χ《カイ》の脅威

 エルトリは、フェリシアの一件で王妃と離婚依頼、王が失脚した。

 正室が幸運を運んでいたらしい。


 ヒューコは、王族に野心はなかった。

 その分、大臣以下が威張り散らしている。


「ヒルデが狙われたのは、必然のように思えてならない」

「私も、そう思っているのだよ」


 サドラー国王が、膝を付く。組んだ両手で額を支えた。


「これは、我が国に対する両国からの宣戦布告なのではないかと」

「だが、そう思わせることが敵の狙いかもしれない」

「その可能性が拭えない。この事件には、もっと大きい力が働いている」


 敵は、オフェーリアことフェリシアの存在を知っているくらいだ。


「ヴァイパー族も、関与しているのか?」

「わかりません。ですが、組んでいてもおかしくはない」


 エルトリとヒューコがおとなしいのは、ヴァイパー族という共通の敵がいるからだろう。

 彼らが壊滅すれば、いずれこの二国はサドラーに牙をむく。


「だから、ヒルデはどちらにも嫁ぎたくないと」

「どうせ戦争の道具にされるだけ。だったら、好きに生きたいですわ。だから商売を覚えて、国を発展させましたの」


 実際、ヒルデには商才があったようで、その辺の商人よりレベルが高いのでは?


 ヒルデをさらったのは、「国力を衰退させる目的があった」といえないか?


「そういえば、χカイという闇ギルド結社に、聞き覚えはないか?」

「χですと!?」


 突然、サドラー国王が立ち上がった。


「まさか。どうしてこんな小さな国にχが」

「どうしたんだ? 知っているのか?」

「χとは、闇ギルドの総括組織ですね」


 盗賊団なんてレベルではない。

 国家転覆などの重大犯罪の影には、必ずχの名があったという。


「我が娘が、χに睨まれていたとは。それだけ、サドラーが脅威ということか?」


 額に青筋を立てて、サドラー国王は鬼の形相になっていた。


「調査は進行中だ。近々、関わりのある人物が、今夜動くと睨んでいる」


 それまで、こちらでゆっくりしていてくれとのこと。


「ランバート殿、皆さんには引き続き、盗賊団及びχの調査を願いたい。報酬は弾みます! 娘を守ってくれ!」


 サドラー国王が、必死に訴えかけた。


「頭を上げてくれ。喜んで協力するから」


 もはや、国だけの問題じゃなくなっているからな。


 ハンターギルドへ向かう。


「ヒルデ姫、工事完了しました」


 どうやら、ポータルの修理は完了したようだ。


「行ってみましょう」


 作業員が一人ポータルの魔法陣へ入る。

 数分後、ペールディネの職員を伴って帰ってきた。


「シーデーッ!」


 そこには、シーデーの姿も。


「お変わりありませんか、シーデー?」

「フルーツ運搬係の方ともども、無事です。大事ございません」


 シーデーが、サピィに報告をした。


「よかった。王女、こちらが私の部下でシーデーです」

「フォート族の方ですね。よろしく」


 シーデーと握手を交わし、続いて王女は職員もねぎらう。


「ありがとうございます。後は、警備を怠らぬよう」


「はい」と、職員が警備隊と交代した。


「夜まで、かなり時間がありますね。国を見て回りますか?」

「そうさせてもらおうか」


 腹ごなしに、街の中を見ておきたかった。

 危険な場所なども把握しておきたい。


「しかし、小国とはいえ結構な距離を歩くぞ。足が大変なのでは?」


 王女が履いているのは、ヒールだ。散歩には不釣り合いである。


「ご心配なく、ランバートさん。わたくしも、力を手に入れましたので。お願いします、ほっ」


 ヒルデ王女が、両手を胸の前で組んだ。


 なんと、王女の前に魔法陣が現れた。


 バイク大のリスが、陣から召喚される。


「デカイな!」


 トウコが、ビックリしていた。


「この子に乗せてもらいますから」


 王女が、背中にちょこんと座る。


「かわいいなー」


 うっとりした顔で、トウコは破顔した。

 あまり物欲しそうにしないトウコが、こんな顔をするとは。 


「召喚か。【シャーマン】のスキルだな?」

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