【ビヨンド・オブ・ワースト】界の汚物

 龍の背骨に戻った俺たちは、また魔物のラッシュに囲まれていた。


 ルダニムの補強と、こちらの素材集めも兼ねている。


 だが、そうのんびりもしていられない。


 サピィとシーデーが手分けして、クリムの足取りを追ってくれていた。


「ランバート、クリム氏が使用したと見られる裏道を発見しました」


 壁を撫でながら、サピィが俺たちを呼ぶ。壁の隙間に、隠し扉のスイッチを発見したらしい。魔術でなければ開かないタイプである。マギ・マンサーのスキルを持つサピィがいなければ、見つけられなかった。


「ふわー。よかったぞ。このままセグメント・ゼロに骨を埋める勢いだったぞ」


 トウコが、一息つく。携行食のスナックを、ひとかじり。


「ああ、オカンの鍋が恋しいぞ。グレースのスパゲティでもいいー」


 もう丸一日、ダンジョンを攻略していた。


 他のハンターたちに先を越されると思っていたが、いたるところにハンターの死体が転がっている。ロクな準備もせずにクリム捜索に向かうから、龍の背骨から押し寄せる魔物に殺されたのだ。


 回収すべきなんだろうが、そこまでは俺の仕事ではない。ギルドのキンバリーに報告するだけにした。


「死んでいる中には、セイクリッド族までいるわね」


 フェリシアが、アンドロイドの死体を調べる。


「焦り過ぎなんだ。急がば回れって言うじゃん」


 トウコが、ため息をつく。


「そこが妙なのよ。セイクリッドが、こんなザコ相手に……っ!」


 フェリシアとトウコが、同時に飛び退いた。


 セイクリッド族の死体が、床ごと粉々に砕け散る。


「急に死体が、動きだしたぞ!」


「なんなのよ、コイツは!?」


 驚くトウコとフェリシアをかばい、俺たちは身構えた。


 二人がさっきまでいた場所が、えぐれている。


「暗闇に紛れて、わからなかったわ」


「趣味が悪いオッサンだぞ!」


 頭をポリポリとかきながら、暗闇の中から中年の男性が現れた。ハンターのようだ。


「あらま。よけられちゃったってか? アンドロイドさえ出し抜く、隠密スキルだってのに」


 口調からして、まるで緊張感のない男である。だが、ただものではない。


「何者だ? χカイだな?」


 コイツは、以前戦った「【陽炎】のカワラザキ」とかいうサムライに、雰囲気がそっくりなのだ。性格はまるっきり正反対だが。


「あー、わかっちゃった? まあ、幽霊社員なんだけどさ。ボクは【蛇蝎】。名前は……忘れちゃった」


 蛇蝎と名乗る男は、のんきに笑う。


「ランバート、気をつけて。彼は、王クラスの魔王です! あなたの本当の名前は、虚弱公キョジャクコウ。スケルトンロードのヴィーサ・マウコネンです。ハンターの皮膚を使って変装しても、わたしにはわかるんですから!」


 サピィが、【蛇蝎】を指差す。


「おっ。さすがビヨンド・オブ・ワーストってわけ?」


 ケラケラと笑いながら、虚弱公と呼ばれた魔王はアゴを外した。


「なにものなんだ、コイツは?」


「魔物から魔王になった存在【ビヨンド・オブ・ワースト】の中で、もっとも危険な存在です。人が争うのを好みます。魔族どころか、すべての魔物からも嫌われていました」


 不愉快そうに、サピィは虚弱公の解説をする。


「そのとおり。かつてボクは、虚弱公って呼ばれていた男だ。魔王も仲間からクビになったんだけどね」


「どうして、χになんか」


「受け入れ先が、そこしかなかったからさ。お腹すいちゃって、仲間まで食べちゃったのがバレてさ、魔王の座を追われちゃった」


 語尾にハートマークを付けそうなノリで語りながら、虚弱公が顔の皮膚をペリペリと剥がす。


「ハンターを装って教えてあげた甲斐が、あったってもんだよ。彼らも、血と危険に飢えている。オミナスを与えてあげたら、そりゃあ殺し合ってくれたよ!」


 当時のことを思い出しているのか、虚弱公は急に笑い出した。


「同じビヨンド・オブ・ワーストとして、あなたの存在は汚物です。あなたはフラフラと、戦況が大きくなる方へと向かう」


「なにがいけない?」


 虚弱公の口調は、まったく悪びれていない。


「ボクたちアンデッドは、戦争がなかったら生きられない。魂を食って生きてるからね。いやあゴチソウだらけだよ、ここは。キミたちも、ボクのエサになればいいんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る