サピィの捨て身

「どうしました? 逃げているだけでは、このワタシに致命傷を追わせるなどできませんよ!」


 マンティダエが、サピィを挑発する。


「あなたの方こそ、決め手に欠けるのでは?」


 サピィも負けじと、マンティダエを煽った。


 しかし、マンティダエは堪えていない。

 サピィが攻めきれていないとわかっているから。


 無属性攻撃は、たしかに万能だ。確実にダメージは入る。とはいえ威力は低い。


 おまけに相手は、驚異の再生力で回復しているのだ。このままでは。


「こしゃくな!」


 サピィのスピードが緩んだスキを突き、マンティダエがアッパー気味のカマを振り上げた。




「ああ!」


 とうとう、致命的な一撃がサピィを襲う。



 受け身も取れず、空中にいたサピィが転落した。

 すくに体制を整えるが、息が荒い。


「大口をたたいていた割に、大したことはありませんな! サピロス王女!」


 勝利を革新したかのように、マンティダエが勝ち誇る。


 重要な血管を切ったのか、サピィの身体から赤黒い血液が。ダラダラと、血が床にこぼれていく。


「サピィ!」


 俺が身構えるのを、サピィは制止した。


「手を出さないでください。ご心配には及びません」


 ドリフトするように、サピィがこちらに舞い戻る。土煙が上がった。


「もう勝ちましたから」


 自信満々に、サピィは言い放つ。


 なのに、「勝った」とは?


 相手の脚はまったくダメージを受けていない。それどころか、わずかな傷など自然回復しているではないか。


 マンティダエがとどめを刺そうと動く。その瞬間だった。


 サピィの血が、魔法陣に触れる。


「なんと負け惜しみ……をぉ!」




 魔法陣が熱を発しながら光り、マンティダエの魔力を削り始めた。


 突如、マンティダエが動かなくなる。トリモチが足にへばりついたネズミのようだ。足を取られて、デーモンがヒザをつく。


「見ろよランバート、アレ、魔法陣じゃないか!」


 トウコが、アークデーモンの足元を指差す。


「あれは、高度な封印魔法じゃないか。自分の命を犠牲にして、相手の魔力を食うんだ」


 デーモンは、封印の魔法陣によって、動きを制限させられていたのだ。


「おのれ! この魔法陣は、弱体化の!?」


 なるほど。サピィはやたらめったら攻撃していたわけではない。相手を弱らせる魔法陣を描いていると悟られぬように動いていたのだ。


 破壊光線は攻撃のためじゃない。

 魔法陣を描くために撃っていたのか。


「し、しまった! 攻撃を受けたのは、自らの血でワタシを縛るつもりで!」


 勝利にこだわったマンティダエは、サピィの作戦には気づかなかった。

 いや気づいていたかも知れないが、思考が勝つことを優先したのであろう。


「ジェンマのしもべと落ちたこと、万死に値します!」


 声に怒気をはらみ、サピィが跳躍する。




「燃え尽きなさいませ。【インフェルノ】!」




 印を結び、サピィが魔法陣に力を込めた。


 サピィの血を媒介にして、魔法陣から黒い灼熱のプロミネンスが舞い上がる。


「ぬうごおおおおおおおおおおお!」


 いくら炎に耐性があるといえど、弱体化されている上に特大魔法を浴びせられたのだ。無事で済むはずがない。

 ましてや、絶大な魔力耐性が仇になっている。

 デーモンは、再生能力のせいで傷つく度に回復してしまう。

 早く死にたいのに。


 やがて、その不死身の体が骨と化す。それでもなお、サピィへと手を伸ばしてきた。


「さすがですなぁ、サピロス王女。ビヨンド・オブ・ワーストの一角を担うだけありますな。しかし、禍々しきヨロイ【テン・リュー】は目覚めました。我らの悲願は成就したも同然!」




「……そのヨロイとは、このことですかな?」




 ガランと、胸当てがマンティダエの眼前に。

 持って来たのは、シーデーだ。



「ばかな! これはテン・リュー!?」

 

 ヘラヘラ笑っていたマンティダエの表情が、絶望へと変わる。

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