ゴッド・ノイズの咆哮

『何のマネだ?』

「サイドカーに乗るがよい。案内する」


 半信半疑な様子なれど、ゼンはサイドカーに乗る。


「トウコ殿は召喚獣で陽動を」


「おっしゃ」と、トウコが先行した。


「そのスキに、我がゼン殿を運んでさしあげよう。後はお嬢とフェリシア殿、頼みますぞ」


 事情を察知し、フェリシアが機動の馬を召喚する。


「心得ました。お願いします、シーデーっ! ランバート、運転をお任せしても?」

「もちろんだ!」


 サピィの声に、俺はバッチリだと答えた。


「省エネモードで参ります。標準速度しか出せませぬぞ」

「構わん。行くぞ」


 俺はエンジンを吹かして、バイクを進ませる。


 フェリシアも召喚した馬に乗って、前進した。


「オラオラ、こっちだぞー!」


 ブレスを回避しながら、トウコがヴァスキーを煽る。


「どこ狙ってやがる? あたしはこっちだぞノロマが!」


 ヴァスキーを見上げながら、トウコはジグザグに移動した。


 トウコの誘導がうまい。

 さりげなく避難民からヴァスキーを遠ざけつつ、戦車隊に攻撃させるのも忘れていなかった。

 ヘイトを自分に向けさせながら、自分以外への注意も怠らせない。


「サピィ、どこまでゼンを連れていけば?」

「頭部です! 脊髄から行きましょう!」


 ここで、一旦サピィと離れた。


「ミスるなよ。俺は、お前を信用しているわけじゃない。しかし、サピィがお前を信じている。ならば、俺はサピィが信じているお前を信用する」


 サイドカーに乗るゼンへ、本心を語る。


 俺の言ったことがわかったのか、ゼンも俺に向き直ってうなずいた。


「よし、取り付くぞ! 捕まっていろ!」


 俺はバイクを加速させて、ヴァスキーの背中に飛び移る。


 ヴァスキーが、大きく体を揺らす。俺たちに気づいたか。


「ヤバイ!」


 ヴァスキーのシッポ攻撃が、俺たちに向けられる。

 自分の背中にダメージを追うことも構わず、ヴァスキーはシッポを自分に振り下ろした。


 回避して、直撃を免れる。

 骨が砕ける音がした。そこまで俺たちは邪魔か。


「もう一発来るぞ!」


 トウコが、知らせてくれた。


「やるしかない! おらああ!」


 俺は渾身の力を込めて、シッポに斬りかかる。


「なああ!?」


 ドン! と深い音と共に、シッポが宙を舞った。


 すごい切れ味だとは思っていたが、ここまでとは。


 俺たちがヴァスキーに取り付いたことを確認し、トウコが離れていく。


 なおも体をねじって、ヴァスキーは俺たちを背中から振り落とそうとした。


 とはいえ、このままでは振りほどかれそうだ。


『せーのっ』

『んがあああ!』


 転落する寸前で、二体のヘビが大口を開けた。

 ヴァスキーのウナジ付近にかじりつく。


『今度はテメエが』

『頭をいじられる番だぜ!』


 ヘビ二体がしゃべったあと、ゼンがヘビ型マフラーを外す。


「アアアアアアアアアアアーッ!」


 大きく息を吸った後、大声で叫んだ。

 

 ゴスペル? コーラス? そのような歌を思わせる。


「な、なんだ!?」


 驚愕したような能面の声が響く。


 同時に、ヴァスキーが動けなくなった。

 ヴァスキーと能面をつなぐプラグというプラグが、ブチブチと切り離されていく。


「今だ、行――」


 ビルの向こうに、銃を構えるフェリシアが見えた。

 しかし、銃を撃つ気配ではない。ためらっているように思えた。

 一瞬考えたが、原因はやはりゼンしか考えられない。 


「これなら。おらあああああああああ!」


 俺は、ヴァスキーの頭部を刀で切断した。


「いまだフェリシア、いけえ!」


 力の限り、俺は叫ぶ。聞こえたかどうかはわからない。


 一瞬、空が真昼の明るさになった。


 ゴハア……という、聴いたこともない咆哮が轟く。


 ゼンのゴスペルに、呼応するかのような。


 これを神の声と形容するなら、そうなのだろう。


 天使の輪を想起させるような光輪が、ヴァスキーの頭部を包み込んだ。


 魔力の塊となったサピィが、能面を叩き潰す。


「ば、ばかな」


 断末魔の叫びを上げることもできずに、能面という名のレアアイテムは砕け散った。

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