刺客と、隠し剣

「ランバートッ! サンドワームの上に、人がいるぞ!」


 トウコが、ワームの口の上を指さした。


 見るとたしかに、ガッチリした体型のアーマーをまとった大男が。胸部分までパイプがつながった、マスクをしていた。背中から、蒸気を放出していた。


「我は【墓穴】のブルーノ。χカイの領域に踏み込もうとする愚か者共よ。ここで朽ち果てるがいい」


 機械音のような声で、ブルーノと名乗った男が声を発する。あの男も、秘密結社χの一味か。


 ブルーノが、ワームを操作した。大きく旋回し、速度を上げてこちらに向かってくる。


 ワームの口内は、掘削ドリルのようになっていた。


「おらああ!」


 巨大ワームの攻撃を避けると同時に、【ディメンション・セイバー】を放つ。


 だが、刀からの衝撃波は、ワームの装甲を切り裂けない。硬いというより、弾力がありすぎる。跳ね返されるのだ。これでは、トウコの格闘術も役に立たないだろう。


 フェリシアの銃を、口の中に撃ち込む手もあった。だが、危険すぎる。

 同じことを考えていたのか、フェリシアは手に銃を持っていた。


「ムリをするなフェリシア。対策はこっちで考える」


 仲間を失えば、俺たちの旅はつらいものになる。


 とはいえ、攻めあぐねているまま防戦一方に。どうにかアイレーナのギルド隊員は、守れているが。彼らには重大な任務がある。死なせるワケにはいかない。


「ランバート、あのワームはχと一体化しています」


 サピィが、教えてくれた。


 背中のパイプと、ワームが繋がっている。


「わかった。俺に任せてくれ!」


 なにも俺は、自分を犠牲にしに行くわけじゃない。今こそ、この剣を試すとき。


「おらあああ!」


 俺は、ワームの背中に飛び乗った。


「ランバート!」


「来るなトウコ! フェリシアと一緒に、ギルド員を守れ!」


 コイツは、俺がやる。


「ムダなことを。おとなしく粉々になるがよい」


「あいにく、墓穴を掘る趣味はなくてね」


 ブルーノの斧を、刀で受け止めた。


「非力な魔術師と聞いていたが、ウワサは本当だったか」


 さすがχの刺客だけあって、自身の戦闘力も高い。


「こんなエルフより細い枯れ木のような腕で、よく今まで生きてこれたものだ」


「仲間の協力があったからな」


 ブルーノの斧を、【イチモンジ】で受け止める。

 俺は隅にまで押し込まれた。


「うお!?」

 ワームの背中で足を滑らせて、転落間近に。


 どうにか落下は阻止できた。が、転倒して仰向けになってしまう。


 落ちれば、ワームに潰される。

 そうでなくてもブルーノを倒さなければ、斧で真っ二つにされるだろう。


「これまでだ。死ぬがよい【秘宝殺しレア・ブレイク】!」


 さらに、ブルーノが斧を振りかぶった。


「お前も俺たちの絆の力、味わうがいい!」


 鞘に、俺は魔力を込めた。鞘の奥が、青く光る。


「な!?」


「おらあ!」


 刀の鞘が、二つに割れた。【イチモンジ】の中から、【黒曜顎コクヨウガク】が姿を現す。黒曜石でできた刀を、俺はブルーノの腹に突き刺した。


「ぐふううう!」


 全身を覆うアーマーの中で、ブルーノが爆発する。


 同時に、サンドワームが動きを止めた。列車並みの巨体が、ジュクジュクとしぼんでいく。


「やったな、ランバート!」


「強敵だった」


「それにしても、その刀は? 父ちゃんが作ったのか?」


「ああ。イチモンジと黒曜顎を、一本にまとめたんだ」


 いわゆる仕込杖や、隠し剣と呼ばれるものである。


「ランバート、これを見てください」


 サピィが、ブルーノの残骸を指さした。


 死体の元へと向かう。


「な、これは……」


 ブルーノは、シーデーと同じ【フォート族】だったのである。つまり、ロボットだ。


「すまないシーデー、同胞を殺してしまった」


「構うものですか。あなた方も姫も、同族と戦っているではありませんか。同じ型とは言え、思想は違います」


 シーデーは、気にする様子はない。


「ですが、この付近のフォート族は、敵か味方かわかりませぬな」

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