高次元空間での戦闘

「どうしてここに? グスターヴォ様と一緒だったのでは?」


「詳しい話は後だ。とにかくこの扉を開けて、ウェイジス・エッジを打倒しに行くぞ」


「やはり、この一件にはウェイジス・エッジが絡んでいるのですね?」


「行けばわかる。ランバートとか言ったな。例のカギを、扉のコンソールに差し込め」


 ジェンマは、扉ではなくコンソールを指差す。


「扉の方にあるカギではなく、か?」


 差込口があるが。


「その穴は、ただのロックだ。扉自体が電子制御固定されているから、カギを開けたところで扉は開かないぞ。コンソールを起動させれば、ロックも同時に解ける」


 つまり、ロックだけを解除しても扉そのものが動かないわけである。


 俺は、コンソール側の鍵穴にキーを差し込む。


 コンソールが、ひとりでに起動した。


「すごい殺気が、漂っているわね」


 神の子であるゾーイまでもが、汗をかいている。


「いい? ここから先、ワタシは戦闘行為ができないわよ。結界を破壊することに専念するわ。闇の力を抑え込むことで、あなたたちを戦いやすくするわ」


「頼む。ゾーイ」


「本当は、すごく不本意なのよ。でも、助けてもらった借りもあるわ」


 高次元魔術式空間に、俺たちは足を踏み入れた。


 足先を触れただけで、吐き気がこみ上げてくる。内蔵を搾り取られているかのような感触だ。


「この世界では、肉体は重りにしかなりません。物理的な干渉は、ほぼ不可能だと思ってください」


 唯一平気そうなのは、サピィとジェンマくらいだろうか。先陣を切って、二人は進んでいく。


「ピンピンしているわね。うらやましいわ」


「これでも、道案内程度しかできない」


 フェリシアが感心するも、ジェンマは余裕なく答えた。


 ゾーイが、機動の天使の羽を展開した。羽根の一つ一つが機械むき出しになり、障壁を作り出す。


 気分が、やや落ち着いてきた。


「あれです。あの装置が、術式空間を制御しています」


 人間大の仏像が、口から緑色の瘴気を放っている。


「装置を、早く壊して!」


 ゾーイが急かす。しびれているのか、手や腕がブルブルと震えていた。


「それは、あたしがやるぞ!」


 同じ聖女系スキルを持つトウコが、拳を固める。


「チェスト!」


 仏像に向けて、右フックを叩き込んだ。


 しかし、仏像がひとりでに動き出し、トウコの攻撃を受け止める。お返しとばかりに、ハイキックをトウコへ浴びせようとした。


「あんだってぇ!? 聞いてないぞ!」


 トウコが跳躍して、後退する。


 格闘技の型を決めながら、仏像が腰を低く構えた。


「私も聞いていない! 物理的な干渉は不可能だと聞いていたのに!」


「長い年月をかけて、仏像を改造したのでしょう」


 サピィが、魔法を唱えようとする。


「よせ。大技を使ったら、消耗してウェイジス・エッジとの戦いに響いてしまう」


 俺が、前に出る。


「ランバートこそ、下がっていてください。この空間では物理干渉に意味がない上に、動きも鈍ります。あなたでは、あのモンスターに勝てません」


「勝てるさ。こいつなら」


 濃藍色の刀【黒曜顎コクヨウガク】を、俺は抜く。


「【ディメンション・クロー】なら、あいつを切り裂けるだろう。トウコ」


「あいよ!」


「この刀に、お前の聖なる力を流し込んでくれ。それだけで、効果はあるはずだ」


「わかった。こうか?」


 トウコが、黒曜顎に自分の力を注ぎ込む。


 黒曜顎には、各種フィーンドジュエルが吸収されている。これで、ダイヤにトウコのパワーが宿ったはずだ。


「悪いが、通してもらうぞ。おらああ!」


 俺は、ディメンション・クローを仏像に浴びせた。


 だが、あっけなく避けられてしまう。やはり、動きが鈍るか。


「でえええい!」


 フェリシアが、仏像の避けた方角に向かって体当たりをした。


 アバラや腕を折られて、仏像の表情がわずかに歪んだ。


 そうか。フェリシアも神聖系の職業である。

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