一対一の勝負

「何をするつもりだサピィ! 危険だ!」

「ジェンマの行動は、なんとなく読めました。彼女の目論見は、ことごとく潰していきます」


 少女を前に、マンティダエは舌なめずりをする。相手をエサだと思っているようだ。


「いいでしょう。だが、あなたは油断ならないお方です。それがわからなかったから、配下共は力尽きたのでしょうしね。そこの人間たちのおかげですかな?」


 マンティダエも、むやみに攻め入ったりはしない。

 サピィの小さな体躯に眠っている大量の魔力を、絶妙に感じ取っている。

 相手との会話で情報を得つつ、「どう攻め込んでやろうか」などと考えているようだ。


「人間が怖いとおっしゃるの? ご安心を。でしたら、この二人には手を出させないようにしましょう」


 サピィが、マンティダエを挑発した


 魔族が、口を歪めた。腹を立てているらしい。


「人間が怖いとおっしゃるのでしょう? それくらいのハンデは付けて差し上げます」


 なんと、サピィは俺たちの手を借りないという。


「ムチャだサピィ!? たった一人でアークデーモンと戦うなんて!」


 たしかに、俺たちでは戦力にならないかもしれない。とはいえ、回復役や壁役にはなるつもりだった。なのに。


「ランバート、アナタの手はわずらわせません。」


 俺たちの会話を聞きながら、怒気を孕んだマンティダエがわなわなと震えだす。


「言わせておけばサピロス王女、死ぬのが怖くないらしい」


 呆れ顔でありつつ、マンティダエの言葉にはバカにされた怒りが混ざっている。


「あなたこそ、人間を恐れていらっしゃるようですので。言っておきますが、彼らは私の何倍も曲者ですよ。一人で相手して差し上げることに感謝なさい」


 サピィも、強気に返す。


 いつものサピィらしくない。

 相手を露骨にけなすようなタイプではないはずだが。

 

 とはいえ、俺ではサピィの思惑までは探れない。


「よろしい。では一対一で勝負しましょうぞ、サピロス王女」


 とうとう、相手がサピィの誘いに乗ってきた。


「平気か、サピィ?」

「ご心配なく」


 一方、サピィは平然としている。

 なにか企んでいるのだろうことは確かだ。

 けれど、まだサピィの心のうちは読めない。


「さて、あなたはどのような悲鳴を、上げなさるのですかねえ!」


 腹のクラッシャーが、ヨダレを垂らしながらグチャグチャを音を鳴らす。


「アナタの食事になるつもりは、ございません。お覚悟を!」


 サピィの方が、前に出た。相手の懐に飛び込んでいく。


「インファイトだと!?」


 マンティダエ相手に、サピィは接近戦を挑む。バカな。トウコでさえ踏み込もうとしないのに。


「よろしい、我がカマにて首を切り落として差し上げましょうぞ!」


 カウンターで、マンティダエがカマキリのカマを突き出す。魔力も上乗せされているため、サピィでも喰らえば致命傷は免れない。


 怨念のような一撃を、サピィはスライム状に溶けてかわした。


「ほほう。少しは実戦慣れなさったようで!」


 驚きのあまり、マンティダエは硬直する。


 そのスキを突き、人間の姿になったサピィが破壊光線を脚へと撃ち込んだ。


「ぬ、小娘の分際でやりますな!」


 マンティダエも追いかけるが、サピィのスピードに追いつけない。


 踏み潰そうと足を上げたら、反対の足に光線を撒く。


 さらにサピィは自身を分身させて、ミニスライムの手からも破壊の一閃を撃つ。しかも、足元だけに。


 おろらく、カマの射程をすり抜けているのだろう。

 体格差をカバーするために脚を攻めている。

 格闘家がローキックを放つように。


「小娘らしい、チマチマした攻撃ですな。さきほどのウィザードが使った攻撃だと千日手になると教えていた割に」


 一向に、マンティダエが疲弊する様子はない。

 脚を焼く程度では、ロクなダメージにはなっていなかった。

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