【オーブ】のジュエル

 このガラクタは、さっき俺たちを避けて走って逃げたヨロイか。


 見た目はたしかに、テン・リューに見えた。


 だが、さきほど感じた禍々しさは微塵も感じず、表面も無残に錆びついている。


「ペールディネ付近で、テン・リューと思しき生きたヨロイを見つけましたぞ」

「なぜ、なぜこんな変わり果てた姿に!?」

「発見時、一切の魔力がなくなっておりました。この傷口から、なにかよからぬものが侵食したようですな」

「むう……この傷跡は!」


 俺がつけた傷口を見て、マンティダエは戦慄した。 



「……そうか、これが伝説の【秘宝殺し】、レア・ブレイクか。そうか。わかりましたぞ、この人間の謎! 一刻も早く、ジェンマ様に報告を……」



 立ち上がろうとしたが、マンティダエの身体は永劫の炎にむなしく溶け落ちる。 



「かような人間を味方につけるとは! おのれ落涙公、おのれええええええ……」


 白骨の手はサピィへと届くことなく、崩れ落ちた。


 相手の心理さえ逆手に取る、サピィの勝利だ。


 サピィが、地に降り立つ。その途端に、バランスを崩した。



「いかん、サピィ!」


 俺は、床に倒れそうになったサピィを抱きとめる。


「大丈夫か?」

「はい。さすがに一撃でデーモンを倒すとなると、骨が折れますね」


 ですが、とサピィは続けた。


「レベルアップしました」


 そうか。サピィの狙いは、これだったんだ。レベルを上げるには、自分で魔物を倒すしかない。


「これが、【オーブ】です」


 スフィアよりひときわ大きい、球状のダイヤジュエルを手に掴んでいる。


「今の私が手に入れられる、最高スケールのフィーンド・ジュエルです」


 オーズサイズのジュエルを作るために、サピィはデーモンと死闘を演じたのだ。


「ありがとう、サピィ。でも、もうこんなムチャはしないでくれ」

「ムチャをしなければ、ジェンマに手が届きません」


 サピィの意思は固い。その思考が、死に繋がらなければいいが。


「ダメだ。お前には生きていてほしい」


 俺はもう、大事な人を二度と喪いたくない。


「お前は、ジュエルを生み出すだけの道具じゃないんだ。俺たちの仲間だ! もっと自分を大切にしてくれ」


 俺の背中に、サピィの手が回った。


「ランバート。ありがとう。でも……」

「でも、なんだ?」

「この体勢は、ちょっと」


 サピィがずっと、顔を赤らめていた。


「どうしたサピィ? 熱でも」

 

 さっきから、サピィの体温が高い。

 

「いえ、そうではなくて、ですねぇ」


 よく考えたら、俺はずっとサピィを抱きしめている。


 俺はやっと、自分が何をしているかに気がついた。


「おわ、すまん!」


 慌てて、俺はサピィから離れる。


「いえ、いいんです。ありがとうランバー、ト」


 しかし、またサピィはよろめいた。

 

 これは、また抑えてやっていいものか。

 一瞬ためらってしまう。

 

「うわっと。アタシが肩を貸すぞー」


 同性であるトウコが、なんの気兼ねなしにサピィを抱きとめる。


 サピィの丹田の辺りに、トウコは治癒魔法をかけた。


「一応、血は止まってる。けれど、これから先はアタシの力だけじゃ無理だな。腹いっぱい食べるか、エリクサークラスの治療薬を飲んでくれ」

「ありがとうございます、トウコさん」


 外部から栄養を取り込まないと、今のサピィは回復しないらしい。

 モンクレベルの治癒師が言うんだから、真実だろう。


 ありったけのポーションを、俺はサピィに飲ませた。

 トウコも、自分用の非常食をサピィへ差し出す。


「みなさん、ありがとうございます」


 干し肉や乾燥パンを頬張りながら、サピィは何度も頭を下げた。



「ところでサピィ、秘宝殺しとは?」


「話せば、長くなります」


 俺の問いかけに、サピィは黙り込む。


「構わん。教えてくれ。あのヨロイについた傷跡は、俺が付けたものだろ? 何か知っていることがあるんじゃないか?」


「コナツさんの元へ、戻りましょう。すべてはそこでお話します」



 まずはコナツの工房へ戻り、完成した装備をもらうことに。

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