脱出
ファウストゥスは消え去り、俺たちだけが残される。
クリムは傷こそ負ってはいないが、目を覚まさない。
地震が発生した。おそらくファウストゥスは、自分が死んだらこの施設ごと破壊する気だったのだろう。
「ランバート!? 今治療します!」
残った力を、サピィは俺の回復に費やした。
「俺のことはいい。クリムを連れて逃げろ」
「できません! クリムだって、そんなことは望んでいないはず!」
「いいから行け! 全員死ぬぞ!」
「イヤです。わたしはなんのために、あなたと組んだと思っているのです! あなたが死んだら、わたしは生きる意味がない! あなたはちゃんと生きて!」
サピィが、治療を終える。
「応急処置は、施しました。あとは、あなた次第です」
「ありがとう、サピィ。しかし」
出口が、ガレキで埋まってしまった。俺を助けなければ、クリムを連れて脱出できたのに。
「クリム、無事か?」
俺は、眠っているクリムに声をかけた。こいつはトウコと違って、食べ物のニオイなんかで目を覚まさない。
「ランバートか?」
「そうだ。クリム、脱出するぞ。肩を」
俺はクリムの腕を、自分の肩に回して立つ。
「しっかりしろ」
「オレは大丈夫だ。二人で逃げてくれ」
「クリム!?」
「まだ、やることがある。
虚弱公のコピーが、まだ残っているらしい。彼らはこの爆発に乗じて逃走し、計画を引き継ごうと企んでいるという。
「ヤツは、虚弱公はオレの父の名を穢した。ファウストゥスを」
ファウストゥスは魔族との戦いに終止符を打つために、フィーンドジュエルの研究をしていた。しかし、虚弱公がそれを悪用してオミナスを開発して、すべてファウストゥスのせいにしたのだ。共同開発者のふりをして、虚弱公は自分を実験体にした父や魔族たちに復讐をしようと企てたのだという。
「お前一人で危険だ!」
「この施設には、お前たちより詳しいよ。必ず逃げ切るから、安心しろ」
「やらなきゃ、いけないのか?」
「父と約束している。虚弱公を滅ぼすのは、オレの使命だ」
虚弱公を止めるため、ファウストゥスは何年もの間、密かにクローンを作り続けた。長い戦いの中で、虚弱公と戦い続けていたのである。だが、敗北濃厚となり、ファウストゥスはクリムにすべてを託したのだ。
やっと掴んだチャンスであることと、身体を乗っ取った借りを返しに行くと。
「クリム!」
「心配するな。ハンターをやっていたら、また会える」
暗闇の中へ、クリムは姿を消そうとした。
「待て、クリム!」
俺は、【月】のジュエルをクリムに渡す。
「それは、ありとあらゆるペナルティを、消去してくれます。あなたなら、この意味がわかりますよね?」
「……なるほど。そういうことか。感謝する、サピロス・フォザーギル」
「わたしの本名をご存知だったのですね?」
「ああ、父から。ランバートをよろしく頼む」
そう言って、クリムはガレキの向こうへと消えていった。悲しみとも安堵とも違う笑みを浮かべて。
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