サムライ術士 ジェンマ

「戦うのはいいが、燃えている街をなんとかしないといけないぞ!」

「ご心配なく、トウコさん。シーデー、あれを!」


 サピィの合図で、シーデーが兵器を持ち出す。


 シーデーの新兵器であるブラスターから、青白い結晶が放たれる。

 火炎放射器とは逆に、氷の魔法石が施されていた。

 街を燃やす炎が、シーデーの氷魔法によって沈下していく。


 一体のインプが、シーデーの消火活動を邪魔しようと飛び出す。


「飛んで火に入る夏の虫、ですなっ!」


 氷結ブラスターは、魔物すら氷漬けにした。

 シーデーが、キックで凍ったインプを砕く。


「今のうちに逃げろ! 手の空いたものは、火を消すのを手伝ってくれ!」


 魔物撃退が落ち着いたタイミングで、俺とサピィも消火作業を開始した。


「見てください、ランバート! ものすごい凶悪な瘴気が、迫ってきています!」


 サピィが端末を見せてきた。


 俺も端末を調べる。赤い円が、この地点に向かってくる。


「王宮へ急ぐぞ」

「待ってください。行き先は……王宮じゃありません!」

「どこへ向かっているんだ?」



「この軌道だと目的地は、ここです!」


 本当だ。カーソルが、王宮とは反対方向に進んでいた。


 俺たちの立っている場所だ。


 目の前に、かつて訪れたブティックがある。こんなところにまっすぐだと……まさか!?



「ヤツラの狙いは王の命ではなく、レアアイテムだと?」



「その可能性は高いかと……来ます!」


 空から、何者かが舞い降りた。


 天使か悪魔を思わせたが、そのいずれとも違う。


 一人のハンターが、ブティックの屋根に降り立つ。


「なんじゃあれは!?」

「大物だぜ!」


 ドワーフウォーリアとエルフウィザードが、思わず手を止めて見入っていた。


 白いローブに身を包み、手には杖を模した赤い仕込み刀を携えている。

 ローブを取ると、少女の顔が。

 鋭い眼差しには、サピィに対する殺意にあふれていた。


「とうとう、現れましたね、ジェンマ!」


 あれが、ジェンマ・ダミアーニか。


「賊め、覚悟!」


 ペールディネの騎士が、左右から斬りかかった。

 一人は盾と剣、もうひとりは槍を手にして。


 ふう、と、ジェンマは息を整えた。杖に手をかける。


 ドン! と、重い音がした。


 直後に、武器ごと両断された騎士の死体が転がる。


 いつの間に刀を抜いたのか、わからなかった。


「気をつけてください。彼女はサムライのスキルを有しながら、魔術師としても一流の腕を持ちます! 今の技も、風属性の魔法を剣術に応用したのです!」

「あれは仕込杖ではなく、魔術用の杖か」


 構えてからの動きが、わからなかったわけだ。


「ここで決着を付けます、ジェンマ!」


 サピィが跳躍した。ジェンマと肉薄する。


 お互い、デーモンロード同士の戦いだ。その戦闘は熾烈を極めた。


 シーデーですら、もう見守ろうとしない。自分の仕事をこなす。

 怖いのではない。手を出してはいけないとわかっているのだ。


「くそ、何もしてやれないのか! おらおらぁ!」


 俺にできることと言えば、サピィとジェンマとの戦闘に水を差そうとするヤツラを蹴散らすことだけ。ひたすら剣を振るう。


「随分と従順な人間を飼っているな。やはり貴様は、ゲスなモンスターよ」

「あなたの好きにはさせない!」


 屋根の上で、サピィとジェンマが戦いつつ口論をした。


「なぜ父を殺したのです! あなたのお父上と我が父は、親友だったはず」

「ダミアーニはそうかもしれん。だが、ワタシとお前が友であった憶えはない!」

「自分の親とも決別して、覇道を行くのですか!?」

「これは、【禍宝オミナス】の意思だ!」


 俺も加勢に入るべきかと、剣を構える。


 次の瞬間、粘ついた瘴気が辺りを覆った。サピィやジェンマでさえ、動きを止めるほどの。


「くっ……新手か」


 俺は、殺気の出どころに目を向けた。


 ドクロヨロイの男が、ゆっくりと歩いてくる。


「デーニッツ……」


 しかも、その男は俺もよく知っている人物だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る