セーフハウス購入

 昼前に街へ戻り、ギルドへ依頼達成と事情報告を済ませる。


 シーデーがいてくれて助かった。

 彼がいなかったら、岩を持ち帰れなかっただろう。


「わかりました。調査団を送り込んで、警戒しておきます。ご報告ありがとうございました」

「いや、大したことができんでスマン」

「とんでもありません! この報告を見逃していたら、若き冒険者が何もできずに食われるところだったんです」


 必要以上に、受付嬢から感謝された。


「レベルの上昇が凄まじいですね。ランバートさん。さすが【早熟】持ち」

「なんだか、歳を取ると衰退しそうな名前のスキルだろ?」

「まさか! 【早熟】スキルは永劫スキルです!」


 人よりレベルの上がりが早く、ずっと強くなるという。


「つまり、際限がないと?」

「はい。その【パッシブスキル】には、限界がありません」

 パッシブとは、自身に生まれついて備わっているタイプだ。

「今後もごひいきに。では」


 ギルドを離れて、収穫を確認した。


「想像以上に、安いアイテムばかりですなぁ」


 売っても買い手のつかない装備品ばかりが、シーデーのアイテムボックスに集まっている。


「なんだが悪いな。廃品回収のようなマネをさせて」

「いえいえ。これでも、何かに使えるはずです。鉄なら溶かして新たに武器を作り直すか、我々フォートの部品にするなど」


 そうか。そういう使い方もあるんだよな。


「保管場所は必要だな。不用品を買い取ってくれることも、少ないだろう」

「なら、考えがあるんです」


 サピィは、商業ギルドへ向かった。ギルド長と話し合い、物件を調べている。


「実はこの街で、目ぼしい場所を発見しまして」


 その場所は、コナツが運営する鍛冶場の裏だ。


「ここを拠点としてアイテムを保存しつつ、商売を始められないかと」

「なるほど、セーフハウスか」


 シーデーのメンテナンスもある以上、ずっと宿屋では暮らせないのだろう。


 幸い、その場所はすぐに買えた。


 店に入り、さっそく内装を確認する。


「悪くないな」

「多少の修繕は必要でしょうけれど、許容範囲です」


 サピィは、自分の分身を手から放った。「では、お掃除をお願いします」と、

使い魔スライムに、家全体の掃除をさせる。


 スイーっとスライムが移動するだけで、ホコリが取れていく。


「あとは、品物だけだな。やはり、売るとしたらこれだよな?」


 ジュエルを、テーブルの上に撒き散らした。

 結構な量のジュエルが集まっている。

 自分で使う分だけでも、相当な数があった。


「あなたも、売ってしまわれるのですか?」

「俺はもう十分だな。ジュエル付きを装備するだけでも強い。後は、俺自身が強くなればいいからな」


 宝石を、俺が独占してもいい。しかし、どうせ持て余してしまう。


 だとしたら、俺がジュエルを独り占めするのはあまりよろしくないようだ。


「売ろう。俺の装備を強化する分だけ残して、あとは他のハンターに使ってもらいたい」


 ダンジョンは、俺だけが強くなっても仕方のない段階まできていた。手数は多いほうがいいだろう。


「そうだ。はじめから装備にはめ込んでしまえば、このゴミアイテムも使い所ができるな」

「それはいいアイデアです。ただ、ひとつ問題が」

「どうした」

「加工できる鍛冶屋に、知り合いがいません」


 旅から旅へだったため、このように拠点を置くことができなかったという。


「それで、商業ギルドにコネクションだけ繋げたと」

「はい」


 ならば、うってつけの相手がいる。


「あんたらに、会わせたいヤツがいる。ついてきてくれ」


 俺は、サピィたちをコナツの元へ連れてきた。


「裏の鍛冶屋さんですね」

「ここの店長と知り合いなんだ。すまん、コナツを呼んでくれ」


 弟子に声をかけて、コナツを連れてきてもらう。 


「なんだよランバート。えらいベッピンさんを連れてよぉ。とうとう所帯を持つのか」


 鉄を叩くのをやめて、コナツは屈託のない笑顔を見せる。


 コナツから茶化されて、俺とサピィは目を丸くした。


「違う違う。装備品の扱いで、頼みがあってきたんだ」

「おう。武器防具なら、このコナツ・フドーに任せろってんだ」


 その名を聞いて、サピィがしゃがみ込む。コナツの顔をじーっと見つめ続けた。


「あなたはひょっとして、『星を鍛えし者』の、コナツ・フドーさんですか?」

「おっ、懐かしい言い方をしてくるじゃないのぉ」


 まるで子どものように、コナツが照れ始める。


「これまで多くのマジックアイテムを作り上げた、ベテラン鍛冶屋ですよ。世界に落ちてきた星を鍛えて、刀を作り上げたという伝説まであります」

「おお。オレの名が別大陸でも轟いているとは。ありがたいねえ」

「そんなあなたが、どうしてこんな小さい街に」

「師匠から追放されたんだ。才能を嫉妬されてよ。それで、もうアイツらに手は貸さねえって決めたんだ」


 それで、師匠の影響が少ないこの大陸で打ち始めたそうな。流れ着いた先で同じドワーフの奥さんと知り合えたから、今は復讐など考えていないという。


「私も、正体を明かすべきですね。お仕事は大丈夫ですか?」


「ちょうど、修繕の受付が済んだな。店は弟子に任せていい」

「では、我々の店へ参りましょう」


 サピィが店を出ようとしたところで、俺は待ったをかける。


「時間が惜しい。コナツ、悪いが店に穴をあけるぜ」

「なんだって?」


 コナツに耳打ちして、俺は事情を説明した。


「なるほど。裏に店を建てたと。だったら話が早いな。オレがやってやらあ。うりゃ!」


 店主自らが、店に穴を開ける。ついでに、サピィのセーフハウスも。


 嫁さんには、あとで俺が謝っておこう。

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