魔女シトロンからの手紙

「実際、どうだったんだ? シトロンの強さとは」


 我がメンバーの中でもっとも長寿であろう、サピィに当時の様子を聞いてみた。


「強かったそうです。しかし、政治的・経済的なことには関心がなかったらしく。結局、強いだけのシトロンは、疎まれるようになったとか」


 サピィは、手紙を読み続ける。


 

『あんたはバカだから、なんでも直接的に解決しようとしたがる。

 しかし、この世界にはもっとヤバい敵がいるんだ。

 この手紙を見つけるまでに、思い知ったんじゃないか?

 だったら、もっと仲間を見つけるんだ。で、力になってもらいな。

 もちろん、あんたも仲間を助けるんだよ。

 あたしの道具にばっかり頼るんじゃない。あたしの知恵にだけ頼っててもいけない。

 薬室のない銃は、そのために渡したんだからね』


 

 師からの文面を読みながら、フェリシアは銃を引き抜いた。


 

『あんたのことだ。どうせ、いつまでもお守りにしているんだろ?

 なんでもあたしが、揃えてあげると思ったかい? おあいにくさま。

 あたしは「なんでも師匠の言うとおりにしてればいいや」と考えるヤツは嫌いでね』


 

 やはりフェリシアの銃は、初めから薬室を作らない前提で開発されたらしい。

 

 

『この銃を参考に、薬室を作ってもらうんだ。誰かにね。

 たとえば、あんたの仲間とかさ。

 一から銃を作り直してもいい。

 ここから先は、あんたが好きに作りな。

 あたしは、誰も育てない。

 あんたが勝手に、強くなれ。


 クエンの魔女ソーマタージ・オブ・シトロンこと、ゼンデイア・ストーマーより』

  


「すごく愛に溢れたお手紙ですね」

「どこが!? めっちゃ突き放されてんじゃん!」


 サピィの意見に、トウコが速攻でツッコんだ。


「違いますってトウコさん。だって、その銃がなによりの証拠です」

「と、いうと?」

「だって、薬室がないんですよ? 詳しい人に聞くしかありません」


 となると、必然的に誰かを頼ることになる、と。


「たしかに!」


 トウコが、サピィからの解説でようやく納得したようである。


「つまり、自分の足で動けってことか」

「そのとおりです」


 一人で生きていけなんて、誰だって簡単に言える。

 だが、ここまでウィットに飛んだ言い回しなんてとてもできない。

 経験させたほうがマシだ。

 この手紙は、その両方に成功している。


「体験させた上で、さらに思い知らせています。そうやって釘を差しつつ、愛情を注いでいらっしゃる」


 フェリシアが独り立ちすることを、魔女は確信していた。

 だから、こんな手紙を残したのだ。

 それは、フェリシアを認めているからに他ならない。

 不器用だが、愛情に溢れた手紙である。

 送られた側のフェリシアを見ると、少し目が潤んでいた。



 翌朝、シーデーはトレントと一緒にトラックの荷台に乗り込む。

 これからペールディネへと向かうのだ。


「ごちそうになった。危険があったらオレたちハンターを呼んでくれ」

「そうさせてもらうよ」


 村民たちと別れ、機動馬車でサドラーへ向かう。


「それにしても、χカイか」


 組織的に動く、闇ギルドの構成員たちのようだが。


「ペールディネに、問い合わせてみたわ。この大陸全土に影響力のある闇組織で、あらゆる犯罪に手を染めているらしいわ」


 闇ギルドの総括組織と見て、間違いないだろう。


「散骨のデーニッツも、そこの組織出身だったそうよ。けれど、意見の食い違いから離脱したそうだわ。で、彼らを操っていたのが……」

「ジェンマ・ダミアーニですか?」

「ええ。そうよ」


 サピィもフェリシアも、一瞬黙り込む。


「けれど、彼らはリーダーを失った。それでも、組織自体は動いているみたい」

「行動目的は?」


 フェリシアは首を振る。


 オミナスを量産しているということは、仲間を増やすことだとは思う。

 しかし、なぜ兵隊を集めているのかまではわからない。


「ランバート、敵はデーニッツよりさらに危険な組織かも知れませんね」

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