また強くなったランバート また新しい仲間に洗礼

 作業中のコナツに、アイレーナからヒューコに来てもらった。

 その際、ビョルンとのあいさつは済ませている。


「ほほう。どれも一級品じゃねえか」


 ダフネちゃんの店を見渡しながら、コナツは口笛を吹く。


「ルエ・ゾンの知恵をお借りして、具現化しているだけなのです」


 恐縮しながら、ダフネちゃんがペコペコ頭を下げた。


「どういうことだ?」

「彼女たちは、ルエ・ゾンが使役している精霊だよ」


 手が足りなくてできないことを、精霊にさせているらしい。

 その際に、ルエ・ゾンは自身の知恵を精霊に授けているとのこと。つまり、みんなルエ・ゾンの分身ともいえる。


「終始忙しくしてて気難しいルエ・ゾン本人より、ダフネちゃんと話したほうが効率がいいかもな」


 コナツも、ルエ・ゾンの性格をよく把握していた。


「よろしくです。刀も預かっているです。今性質を確かめて、どうすれば魔力の流れを制御できるかチェックしているです」


 全面的に、オレの刀はダフネちゃん自身が面倒を見るらしい。


「わかった。ジュエルの何割かは、そっちで加工しても構わねえ。その代わり、刀をよろしく頼むぜ」

「ありがとうです」


 さっそく、装飾アイテムの試作品を作ってもらうことに。


「手持ちのジュエルを見せな」


 塔で拾ってきたジュエルを数個、コナツに見せる。


「こういうとき、現地で拾ってきたジュエルを使えるっていいよ……な」


 コナツが、渋い顔になった。


「お前、またなんかやらかしたか?」


 そのジュエルは、小粒だが普段より光っている。


「どうした、粗悪品でもあったか?」


 たしかに、今回拾ってきたジュエルは、どれも小粒なのだ。


 もしかして、俺は弱体化したのかとさえ思っていた。


「粗悪品どころか、一級品だ」


 手に持ったジュエルを、コナツは俺に見せる。


「見た目が最下級のシードなのに、最上級のオーブ並の魔力なんだが?」


 ジュエルを日に照らしながら、コナツはやけにニヤニヤしていた。


「理由はなにか、わかるか?」

「よく言うぜ。お前さん、いつの間に、『ドロップと同時にエンチャントが完了したジュエル』なんて出せるようになったんだ?」


 コナツから、妙な話を聞く。


「俺は、そんな芸当なんてできんぞ」

「いや。コイツはたしかにエンチャ済みだ。お前の魔力をビリビリ感じるぜ。しかも、今までとはケタ違いだ。ジュエルの限界値を越えた量の魔力が、こんな小さい粒に詰まってやがる」


 コナツの話を聞きながら、サピィもうなずいている。


「やはり、コナツさんも気づいておられましたか。そうなのです。このジュエルからは、凄まじい魔力が検知されました。ジュエル開発当時の、全盛期すら上回ります」

「そこまでなのか、サピィ?」

「ええ。ランバート、あなたは下級とはいえ、魔王を倒しました。それによって、常人よりも遥かに高みへ到達したようです」


 俺に、そんな力が。


「まっ、ひとまずジュエルは折半ってことで。あとランバート、ちょっといいか?」

「どうしたんだ?」

「エンチャントのレベルって、下げられるか?」

「ああ。調節は可能だ」


 コナツは「助かった」と返す。


「なるほど。エンチャントしたジュエルのレベルが高すぎると、使い手にも高いレベルが要求されるんだったな」


 自分の装備を強くすることに固執しすぎていて、忘れるところだった。


「じゃあ、現存するジュエルにエンチャントする際、レベルをこちらが指定しても構わないか?」

「もちろんだ。俺としても、その方が助かる」


 毎回ジュエルを拾う度に、膨大な魔力をジュエルに施す作業は辛かったのだ。今ではそれほどでもなくなったが、まだキツイところではある。


「オレもテスト用に、ジュエルを持ってきた。これを三〇レベルくらいで調節して、ダフネちゃんに。こっちは二〇だ。あとは、一〇くらいでちょうどいいや」


 コナツに指示されたとおり、手頃なレベルでジュエルをエンチャントした。


 魔力を込めたジュエルを、俺はダフネちゃんに渡す。


 あと、コナツはダフネちゃんに、軽くジュエルの扱いについてレクチャーを施した。ソケットの開け方や、ジュエルの種類などだ。


「ありがとうです」

「礼を言うのはこっちさ。んじゃ、頼むぜ」

「はいです」


 コナツは商談を終えて、帰るという。


「じゃあ、メシにしようぜ。新しいメンバーも加わったことだしよぉ」


 となると、あれか。


 アイレーナへ戻ると、さっそく鍋を囲んでの酒盛りが始まった。

 ビョルンがいることで、より豪勢になっている。


「まま、ダークエルフとドワーフで、仲良くやろうぜ」

「おう、まだひよっこだが、よろしくな!」


 ビョルンとコナツは、まだ昼間なのにすっかりできあがっていた。お互いに酒を酌み交わし、語り合う。


「そうだ。コナツ、この銃と服をサピィからもらったんだが、オイラが着ちゃっていいのか?」


 ビョルンが立ち上がり、装備をよく見せるためにくるりと回った。下がスカートっぽく、中性的なデザインだ。


「いいっての! これはよぉ、トウコが着てくれなかったんだよぉ。ピチピチだし、かわいすぎるってんでさぁ。絶対似合うって思ったのによぉ」


 親バカコナツが、涙ぐむ。


「まさか男が着るとは思ってなかったが、いいんだ! 似合ってんなら、着ておけ!」

「サンキュ! これ、気に入ってるんだよ」


 ビョルンも、まんざらでもない様子だ。


「おいおい、ところでビョルンよぉ。全然、食ってねえじゃねえか! もっと腹に入れろ! 大きくなれねえぜ!」


 これだ。コナツの家では、これがある。大量のメシと酒という洗礼が。


 コナツの言う通り、ビョルンの鍋は二、三杯おかわりしただけで、減っていなかった。


 俺やサピィは、五杯も食ったというのに。


「いやいや。これ以上飲むとさ、腹が出ちまって服が着られなくなるからさ」


 うまい。どうにか言い訳をして、ビョルンは洗礼から逃れようとしている。


 フェリシアのように、「うっぷ」をムリをしない。


「踊り子だから、めちゃ運動するんじゃねえのかい? だから食うだろ」

「そりゃあ食うさ。とはいえ、限度があらあ。たんまり食えば、やっぱ脂肪になってしまうからね」

「それもそうだな! ガハハ!」


 豪快に、コナツは酒を煽る。


 ビョルンも適度に酒を飲みつつ、鍋をつまむ。文字通り、「食えない」男と言えよう。


「オヤジがここまで人と仲良くなるのは、あんまり見ないんだぞ」

「だな。コナツはただでさえ人当たりはいいが、打ち解けるまでには時間がかかるんだ」


 やはり職人なので、「相当使える人物」でなければ心を開かない。

 手の内がバレてしまうからだ。

 なので、極力警戒をする。


 連れてきてよかった。 


「ランバート、聞いてもいいですか?」

「どうした、サピィ?」

「ギルドでのやりとりから、あなたの優しさが伺えました」


 俺は、首を振る。


「ソロ狩りの大変さを、知っているからな」


 クリムのパーティを離脱した後、俺はソロ狩りの辛さを知った。


「俺はすぐに、サピィたちと合流できた。あれは奇跡だった。俺は、サピィのマネゴトをしたに過ぎないんだよ」


 サピィがいなければ、俺はまだ一人だっただろう。


 自分の持っている力にも、気づけなかったかもしれない。


「ありがとう、サピィ。俺と出会ってくれて」

「……はい」


 頬に手を当てながら、サピィはうなずく。


「よし、じゃあ、仕事に行くかな?」


 ビョルンが立ち上がった。


「これから、バーでダンスの仕事があるんだ。みんなも、見に来てくれよな」


 そう言って、ビョルンはヒューコの酒場へ戻るという。


「わたしたちも、行きましょうか。しばらくダンジョンへ潜りましょう」

「そうだな。じゃあコナツ、俺たちはこの辺で」

「おう! またな!」


 調節が必要な装備だけ渡して、俺たちはヒューコへ向かった。

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