秘策発動

 俺は素手で、クリムの剣を防いだ。手を魔法で覆い、光でできた刃の熱に耐える。


「わからないのか? 俺は絶えず戦ってきた。何度も死線を乗り越えてきたんだ。チートで無双していたワケじゃないんだよ!」


 ウィザードとしての俺は、もはや限界に達していた。そのため、トウコやフェリシア、シーデーに頼んで、剣術のトレーニングを積んでいたのである。腐っても、俺はサムライなのだ。きっと親父も、同じ手段を取ったに違いない。


 フィーンド・ジュエルだけに頼った戦い方なんて、サピィだって望んでいないはずだ。

 それでは、パートナーは誰でもいいことになる。


 俺は俺自身でも、サピィや仲間を助けたい!

 だから、つらい特訓にも耐えた。

 ウィザードとして生きて染み付いていた腕力のなさを、肉体をもって克服しようとしたのだ。

 それが、もっとも敵の意表を突くと思って。


「ぐうう! しかし秘宝殺しレア・ブレイクのサムライよ、このままでは貴様も攻撃ができぬぞ。貴様の武器は、私が踏みつけている。このまま力尽きて、真っ二つになるがいい!」


「それはどうかな? サピィ!」


 サピィが、「足元から生えて」きた。スライムの体となって。


「なにぃ!?」


「忘れたのですか? わたしはスライムロード・落涙公らくるいこうですよ?」


「貴様!」


 俺が手放したカタナ・黒曜顎コクヨウガクは、スライム状態のサピィが擬態したものだったのである。体内に、飲み込んでいたのだ。


「今です、ランバート!」


 本物のカタナを、サピィが吐き出す。


「喰らいなさい! 虚弱公きょじゃくこう!」


秘宝殺しレア・ブレイク! おらあああっ!」


 サピィが出したカタナを掴み、脳天を叩き割った。クリムまで攻撃しないように、寸止めで。


「なん、と」


 白い仮面が割れて、クリムがヒザから崩れ落ちる。その顔は穏やかで、戦闘が終わったことを告げていた。


「バカな。志半ばで、この虚弱公の計画が終わるなんて」


「虚弱公の正体は、あなただったんですね? ファウストゥス」


「そうだ。クリムを作り出そうとして失敗し、大量に溢れ出たサンプル。その骨を加工して、何体も作り出したのだよ。それを見破られるとは」


 俺たちに攻撃をしてきた能面ノーメンも、ファウストゥスだったのである。


「やった、な……」


 俺は、地面へ倒れ込む。

 クリムの剣が、俺の腹を貫いていた。


「そんな! ランバート、どうして!?」


 もとに戻ったサピィが、俺に寄り添う。


「クリムを倒すとき、躊躇したからだ。クリムごと両断していれば、こうはならなかったものを」


 ゲラゲラと笑いながら、今度こそファウストゥスは消滅した。

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