テレポーターのトラップ

 トウコは、負けた当時の様子を語ってくれた。


「隣の街で、セグメント・セブンより難易度の高いダンジョンを攻略していたんだ」


 山を一つ越えた先に、ペールディネという街がある。ここよりも文明が発達していて、その分治安もいい。調査隊も、この街よりは腕が立つだろう。


 ただし、ダンジョンの難易度はこちらとは比較にならない。ランダムダンジョンであるセグメント・セブンが、頭一つ抜けているだけなのだ。この大陸で稼ぐなら、ほとんどのハンターは危険なペールディネを選ぶ。


「ボスを倒して、宝箱を発見したんだ。これまでにないデカイサイズの。でも、トラップが厄介でさ」

「お前らが苦戦するってことは、【テレポーター】のワナだったのか」


 パーティをランダムに別のフロアへ強制移動させる、悪質なトラップだ。フロアに飛ばされるなら、まだいい。下手をすると別のダンジョンや、違う大陸に飛ばされたりする。ダンジョンの壁と同化してしまった者も。


「過去にイキった男性ハンターが、テレポータートラップの解除に失敗をした。すぐ近くにあった王宮の女湯にダイブしたそうだぞ」

「あやうく吊るし首にされるところだったらしいな、そいつ」


 そんな経緯もあり、トラップ解除に長けた上級ハンターでさえ、テレポーターというだけで回避するくらいである。


 あきらめて帰ろうとしたとき、事件は起きた。


「そしたら、全身を昆虫の甲殻みたいなアーマーで全身を覆った魔法使いが出てきてさ! やたら強くてさ!」


 魔法使いでありながら、徒手空拳も達者だったとか。歴戦のハンターをもってしても、手強かったらしい。


「敵はハンターだったのか? モンスターではなく?」

「あたしたちと同じ、ハンターみたいだったぞ」


 トウコは、俺の疑問に首肯した。


「それでも善戦はしたんだ。そしたらさ、ランバートの代わりに連れてきた女が、そいつとグルだったんだ。だから、対策されちまった!」


 三分の一が、そのアーマー男によって倒されたという。


 全員を逃がすため、クリムが囮になったらしい。現在はぐれてしまったところだという。


「で、アーマー男がクリムと対決して、女は残党狩りを始めたんだ。あたし頭にきてな。クリムに加勢して、その辺にあった宝箱を蹴飛ばしたんだ。そしたらワナが発動して……」


 トウコは、このトラップを無理矢理に起動させた。


 いつの間にか、セグメント・セブンに飛ばされたらしい。


 そこを、俺が見つけたと。


「あたしも驚きだったぞ。まさか、セグメント・セブンに入るとは」

「セグメント・セブンは、他のセグメント・ダンジョンと通じているからな」


 俺たちハンターが【セグメント・セブン】と呼ばれているダンジョンは本来、地下通鉄だった。アイレーナとペールディネとを、トンネルで繋ぐ。モンスターさえ現れなければ、今も電車は行き来しているはずである。


「ハンター証は、通行手形代わりになるからな。行き先を特定されてもおかしくない」


 その場に固着を強いられるモンスターだと、こうはいかない。ハンターだから、ダンジョン間を行き来できたんだ。


「アイレーナに通じるポータルが、ペールディネにもあるじゃないですか?」

「ギルドを経由できなかったんだ」


 助けを求めたくても、ペールディネへの道を塞がれていたらしい。


「うまく逃げおおせていたらいいんだがなー」


 腕を組みながら、トウコがうなる。


 テレポートを使わざるを得なかったわけだ。


「相手の特徴を、もっと確認させてくれないか?」

「ああ。こんな感じのヤツだ」


 トウコが弟のスケッチブックを借りて、クレヨンでイラストを書き記す。


 できあがったイラストは、ローブを目深にかぶった少女だった。装備品から、サムライによく似ているが。


「サムライ……待ってください! コイツの本名はジェンマです」

「誰だそいつは?」

「父を、落涙公を襲撃した張本人です!」

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