モンスターハウス耐久
オーブを中心としたエリアに、壁の向こうからモンスターがワラワラと湧き出てくる。
完全に、取り囲まれた形だ。
「隊長、敵が進行してくるルートを予測するに、【モンスターハウス】から来ている模様!」
「そんなバカな。三層と二層が繋がっただと!?」
レーダーを感知する兵隊の報告から、エトムント隊長が驚愕した。
二層は基本的に、推理エリアである。|謎掛け《リドル)かパズルの要素が強く、フロアボスまでの道のりまで敵が出てこない。だからこそ、黒騎士ラムブレヒトが現れて全員が驚いたのだ。
対して、第三層はいわゆる【モンスターハウス】と呼ばれる場所である。迷路ではない上に、攻略する必要性がない。その代わり、魔物が無限に湧く。勢いが収まるまで、襲撃をやめない。レベル上げか、ドロップを求めるトレハン目的でしか、潜るハンターがいないフロアである。
その三層と、二層が繋がってしまった。
つまり、三層へ行くための謎解きと、モンスターの討伐を同時に行わなければならない。
「最悪だな、ランバート。戦力を分散され、おまけに耐久とは」
騎士団たちが、俺にグチってくる。
「まったくだ。できるだけお前たちに被害がないよう務める」
「頼むぜ!」
兵隊たちが、何度も銃を確認した。その重視にも弾倉にも、ジュエルが施されている。
「その分、少年にがんばってもらいましょうぞ。少年よ。レベル上げのいい機会ですぞ」
シーデーが、指マシンガンを敵へ向けた。
「わかってらあ!」
ルーオンが前に出る。コネーホを守るギリギリの距離を保って、剣を構えた。ブロードソードかと思いきや、長剣と逆手持ちナイフの二刀流である。
「そんな武器、持っていたか?」
「いや。オレはボス用だとブロードソードに、ザコ相手だと剣を分離させて二刀流にするんだ」
ルーオンの剣に、そんな仕掛けがあったとは。
「よし、撃て撃てぇ!」
エトムントの号令とともに、戦闘が始まった。
騎士団たちの銃撃によって、魔物たちが蜂の巣になる。
だが、それでも魔物たちは次々と襲いかかってくる。撃っても斬っても収まらない。
「サピィお嬢は、五分持たせろとおっしゃっていました。五分もあればこの現象は収まり、次の階層への扉が開くと」
「わかった。みんな、五分だ! 五分だけ時間を稼いでくれ!」
【
「五分だって!? 弾数がもたねえ!」
「それは心配ない! ジュエルがマガジンになってる! 拾って活用してくれ!」
サピィは、エトムントやルーオンたちにもジュエル回収用の腕輪を持たせていた。こうなることを想定していたのか、騎士団たちにはジュエルが銃の弾倉になるようセットしてあるようだ。
肉片が飛び散って、ジュエルへと変わっていった。兵隊たちが装備している回収用の腕輪に、ジュエルが吸収されていく。集まったジュエルは、弾倉へと変形した。こんな使い方まであるとは。
「これなら、弾切れの心配はねえな!」
騎士団が取りこぼした魔物たちを、俺とルーオンで撃退していく。
「くそお、ヤベえ!」
兵士の一人が、リロード中を狙われた。
「おらあ!」
「やあ!」
俺とルーオンの二人で、魔物を刺し貫く。落ちたジュエルは弾倉へと変化させ、兵隊に渡す。
「すまねえ!」
「礼には及ばん、今度は俺が回復する」
「おう! 休んでろ!」
兵隊に任せ、俺は携帯食を含んで休む。
「ほら、お前も食え」
「おうランバート。助かる。あーん」
立ちっぱなしでエリアヒールを撒いているトウコの口にも、携帯食を放り込む。
「フェリシア、口を開けろ」
「ありがとうランバート」
続いて、フェリシアの口にも。
「お前も休むか、ルーオン?」
「座ってろ。オレ一人で十分だ!」
俺が携帯食を差し出すと、ルーオンは頼もしい言葉が返す。
ルーオンの攻撃は、横一閃が多い。このフォームは、斬撃というよりバッティングに近い。もしかすると。
「ゴーストメイジだ!」
フヨフヨ浮いているガイコツが、こちらへカマイタチの魔法を飛ばしてくる。
数名の兵士が、腕や足を負傷した。
「くっそ、あの飛んでる魔法使いを狙え!」
兵士たちが、エトムントの指示で魔法使いに攻撃を仕掛ける。
しかし、ガイコツにダメージが入っていない。やはり霊体は、銃では倒せないようだ。しかも、数が増えてきた。
「構うな! 俺がやる!」
俺は、刀に精神を集中させる。
「【影断ち】、おらあ!」
霊体にダメージを与える【影断ち】というスキルを、次元断へ乗せた。刀から発動した衝撃波が、ガイコツ魔術師を次々と両断する。
だが、魔物たちの襲撃が止むことはない。騎士団たちの雨のような弾をすり抜けて、こちらに向かってきた。
「弾が追っつかねえ!」
「やべえ! リロード中を狙われる!」
さすがに、騎士団たちも連携が乱れてきた。このままでは。
「ルーオン、野球は好きか?」
「いきなりなんだよ?」
「野球をやったことは? って聞いているんだ」
「少年野球をしてて、エースだった」
「だろうな」
剣の振り方が野球に近かった。
「リックが教えてくれたんだ。世界が平和になったら、野球で生計を立てろって」
あいつも、ハンター稼業だけを考えていたわけじゃないのか。
「今から、火球を放る。打ってみろ」
「わかった」
「それ」
俺は手に火球を作り出し、ルーオンに向けて軽く放り投げた。
「せや!」
ルーオンが、火の玉を打つ。
火炎弾は放物線を描き、敵が溜まっているエリアに着弾した。
大多数のモンスターが、爆発で吹っ飛ぶ。
「うっわ! 一気にやっつけた」
それだけではない。大量の魔物を撃退したことで、ルーオンに大量の経験値が入る。
「いいぞ。次は左中間。行け!」
「うりゃ!」
俺の火球を、またルーオンが打つ。ちゃんと指示通りに、左中間へクリーンヒットした。
「さすがだな! エースの名は伊達ではない!」
俺は火球をルーオンへ放り投げつつ、次元断を撃ち続ける。
「あんた、ホントにサムライかよ?」
「正確には、『殴りウィザード』だ。よく覚えておくんだ」
ルーオンも、さすがに呆れている。
俺が提案した千本ノック大作戦で、ザコモンスターたちは数を減らしていった。
「見ろよ! なんか中ボスみたいなヤツが出てきたぜ!」
一つ目の巨人が、鉄槌を手に歩いてくる。一〇メートルはあるだろうか、巨体を揺らしながらゆっくりと迫ってきた。
「サイクロプスだと? レベル三、四〇程度の魔物が、こんなダンジョンに?」
「いや、あいつは『ギガース』だ! 一回り強いぜ!」
鈍足だが、騎士団たちの弾をものともしない。
「エトムント、俺とルーオンにやらせてくれ」
俺は、騎士団長のエトムントに提案をした。
「わかった! 通達。ヤツはランバートたちに任せろ! 弾のムダ使いをするな! 我々は数の多い敵を潰すんだ!」
エトムントが、兵士たちに号令をかける。
「ルーオン、敵は、お前の速さについていけない。かく乱を頼めるか?」
俺はルーオンに、単独で向かうように告げた。
「突っ込んでいいんだな?」
「ああ。思い切り行け。敵が襲ってきたら、俺がサポートする」
「わかった。行ってくる!」
二刀流をブロードソードに戻して、ルーオンがギガースへ突撃する。
ギガースが、ルーオンに向かって鉄槌を振り下ろそうとした。
「オラア!」
俺はギガースの両腕に向かって、特大の次元断を放つ。ギガースの両腕をもぎ取るまでには至らなかったが、折ることはできた。たとえ巨大モンスターと言えど、関節部はもろい。そこだけに集中すれば。
ブーツに仕込んだ雷ジュエルを全開にして、ルーオンは加速する。ギガースの巨体を足場にして、跳躍した。狙うは、ギガースの目だ。
「くらえ!」
ブロードソードが、ギガースの目に突き刺さった。ギガースが、スフィアサイズのトパーズへと変わる。
「やったぜ、ランバート!」
「まだだ! 後ろに、もう一体いるぞ!」
別個体の裏拳が、ルーオンに迫る。
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