秘宝殺し(レア・ブレイク)

 行方不明になったクリムの、重要な手がかりである。


「とんでもない値段だったぞ」


 店どころか、商業地域のほとんどが買える値段だったが。


「サピィちゃんは悪くねえ。オレが取り寄せた。それを、サピィちゃんに渡したんだ」

「コナツが?」

「ああ。ランペイジ商会より、金はあるからな」


 金は返さなくていいと、コナツはサピィに言った。しかしサピィは、「これはランベイジ商会に、絶対必要だ」と買い取ったらしい。


「内容を読んで、ぶったまげたぜ」


 サピィも、つい最近読み終えたという。


「どんな内容なんだ?」

「主に、大魔法などのスキルが大半です」


 見たことも聞いたこともないスキルが、大量に書いてあった。中でも、普通の生活を送っていたら絶対に手に入らない、パッシブスキルの情報まで。


「グレーターデーモンを倒した、【インフェルノ】も載っているな」

「はい。このスキルを試したくて、デーモンと一騎打ちをしました」


 だが、肝心のページはココではないらしい。


「中でも興味深かったのは……あなたの特性に関する情報なのです」

「なんだと?」

「お読みください。ただし、覚悟を持って」


 サピィが、とあるページを差し示す


「……【秘宝殺しレア・ブレイク】、だと?」


 秘宝殺しとは、レアアイテムの効果を打ち消してしまうスキルだと書かれていた。【異能】の部類である。


 特に、インテリジェントアイテムを破壊できる効果があるとか。


「ただし、【一生、レアアイテムが出ない】……」


 この一文だけ読んでいると、俺に当てはまる要素に見える。


「心当たりが、ありますよね? あなたなら」


 サピィの問いかけに、俺はうなずく。


 俺はあのとき、ヨロイの脇腹を切り裂いた。


「このスキルが、俺の身体に宿っていると?」

「本人が認識していないレベルで、浸透しているのではないかと」


 だが、見に覚えはある。


「黒いワータイガーと戦ったとき、俺はレア装備を破壊したな」

「ならば、秘宝殺しの素質があったのかも」


 たしかに、このスキルは「自覚していないと、スキル表に表示されない」らしい。だが、持っているだけで効果があるという。持っていると知らずに一生を終える物も多いとか。


「これは想像なのですが、クリム・エアハートが襲撃を受けたのは、この本を見つけてしまったからではないかと」

「トウコの反応を見た限りでは、そうなのかもしれんな」


 で、この本を安全なギルドに隠したと。


「本当は、直接コナツさんに渡そうと思って、でもできなくて、ペールディネに」


 あれだけのレアリティだ。ギルドに献上しないわけにはいかない。


「あいつ、せっかく自分が生き延びるチャンスを、俺のせいでフイにしちまって!」


 このアイテムを持っていれば、死ぬことはないだろうに。ギルドなんかに渡したら、クリムを活かす価値がなくなってしまうじゃないか。


「ペールディネに管理してもらったほうが、失うリスクが減ると思ったのでしょう」


 王都より警備が手薄なアイレーヌでは、防御機構が整っていない。また、治安の悪さから強奪されてしまう可能性もあった。


「しかし、クリム氏にはこのアイテムを国に渡す手間はあったんです」

「では、クリムはまだ……」


 生きている可能性が高いってワケか。


 鍛冶場にキンバリーが。


「大変です。魔物の大群が、ペールディネの街を襲っています!」

「来たか」

「この書物が、まだあの街にあると思っているのでしょう!」


 サピィが、手に持っている本を懐にしまう。


「手配中の魔族も、一緒にいます!」


 調査隊も向かっているが、手に負えないらしい。


「行くぞサピィ! みんなも頼む!」

「はい!」


 俺たちも、タウンポータルでペールディネへ。


「クリムは、戦場に現れるだろうか?」

「それはわかりません。行ってみなくては」

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