クエレブレ
「次に死にたいやつはどいつだ? チェストチェストチェストォーッ!」
トウコはバトルスタッフで敵の攻撃を受けつつ、拳を叩き込むスタイルに切り替える。
囲まれたら、ザコなら棍で打撃を、ボスクラスなら拳か蹴りを叩き込んだ。
デーモンをキックで撃退できるのは、トウコくらいだろう。
「まだボスが生きています」
ジャージャー・デビルが、二体に増えている。
「どうしてだ? 魔石は回収したはずだ!」
「レッサーデーモンです。彼らが大量にあのヘビの中に取り憑いて、更に強いモンスターへと変質させたのです!」
サピィが言っているうちに、もう一体増える。
しかも、三体のヘビ型ボスは形が変わっていた。
前と後ろに二対ずつ、足が生える。
羽がより巨大化した様は、小さなドラゴンを思わせた。
「あれはドラゴンの【クエレブレ】です! 小型とはいえ、油断できません。進化してしまったようです!」
恐るべきはデーモン族か。ヤツらが跋扈してしまったせいで、ダンジョンが手のつけられないものに。
「進化したってことは、ドロップは期待していいってことだよな?」
こんな逆境でくじけるような、トウコではない。
「二体は任せたのだ。もう一体はあたしがやっつけるのだ!」
言いながら、トウコはその場で両手を胸の前に。虚空を腕でかき混ぜるような仕草を始めた。
「トウコさんは、なにをなさっておいでで?」
「気を練り込んでいるんだ。大技が来るぞ」
させるかとばかりに、一匹のクエレブレがトウコへと爪を伸ばす。
「そうはいかん。おらあ!」
俺たちはトウコをかばうように、小型ドラゴンの腕を切断した。
クエレブレは強靭な皮膚を持つが、特に耐性や弱点はなさそうだ。
どの攻撃も通用するだろう。だったら。
「ディメンション・セイバー乱れ打ち、おらおらぁ!」
遠くから、衝撃波を放ってクエレブレのウロコを切り刻む。
一点集中が功を奏し、ドラゴンの首が宙を舞った。
どうにか、クエレブレを一体仕留める。
「やったぞ。後はお前の獲物だ!」
「うむ!」
クワッと、トウコが目を見開く。同時に、両手を前に突き出した。
「くらえ、【プラズマ・ボンバー】だ!」
ピンク色の球体が、トウコの両手から発射される。
トウコの気で作られた桜色の塊が、大蛇に着弾した。
敵の体内に浸透し、小型ドラゴンが内側から破裂する。
「やっぱりランバートがいると、大技を出せていいな!」
素材を回収しながら、トウコはゴキゲンな笑顔を見せた。
「他のメンバーだとずっと前衛で殴ってないといけないから、色々試せなかった!」
これからもよろしく頼むぞ、とトウコは親指を立てた。
しかし、もう一体がサピィへ尾を振り下ろしす。
「サピィ!」
「ご安心を。【ミラージュ・スラッシュ】!」
魔力でできた無数のナイフが、サピィの眼前できらめく。
鋼鉄の尾を、バターのように切り裂いた。
自動発動する、魔術師系の斬撃スキルだ。いつのまに、あんな技を?
予想外の攻撃に、クエレブレが怯む。
その首に、シーデーが組み付いた。
「今です、お嬢!」
「はい」
サピィは、手からスライム状の液体を放つ。
シーデーに組み付かれているドラゴンの頭を、スライムが飲み込む。
「何をする気だ?」
「このモンスターの出どころを探ります」
記憶を吸い上げているらしい。
グフッと大きな泡を吐き、クエレブレが絶命した。ぐったりと身体を横たえる。
「この先です」
サピィが、暗闇の向こうを指差す。アラクネクイーンを倒した場所の、さらに奥だ。
「たしかあそこは、ペールディネ側のルートだな」
「無数のデーモンが、ペールディネ側に置かれた魔法石に導かれているようですね」
あの向こうにも、同様の岩か、それ以上の存在があると。
「ここからは危険です。私一人で参ります」
サピィが、物騒なことをいう。
その瞳には、覚悟の炎が見えた。
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