を持ってきて正解だったぜ。


「よかった。いつものトウコだ」


 安心して、俺は腰を落とす。

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