堕天使は、同担拒否
俺とサピィは、リュボフのいる修練場にいた。
ヨガのトレーニング場のような所で、神秘的な建物と、どこまでも続く石畳の広場がある。
トウコ、フェリシアと共に、リュボフは禅を組んでいた。
「同担拒否ってなんだ?」
「ファン同士の交流を、嫌う人のことよ」
禅をしたまま、トウコがフェリシアに聞く。
「堕天使は、神が他の種族を愛するのを強く拒絶して、種族を攻撃した結果で堕ちたのよ」
「つまりペトロネラは、『神を愛しているのは自分だけ』と主張したいのよ。あたしのような聖女が『神の代弁者』を気取っているのが、気に食わないの」
フェリシアの後に、リュボフが会話を引き継いだ。
「めんどくさい女だなー。そういうヤツを、世間はメンヘラっていうんだよな」
「そうね。あいつは特別メンヘラと言っていいわ」
リュボフが呆れ果てる。
「神も神で、自分の分身をつかわせてエルフと交配して、子どもを作ったらしいわ」
地上で行動できるアバターとして、その子を運用しているらしい。
「神ラブ勢のペトロネラを差し置いて、エルフとねんごろかー」
「そんなことをするから、余計にペトロネラは嫉妬してしまったのよ」
座禅を組みながら、トウコとフェリシアが腰の曲げ伸ばしをした。
「ペトロネラと肉体関係を持つと、今度こそめんどくささが加速すると思ったんでしょうね」
あたしが神でもそうするわ、とはリュボフは言う。
「今も、そのアバターとやらは現役で活動しているのか?」
俺が聞くと、リュボフは首を振った。
「知らないわ。そこまで詳しくは教えてもらえないの」
「聖女なのに、そのアバターを守れと指令はくだらなかったんだな?」
「ひとことで聖女って言っても、役割は地上の管理くらいだから。神も、自分の身は自分で守れると思っているのではないかしら?」
そもそも、神とは実態があるのだろうか?
「神を見たことはあるか? 魔王のように、実体があるとか」
「ないわよ。夢の中とかで漠然と現れる、光る物体みたいな感じね。地上にも、なんの影響力も与えられないみたい。ヘタに関わると、天変地異が起きるんですって」
だから依代をつかわせて、子をなすのだという。
その子たちは人間として生きることもアレば、たいていエルフやドワーフなどの亜人種となるそうだ。
いい環境下だと【勇者】や【聖女】と呼ばれる存在に、悪しき環境に育てば、モンスターへと変わる。
「堕天使からすると、たまったもんじゃないのよ。いつでも受け入れOKにもかかわらず、抱いてくれないのだから」
それは、嫉妬するというもの。
「で、具体的に聖女をどうするつもりなのだろうな」
「直接手を下すか、閉じ込めておくつもりじゃないかしら、神を脅す手段としては、最適にして最悪の方法よ」
ひどい。
「あんたは俺たちが必ず守る」
「ありがとう。頼りにしているわ」
その後、俺はたまりにたまったジュエルをエンチャントし続け、スキルレベルが一〇〇を超えた。
【エンチャント】のスキルは上限がない分、使い続けるうちに消費マナも抑えられる。
ダイヤのジュエルで回復しながらなので、作業も余裕でこなせた。
戦闘はしていないが、エンチャントだけでほぼレベルが上がってしまっている。
サピィとシーデーは、ルーオンたちの修行に同行した。万が一、強い敵にあたってしまった場合に備えて、護衛するという。
一週間が過ぎた。
コナツとダフネちゃんの作業が終わったらしい。
俺たちは、コナツの工房に同席している。
「完成したぜ。アーマーと同時開発だったから、手間取っちまった」
コナツはすっかり、汗びっしょりだ。
「まずはアーマーだな。今までの技術を結集して作ってある」
最初に出てきたのは、やや赤黒いプロテクトアーマーである。各所に、光るシード型ジュエルがはめ込まれていた。
「これは、作っていてテンション上がったぜ。今考えうる限り最強のヨロイだ。ランバートのイメージカラーに合わせて、赤黒くしてある。サピィちゃんと、対照にしてみたんだ」
「布地の部分が多いな」
「ダフネちゃんと共同開発と、光るジュエルによって、軽量化に成功したんだ」
たしかに、プロテクターは金属部分だが、他は布になっていて軽い。
「サムライと言ったら具足、というイメージがあったが、これは普段着と遜色がないな」
スボンなどの黒い部分は、モンスターの素材や外殻を使用していた。これにより、さらなる軽量化を目指している。
「あと、
手首には、ちゃんとサピィがくれたブレスがあった。
「さて、お待ちかねの刀が出来上がったぜ」
生まれ変わった黒曜顎を見せてもらう。
「おお」
「オレサマとダフネちゃんで考えた、決戦仕様だぜ」
【イチモンジ】とは対照的に、鞘が青黒い。
「刀に、金色のラインが入っているな」
「術式を込めた金属製の鉄板を、切れ味を損なわないレベルではめ込んだ。それで、パワーをセーブしているんだ」
刀と言っても、当面は「ディメンション・セイバーを撃つ杖」として活用するだろうと、切れ味には期待していないらしい。
同じ処置を、柄やツバにも施しているという。
そこまでしなければ、制御できないらしい。
「使ってみてわかったんだが、コイツは金属をも取り込むぜ」
実際、術式金属板は刀に沈み込んでいるという。
「この刀はおそらく、金属と融合が可能だ。つまり、刀と同じように加工できるってわけさ」
それがわかっただけでも、価値があるというものだ。
「ツバなのですが、ランバートの戦闘データを元にセイバーの威力を調節できるようにしたです。接近戦にも対応できるように、常に魔力を刀に帯びさせて強度を増してるです」
エンチャントの基礎的な技だが、効果的だろう。
本来のエンチャントとは、そういう使い方をする。この刀は、それを超人の次元で活用できるとか。
「レベル一〇〇エンチャントが常に展開されているのです。威力は計り知れないです」
聞けば聞くほど、危険な武器に思えた。
「いいなー。オレもそういった武器がほしいぜ」
ルーオンがヘソを曲げる。
「あんただって、ちゃんといい武器をもらったじゃん。ガマンなさい」
コネーホが、ルーオンをたしなめた。
俺以外のメンバーは、既存の装備にジュエルをはめ直している程度である。それでも、大幅にレベルアップしていた。
二人の装備も、充実したものに変わっている。コネーホのウサミミ着ぐるみは、相変わらずだが。
「これ、なんとかならないの?」
「あなたが一番、死亡率が高いです。特化型ヒーラーは、敵に狙われやすいです。いくら攻撃魔法を覚えたとしてもです。まして、死霊系にしか効かないと聞いたです」
きぐるみには、【ギャグ補正】という効果があり、死亡率が格段に下がるという。
戦闘に出ないのだからいいだろうと、ダフネちゃんは強調した。
全員の装備調節が終わり、塔へ集結する。
「あたしらは今回、力になれないかもだぜ」
メグとミューエ、ゼンは、サポートに徹するという。
「相手が、堕天使と例の暗黒騎士でしょ? 役に立てそうにないのよね」
「そうか。同行してくれるだけでもありがたい。ルーオンを頼んだ」
「任せてよ」
それぞれの役割分担を打ち合わせする中、ビョルンだけがソワソワしていた。
「どうした、恋人の聖女が危険な目に遭うから、心配しているのか?」
「ああ。まあ、そんなところ。そういうことにしといてくれよ」
ムリに苦笑いを浮かべながら、ビョルンは手をヒラヒラさせる。
「ご安心を。聖女リュボフはわたしが守りますから」
「ありがとうよ、サピィちゃん」
四層を目指し、俺たちは塔の中へ。
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