1-5 黒幕の配下を、殴りに行きます

モンクの戒律

 一夜明けて、俺は次の行動の相談をした。


 朝食の席には、サピィとシーデーの他に、トウコもいた。俺たちの誰よりも食っている。


「体調はもういいのか?」

「バッチリだぞ!」


 トウコは、コーンフレークを何杯もおかわりした。一日で、これだけ回復するとは。


「差し当たって、当分はトウコのレベリングだ」

「あたしはもう十分に強いぞー」


 口にフルーツを大量に詰め込みながら、トウコは細い腕に力こぶを作る。それでも腕は盛り上がらない。脂肪が多すぎなのだ。


「そうじゃない。俺たちパーティのレベリングも兼ねるんだ」


 俺はトウコを知っているが、サピィたちはトウコのバトルスタイルを知らない。

 連携が取れないとなると、不利になる。


「よし、またセグメント・セブンに潜るぞ」


 トウコを鍛えるなら、あそこくらいしかない。 

 

 

 工房へコナツが引きこもっている間、俺はひたすら【セグメント・セブン】に潜った。ジュエル集めと、トウコのレベリングのためである。


「くらえ【ディメンション・セイバー】! オラオラァ!」


 先陣を切り、俺はモンスターの集団に向けてイクリプスを振り回した。


「チェストォ! 回転蹴り!」


 トウコが、魔物の群れに五連続ソバットを食らわせた。


 風のエンチャントを得たキックで、魔物は吹っ飛ぶ。


 最初こそ抵抗していたが、トウコはすぐジュエルの付きの装備に順応した。さっそく、新たな技を独自で開発する。


 トウコの装備は、上が反射効果のあるトパーズ装着の肩当てだ。


 ノースリーブのシャツは、なんの加護も付けていない。

 が、ネックレスにはエメラルドの加護を付与している。


 両手両足には、肩当てと同じ軽い金属が使われていた。

 両腕に腕力増強のルビー、両足はエメラルドで加速度アップさせている。


「父ちゃんが作った割には、高性能だな」

「何をおっしゃる。お父上は我すら改造したのですぞ?」

「そっかー。よろしくなシーデーッ!」


 シーデーしかいなかった前衛に、トウコが加わった。

 そのおかげで、大幅に殲滅力がアップしている。

 火力において、申し分ない。


 とはいえ、武器を使おうという感じはなかった。いつものように、素手で戦う。装備に金をかけたくないということもあるが、何より自分の拳を信じすぎていた。


「トウコさんは、装備品がお嫌いなのですか?」

「そうじゃないぞ。アクセサリとかは付けているからな。武器より殴るほうが強いだけなのだ」

「なるほど。てっきり、モンク職の教義か、戒律なのかと」


 モンクやプリースト職には、「刃物を持ってはいけない」など、戒律を守っている宗教もある。

 多くの聖職者は、戦争介入により本業がおろそかになることをよしとしていない。政治介入を防ぐなんて理由もある。


 敵を倒した俺は、バトルスタッフを拾う。

 術士が魔法を使うための杖ではない。物干し竿のように、なんの装飾もない金属の棒である。


 俺は、バトルスタッフの装飾にアメジストとエメラルド、ルビーを仕込んだ。


「棍術は必要なんじゃないか?」


 ジュエルで強化したスタッフを、俺はトウコに投げてよこす。


「いるかなー、棍術なんて?」

「一対多数の戦闘や、防御には必要な技術かもな」


 さっそく、レッサーデーモンが二体も出現した。口から火炎の弾丸を放つ。


「それもそうか!」


 トウコはバトルスタッフを振り回す。


 デーモンクラスの放つ火炎弾を、はね返した。


 自分の撃った炎の弾で、デーモンが焼け焦げる。


「おーっ! これは当たりかも知れん!」


 トウコは、スタッフを地面に突き刺した。棒高跳びの要領で、バトルスタッフを地面に叩き込んで跳躍する。旋回の回転力も合わさって、高々と飛ぶ。


「チェストォ!」


 そのまま落下して、トウコがスタッフによってレッサーの頭を叩き割った。

 もう一匹のレッサーのアバラを、薙ぎ払いで粉砕する。

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