照れるドワーフモンク

 白猫シーフの隣には、女ドワーフ剣士が。俺たちが助けた女性である。トウコよりグラマーで、装備の露出度も高い。


「お礼を言いに来たの。あなたのおかげで仲間と再会できたわ。ただ、一人だけね」

「お前らも食っていけよ。腹が減っているだろ?」


 奥さんの許可も取らずに、コナツが女二人を家にあげようとした。


 二人は遠慮をしていたが、思わぬ人物が催促する。


「私も、お話を聞かせてください」


 受付嬢の、キンバリーだ。


「だな。詳しい情報が知りたい」


 俺と受付嬢から頼まれ、「では」と二人は家に上がった。




「ありがとう、ランバートさん、サピィさん、シーデーさん。もういいから、あんたたちも座りな」


 コナツの妻が、弟子たちを食卓に座らせる。


「はい。いただきます」


 俺は手ぬぐいで手を拭く。

 

「すまないねえ。本当はあんたたちが主役なのに、ゴハン作らせちゃって」

「いえいえ、主役はお嬢さんのトウコですよ。トウコには昔から、世話になってますから」


 俺が厨房に立っているのは、巨大ヘビの解体があるからだ。【セグメント・セブン】で倒したフロアボスである。この肉は鶏肉に似ていてうまいのだが、毒を持っているのだ。俺なら、毒のある箇所を除けて調理できる。


「あの子を助けてくれて、ありがとう」

「無事でなによりです。では、いただきます」


 俺は着席し、大蛇鍋をもらった。ダシが効いていて、コクがある。白菜はサピィと女ドワーフが切ったものとで、大きさが明確だった。


「下手くそで、ごめんなさい」


 責任を持って、サピィが繋がった白菜を処理する。


「手伝った、という事実が大事なんだ。腹に入れば一緒さ」


 俺はあえて、サピィの切った白菜を率先して口の中へ。


「そうだぞ。ありがとうなサピィ!」


 トウコも、俺から取り上げるかのように、サピィ担当の白菜を貪った。


「今日はありがとな! お前たちがいなかったら、娘はどうなっていたか!」


 エールで喉を潤しながら、コナツが俺に頭を下げる。


「いいんだよ。俺だってトウコがいなくなったら寂しい」

「うれしいことを言ってくれるねえ!」


 俺は甘いシードルで、コナツと乾杯した。


「ほら、あんたもたんとおあがりよ」


 コナツの妻が、熱した東洋産の酒を小さなグラスに注ぐ。


「はい。いただきます」


 キンバリーが会釈し、酒を煽った。いい飲みっぷりである。


「勤務中なのに、いいのかしら?」

「いいって。無理してきてもらったんだから」


 恐縮するキンバリーに、俺は具の入った椀もススメた。


 本当に、トウコは鍋を一人で平らげた。一〇人前の鍋には、スープ一滴すら残っていない。


「ランバート。トウコさんって、すごい食欲ですね?」


 サピィが、やや引き気味でトウコの食いっぷりを観察していた。


 一人で一〇人分くらい食うからな、トウコは。


「そうなんだ。飯さえ食えたら、トウコはどこへでもついていく」


 トウコがいるせいで、コナツは屋台骨が傾いたことが幾度もあった。


「はーあ。ごちそうさま。マジでおっ母ぁの料理は最高だな!」


 腹をさすりながら、トウコは手を合わせる。


「よかったよ。あんたが食い扶持を減らすために、家を出ていっちまったから」

「あー」


 トウコは照れ隠しのように、お茶をがぶ飲みした。


「それに、アタシだってわかってたんだ。あんたのために、父ちゃんが無償で高価なアイテムを作っちまうことも。だからあんたは、『父ちゃんの作った装備なんていらない!』って、飛び出しちまったんだろ?」

「その話、俺も聞きましたよ」


 上機嫌になると、トウコは決まって話してくれる。


「う、ううう」


 さっきまで活発だったトウコが、急に縮こまった。


「なんて親孝行なヤツなんだ! オレの自慢の娘だぜ!」


 コナツが涙ぐむ中、トウコが膝を叩く。


「そそそそ、そんなことより報告だ、報告!」


 トウコに催促されて、ようやくみんなが集まった理由を思い出した。


「お前ほどの使い手が負けるとは。トウコ、誰にやられたんだ?」

「新しく入った女だ! 赤いローブを着たヤツ!」

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