ヴァイパーの女王

 ヴァスキーの機能が、完全に停止した。


 そこにあるのは、首のない、手足の付いたヘビの巨体のみ。


 俺たちは、成し遂げたんだ。


「やったのですね?」


 ヴァスキーの肩に、人影がある。


 サピィだ。エネルギー体へと変形していたサピィが、元の姿にもどっていく。


「無事だったか」

「ええ。なんとか」


 とはいえ、消耗が激しそうだ。


「お嬢」と、バイク状態のシーデーが駆けつけた。サピィを無理やりシートに乗せて、ヴァスキーの身体を降りていく。


「ありがとう、シーデー」


 サピィが地上に戻った途端、ヴァスキーの肉体がドロドロと溶けていった。沸騰しながら、ヘドロのような形へ崩れる。


「ランバート、無事か?」


 サモエドに乗って、トウコが俺を迎えに来た。回復魔法を俺たちへと施す。


「平気なの、サピィ?」


 フェリシアが、サピィの手を取って、魔力を分け与えた。


「これを使え」


 魔力を回復させる効果のあるダイヤの杖を、サピィへと渡す。

 少しでも回復させなくては。

 フェリシアの魔力補充でも、追いつかない。


「ありがとう、ランバート」


 杖で魔力を補充しながら、サピィがつぶやく。


「何がだ?」

「ヴァスキーとゼンを、完全に切り離してくれたでしょ? ランバートが機転を利かせてくれなかったら、わたしはゼンもろともヴァスキーを」


 サピィは、ゼンも巻き添えにしてしまうことも覚悟していたらしい。


 やはり、フェリシアがためらっていたのは本当だったんだ。


「だろうと思ってな。ヴァスキーの首をはねてみた」


 頭と身体の接続を切り離してしまえば、ゼンを巻き込まなくて済む。


 そう考えて試してみたが、こうも簡単に切り離せるとは。


 ただのDディメンション・セイバーではびくともしなかったのに。


 この刀のおかげか。


「死ぬのは、能面だけでいい。そう考えたからな」

「おかげで能面のいる頭部だけを、狙い撃ちできました。ありがとうございます」


 俺は、首を振った。


「礼には及ばない。できることをしたまでだ」


 役に立てただろうか、俺は。


「しかし、敵の全容は……」


 能面は、死んだ。


 奴らχカイの目的が何だったのかは、結局わからずじまいだ。


「本当に、無機質による世界支配を企んでいたのか。あるいは、大きな力に動かされていたのか。わたしは、犯人に当たりをつけていたのですが……」

「誰だ?」

「ファウストゥスです」


 そいつは、魔界の錬金術師だという。


「ランバート・ペイジに、魔王サピロス」


 俺の視線の先に、ゼンがいた。

 黒いマスクをしているが、ノドは治っているようだ。


 二対のヘビが、二匹の魔物に分離している。

 赤い方はマッチョのヘビ人間剣士に。

 青い方は優男の魔術師となった。

 二匹とも、ゼンの足元でかしずいている。


 フェリシアとトウコが、臨戦態勢になった。


 俺は二人の前に立ち、「大丈夫だ」と告げる。


 実際、ゼンに敵意は見られない。


 フェリシアたちも、落ち着く。


「我が名は新たなるヴァイパーの魔王、ゼン・ハック。ヴァスキーの力を奪い、ヴァイパーを統べる女王となった。全てのヴァイパーに代わり、お前たちの働きに感謝する」

「礼なんて、不要だ。俺たちは、お前に協力したつもりはないからな」

「それでも、事態が収束したことに変わりはない。我らヴァイパーは、力を蓄えるために魔界へと戻る」


 力を温存しつつ、χカイなどの世界の混沌を企てる組織を洗い出すという。


 ゼンが、何かを投げてよこす。見ると、能面の頭部だ。ヘルメットだけだが。


「そこに、情報があるかも知れぬ。我々は、コイツをいただこう」


 ヴァイパーたちが持っているのは、能面のバックパックである。


「次にあったときは敵かもしれんし、味方かもしれん。しかし、また会える気がする。ではさらばだ」


 ゼンが背を向けて、去っていく。


『今度は腕試しだ』


 赤いマッチョヘビが後に続いた。


『じゃあな。また会おうぜ』


 青いヘビ魔術師も二人の後を追う。

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