ミノタウロス退治……だけでは済まない

 そもそも、第二階層ボスは、レイスではない。ゴーストか、強めのゾンビだ。対アンデッドなど、属性攻撃を把握するために配置されていると言われている。


 なのに、少しランクが上の敵が配置されていた。少し、妙である。


「ダンジョンがヴァージョンアップした、という報告は?」


 サピィが立てた仮設に、俺は首を振る。

 ハンターギルドがなんの予告なしに、ダンジョンの難易度を上げるなんて考えられない。そもそも人為的になんてムリだ。


 得体のしれない別の何者かが関わっている。その不確定要素を排除しないと、犠牲者が出てしまう。


「ミノタウロスと言っても、油断できないわけですね」

「我が前に出ましょう」


 シーデーが、盾役をかって出てくれた。


「では、私が背後から魔法を撃ちます」


 ならば、俺は前衛で斬りかかる役に回るか。


「いざとなったら、二人でサピィを守るぞ」

「承知」

「いくぜ!」


 全員で、フロアに飛び込んだ。


 こちらに気づいたミノタウロスが、両手斧を構えて斬りかかる。


 いつもは後ろから魔法を撃っていたからわからなかったが、ミノタウロスがいかに恐ろしい敵なのかを実感した。血管や筋肉の隅々まで、正確に視認できる。いくら強化した俺でも、まともに立ち会えば粉々になるだろう。


「ていうか、明らかに強くなってるじゃん!」


 懐に飛び込んで、破れかぶれにブロードソードを叩き込んだ。


 しかし、ミノタウロスの分厚い腹筋によって攻撃は弾き返される。


 やはり、強くなっていた。エンチャントしているとはいえ、ブロードソード程度では傷もつけられないか。ヤツの厚い筋肉を両断できるような剣術スキルも、俺は持ち合わせていない。


 杖から送られてくるエネルギーを、サピィが手のひらに分解の力へと変換する。


 サピィの魔法を驚異に感じたのか、ミノタウロスは俺達をすり抜けてサピィへ直行しようとする。


「そうはいかん!」


 ブロードソードで、正面から斧を受け止めた。いつもの魔法使い的戦闘ならありえ

ない戦法だ。サピィが後ろにいるというのもあるが。


「召されよ!」


 シーデーが、指から弾丸を放つ。いわゆる【指マシンガン】のスキルだ。


 目を潰されて、ミノタウロスが武器を落とす。顔を手で覆いながら、俺たちに危害を加えようと暴れまわる。


「ふたりとも下がってください! 【破壊光線デモリッション】!」


 赤黒い閃光を、サピィが手から放った。


 ミノタウロスの心臓へ、光線が突き刺さる。


 なおもミノタウロスは意地を見せたが、それよりサピィの魔法が勝った。


 分解光線は、ミノタウロスの頑強な肉体を突き抜ける。


 両膝を落とし、フロアボスは絶命した。


 レベルアップする。なにか目ぼしいスキルはないものか。エンチャント以外もくまなく確認する。派生技で、これはというスキルを見つけた。さっそく装着する。


 ブロードソードを使って、ミノタウロスの角を回収する。これで、薬局のラインナップが充実するだろう。


「ジュエルは……大きめの赤か。おっ、バルディッシュが手に入ったぞ。装備をやり直そう」


 アイテムの中に、珍しいものがあった。変わった形状の槍だ。


「よし。これからは槍で長いリーチを活かす」


 とはいえ、まだやることがある。このダンジョンを引き続き調査するか。

 槍を棍棒代わりにして、ひたすら殴るとしよう。


「ますます、魔法使いから遠ざかりますね」

「魔法使い用の武器が出てきたら、切り替えるさ」


 ミノタウロスの死体が消えると、もうひとりの影があることに気づく。


「ちくしょう。ミノタウロスを強化して、ハンターギルドを人知れず抹殺する計画が台無しじゃねえか!」


 現れたのは、黒いワータイガーの武闘家だった。不気味な模様が書かれた岩を担いで、ダンジョンの地下に埋め込もうとしている。


「えらくかわいい黒猫が、ダンジョンに紛れ込んできたな。ここはお前なんかがいていい場所じゃない。ニャンコちゃんは、バケツで日向ぼっこでもしてろ」

「ネコじゃねえ! ワータイガーだ! オレをバカにすると痛い目にあうぜ!」

「俺たちと戦う気か? ハンター同士の衝突はご法度だぞ」

「うるせえ! 魔物の計画を知られた以上、生かしておけねえ!」


 ワータイガーが、爪に風の魔法をまとわりつかせた。


「ほう、エンチャントか。面白い!」


 俺の方も、バルディッシュにエンチャントをかけた。


「ウィザードが、槍装備で肉弾戦だと? なめてんのか!」

「いたって真剣だ。それともお前、俺様の新戦法が怖いのか?」

「言わせておけば!」


 風の刃で全身を覆い尽くし、ワータイガーが俺に向かってくる。


「どうだ! これで近づけまい! 近接戦闘を挑んだ自分を呪うがいい!」

「フン。エンチャントには、こういう戦い方もあるのだ。【ディメンション・セイバー】!」


 俺は、槍を大きく振った。魔力で形成された真空刃が、ワータイガーの風魔法を突き破る。さっき取得したばかりの技をさっそく試す。


「いってえええ!」


 袈裟斬りを喰らい、ワータイガーが技を解いた。


「貴様ら魔物の目的はなんだ? どうしてハンターギルドを狙う?」

「ちくしょう覚えてやがれ!」


 ワータイガーが、驚異的な速度で逃げ出していく。


「いまのは何だったのでしょう? 魔王の手先でしょうか?」

「それとも、別の勢力か」


 とりあえず、ギルドに報告しに戻った。

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