ドラゴンとの戦い

 ゴキ、ゴキ、バキバキ、と、【弔砲ちょうほう】プロイセンの肉体が歪む。

 折れてはいけない方向へ背骨が曲がり、関節をグキグキと鳴らしながら肩を回す。


 まごうことなきドラゴンとなった。


「なんと、ドラゴンが人間になっていたのか」

「オレは人間を機械に改造したのではない。機械を通じてドラゴンを人間に改造したのだ」


 モンスターがハンターとなるのは、珍しくない。

 だが、よりによってドラゴンとは。


「ドラゴンといっても、下等種レッサーだがな」


 力を求め、ドラゴンの姿を捨てたか。


「人間社会に溶け込むこと自体は、ドラゴンの習性でもある。だがオレは下等ゆえ、人に化ける能力がなかった。なので、χカイに協力する代わりに身体を得たのだ」

「弱体化では?」

「オレの役目は、荒事だけではない。人の姿でなければ、やりづらい仕事もあるのでな」


 だから、機械に可能性を求めた、と。


「χの実験体となることで、オレは人でありながらドラゴン本来の力を失わなかった」

「日常に、支障をきたすのでは?」

「そうでもないさ。常に新鮮な気分だぜ。ドラゴン時代の方が不便だった」


 下等種では、そうなのかもしれない。


「だが、やはり戦闘においてはこちらの方がやりやすい!」


 ドラゴンとなったプロイセンが、火球を吐き出す。三連続で放出してきた。


「おおおお!」


 後ろへ飛んで、よけるしかない。壁際まで追い込まれる。


 更に、ドラゴンが追い打ちの火球を飛ばしてきた。


 壁を背に、ダッシュして回避する。


 ビルの壁が、ドロリと解けた。


「くそ、おらああ!」


 攻撃をかわし続けながら、俺はソード・レイを振り回す。

 Dディメンション・セイバーを乱れ打ちにした。


 ヤツに秘宝殺しレア・ブレイクは通じない。


 プロイセンからすれば、俺の魔法など普通の攻撃だ。

 どこまで相手に通用するか。


 全方位を、Dはセイバーが取り囲む。


 腕の一振りで、ほとんどの衝撃波が消し飛んだ。

 背後を狙った数発も、プロイセンにはたいして効いていない。


「うご!?」


 撃破されたDセイバーの衝撃波で、俺は吹っ飛ぶ。魔法障壁が、間に合わなかったのだ。


「ジャッ!」


 岩のような腕から、プロイセンが突きを繰り出す。


 紙一重で、殺人的な手刀を回避した。


 ドラゴンの腕が、ビルの壁を穿つ。だが、勢いが付きすぎて抜けないらしい。


 ソードレイの光刃を、動けない相手に振るう。腕の一本でも切り捨ててやろうか、そう思っていた。


 しかし、鈍色のウロコは俺の魔力でできた刀など簡単に弾いてしまう。


「そうはいかん!」


 腕力で強引に、プロイセンはビル自体を壊す。


「くそ、【疾風】!」


 風の魔法で、緊急回避した。


 さしものドラゴンも、重い身体では俺に追いつかないらしい。


 プロイセンの腕が刺さっていたビルが、大きな音を立てて崩れ落ちる。


 しかし、打つ手がなくなった。


 これが、本気を出したドラゴンか。


「ムダだ。オレにお前の技は通じない。邪魔をしないでもらおう。オレはヴァスキーを取り込んで、神となる」


 戦火の奥に、ヴァスキーのシルエットが見えた。もう目前に迫っているのか。


「それが、お前の目的か!」

「オレたちレッサーは、ドラゴンでありながら劣等種の烙印を押されてきた。所詮は人間より知恵があって強いだけだ、と。今度はオレが神となって、ドラゴン共を支配する側に立つ」


 だから、χカイに協力していると。

 どうりで、ドラゴンなのに闇ギルドとの繋がりがあると思っていた。


「身体を改造したのも、機械神であるヴァスキーと適合するためだ」


 それにしても、デーニッツがプロイセンとライバル関係だったとは。

 デーニッツはかなりの実力者だったのだろう。


「さあ、トドメといこう。最強になったオレを見せられないのは、実に残念だ」

「何を、勝ち誇っている?」


 勝利を確信したプロイセンに、俺は言い返す。



「俺は、お前が恐れたデーニッツを倒したんだ。勝つのは、俺だ」

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