魔術師系サムライ VS ガチサムライ

 俺と【陽炎】のカワラザキが踏みしめるのは、太い鉄骨のみ。


 狭い足場の上で、決闘となる。


 サムライ同士の対決は、いつかは来ると思っていたが。まさか、こんなに早く実現するとは。


 こちらの得物が刀、相手はハルバートという違いはあるものの。


 他の仲間たちは、アストラル界へ潜ったサピィとビョルンを守るために戦っている。


「おらあ、【ディメンション・セイバー】ッ!」


 俺の一八番である衝撃波攻撃で、カワラザキをけん制した。


「むうん!」


 しかし、カワラザキは十文字槍を振り回しただけで、俺の衝撃波を消滅させる。


「くそ。では連続で! おらあああ!」


 属性を変えつつ、俺はさらにセイバーを撃つ。


 だが、そのことごとくを、カワラザキは槍で防いだ。


 やはりあれだけの達人が相手では、衝撃波攻撃は通用しないか。


「参る!」


 鉄骨の足場をへし折る勢いで、カワラザキは踏み込んだ。


 俺は、十文字槍を眼前ギリギリまで引き付ける。


 槍の先が当たる寸前、俺はサヤで攻撃を受け止めた。だが、さばききれない。槍が、俺の頬をかすめた。


 しかし、それも想定ズミ。


「おらあ、【雷斬らいきり】!」


 ジャストガードからのカウンターで、刀を抜く。居合で、相手の首を狙う。


「むおっ!?」


 体をねじりながら、カワラザキが跳躍した。また、鉄骨が折れ曲がる。


「【散骨】のデーニッツを倒した【秘宝殺しレア・ブレイク】、対策はさせてもらっている」


 カワラザキが、はるか後方へ着地した。モモの部分から、盛大に血が吹き出す。


「ぬう、見事!」


 一瞬、カワラザキが膝をついた。が、足に力を入れて無理やり止血する。


「所詮は術士あがり、サムライに転職したばかりと侮ってしもうたか。いやはや、実力はホンモノ! 相手にとって、不足なし! これほどの強者とは!」


 段々と、カワラザキのテンションが上っていく。強いやつと戦うことで、ボルテージが上がる性格らしい。


 俺にとっては、あいつは厄介である。とっさに【秘宝殺し】まで、俺は発動させた。レアアイテムなら、武器を失っているはず。なのに、カワラザキの十文字槍に被害はない。


「わかるぞ。それはレアアイテムではないな?」

「いかにも」


 あの武器のレアリティは、ノーマルだ。それを、モンスターのパーツで強化している。


「お前の武器は、海賊版ブートレグだな?」


 ブートレグとは、人工の【呪われたレアアイテム】だ。


「左様。未だブートレグの技術は、我らの総大将を介して生きておる」


 ヴァイパー族の協力がなくても、まだブートレグを開発できるようである。


「お前たちのボスは、俺たちが倒した」


 カワラザキは、首を振った。


χカイなど、実働部隊の下部組織に過ぎぬ。もっと上位に、世界を支配せんと動く組織があるのだ」


 その人物は、χどころか堕天使すら操るという。


「お前たちの、真のボスとは?」

「錬金術師、ファウストゥス」


 以前、サピィが話してくれた人物だ。そいつのせいで、サピィの友であるジェンマが操られたと。


「我やデーニッツ、【弔砲】のプロイセンは、χを指導する側にいた。ラムブレヒトは、その遥か高みにおる」


 コイツより強いのか。ラムブレヒトは。


「やつは人でありながら、強さはまるで魔物よ。我はあやつを斬るため、組織に協力をしておる。この歳で生きる目標ができるとは。愉快よのう」


 まるで子どものように、中年の男は夢を語る。


「お前たちの好きにはさせん」

「おうおう、その意気よ若造! 我にさらなる高みを見せよ! お主を斬ることにより、我はラムブレヒトに近づく!」


 高揚した声を発しながら、カワラザキが斬りかかってきた。


 ただでさえ戦いづらい足場は、ますます踏ん張りがきかなくなっている。


 カワラザキの動きを止められるのは、俺しかいない。それでもダメなら、トウコに託すつもりだ。


 手や足からの気弾で、トウコは堕天使を撃ち落とす。あんな技、いつ覚えたのか。


「トウコ、俺が死んだら、後は頼んだ!」

「バカ言うな! 負けを意識しながら戦うな! 本当に負けちまうぞ!」


 武闘家らしい答えが、トウコから返ってくる。ごもっともだ。戦士として、これ以上のアドバイスはない。


「【熟達者アデプト】にその身を託すか。たしかに、あのオナゴも恐ろしい強さよ。だが、そんな後ろ向きな戦いでは我に勝てぬ!」


 これまでの攻撃とはうってかわり、カワラザキは連続での斬りかかりへ移った。老人とは思えないほどのラッシュである。


 俺は受け止めるのに必死で、反撃のスキすら与えてもらえない。


 これが、カワラザキの本気か。


「くう!?」


 徐々に追い詰められ、俺は鉄骨から、足を踏み外した。


「勝機!」


 カワラザキが、突きの姿勢に入る。


「死ね! そして我が糧となれい!」

「なんの!」


 俺は、カワラザキの槍を足場にした。


 カワラザキの武器は鉄骨を貫通し、動かなくなる。


「おのれえ!」


 強引に、カワラザキは十文字槍を引き抜く。


 足の装備に取り付けてあった風のジュエルを発動させ、跳躍する。飛んでいなければ、俺は真っ二つにされていただろう。


「フハハ! 落ちてこい、若造! 穴だらけにしてくれる!」


 槍を構えて、カワラザキが待ち構えた。


 俺の身体は、鉄骨から離れすぎている。足場はない。俺は地面に墜落するか、おとなしくカワラザキに殺されるかしかなかった。ジュエルがなければ。


「くらえ、【雪月花せつげっか】!」

「雪っ!」


 刀を抜き様、相手のみぞおちを突く。


 勢いがついていたカワラザキの腹が、くの字に曲がった。


「なあ!? 真上から風の魔法を使って、急降下してきただと!?」


 そう。俺は風魔法を足元に発動させて、カワラザキの方へ飛びかかったのだ。


 攻撃の後、俺は刀を鞘に納める。一瞬で、マナを刀に込めていく。


「っちい!」


 槍を回転させて、カワラザキは攻撃の軌道を立て直そうとした。


「月っ!」


 逆袈裟に斬りかかって、俺は相手の腕の腱を奪う。


 鞘に刀を納め直し、再びマナを充填させる。


「があああああ!」

「花ぁ!」


 俺は鉄骨を踏み抜き、カワラザキの胴を切り払った。


「ぬう。三連続の居合を、あのタイミングで。見事……」


 胴体が真っ二つになったカワラザキが、地面へと落下していく。


 攻撃を終えた俺は、鉄骨へ着地する。だが再び、バランスを崩しかけた。強者相手の三連続攻撃で、精神力が大幅に削れたせいだろう。

 まして俺は、体力や筋力ではなくマナを使用した。

 大魔法を撃ったときより遥かに大きな疲労感が、身体中を襲う。

 足を踏み外した。このままでは、地上へ真っ逆さまだ。 


「大丈夫か?」


 ふらついた俺に肩を貸してくれたのは、トウコである。


「ああ、すまない」

「よくやったな。言っただろ? 勝つって思ったら勝てるって」

「そうだな」


 俺は、カワラザキの落ちた先を見下ろす。


 下から、なにかジュエルが浮き上がってきた。


「どうしてだ? あいつは魔物じゃない。どうしてジュエルなんかが」

「きっと、あの武器だ。あれがモンスターだったんじゃないのか?」


 武器が意思を持ってモンスターになったのではないかと、トウコが推理する。


 まさかとは思うが、信じるしかなさそうだ。


「なんだ、これは。グニャグニャのオーブだな?」


 オーブサイズの曲がったジュエルが、俺の手に収まった。


「それ、マガタマっていうんだ」


 東洋に通じる、魔力を秘めた球だという。


「いいなー記念にとっておけよ」

「そうする」


 俺は、懐にジュエルを収めた。サピィと相談して、何に使うか決めるか。


「サピィが帰ってきたぞ!」と、トウコが叫ぶ。


 アストラル界から、サピィたちが戻ってきた。


 彼女の手は、防護服を来た少女を掴んでいる。


「うわなんだ、サピィが宇宙人を連れてきたぞ!」

「残念だけど、宇宙人じゃないわ」


 防護服の下は、声からして女性のようだ。


 女性が、宇宙服のようなローブを脱ぐ。


「え、エトムント!?」


 そこに現れたのは、エトムントそっくりの女性だった。

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