改造された戦士と魔術師

 俺たちの立つポイントは、リカオンを退治した辺りだ。


 二人組のハンターが、姿を表す。


 一体は戦士タイプで、金属ヨロイと身体を同化させていた。タワーシールドに、槍斧を装備している。


「おい、リカオンがやられているぜ!」


 ズタズタになったリカオンの死体を見て、戦士が悲鳴を上げた。


「マジかよ。オレらが埋めた石の力で、パワーアップしていたのに!?」

「こんなことができるやつが、まだいたのか」


 もうひとりは女性の魔術師で、腕を改造している。両手の配線コードが頭と直結していていた。頭にかぶっているヘルメットらしきものは、どうも補助脳らしい。


「クリム・エアハートじゃねえか?」

「バカ言え。クリムは行方不明だ。それより、さっさと済ませよう」

「命令だと、このあたりだよな?」

「ああ。早く済ませようぜ」


 騎士と魔術師の二名が、ダンジョンに何かを埋め込んでいる。


 見たところ、ふたりとも【サイバーウェア】に身を包んでいた。いわゆる「改造手術」である。


「あいつらは、元ハンターだ。修行に耐えられなくなって、魔物によって身体を改造してもらったんだ」


 今は、魔物と変わらないという。


「その魔物とは?」

「わからん。だが、ルエ・ゾンが手を焼くほどの実力者だってのはたしかだ」

「ならば、直接聞き出すまでだ」


 ビョルンが止めるのに耳を貸さず、俺はハンター崩れどもの前に。


「何をしている?」


 元ハンター崩れたちはギョッとした表情になる。しかし、すぐに我に返った。


「へっ。何をしていようがお前らには関係ねえ!」

「魔法の練習台になってもらうぜ!」


 野盗どもが、サイバーウェアを起動させる。


 戦士は筋肉が盛り上がり、魔術師は肉体の各所に強化を施した。


「フン。お前たちこそ、刀の練習台になってもらおうか」

「調子に乗るんじゃねえ!」


 戦士が、片手で槍を振り回す。


 刀で受け流し、反撃の突きを繰り出した。


 なるほど、たしかに腕は立つようだ。魔物の力を得ているのは、本当らしい。


 とはいえ、動きは乱暴だな。命のやり取りをしているはずなのに、えらく雑な攻撃ではある。弱いものとしか、戦ったことがないのだろう。しかも、確実に勝てる敵しか相手にしていまい。


「こんな奴ら、俺の敵じゃない」

「んだとぉ? オレはχの中でもダントツで腕力が高いんだぜ!」

「しかし、こんな狭い塔の中でくすぶっているようでは」

「ほざきやがれ!」


 力任せに、戦士が槍斧を振り回した。


 そこへ、術士のエンチャントが入る。


「ギャハハァ。構えているだけかよ! 潰れろぉ!」


 エンチャント魔法によって質量が数倍になった槍斧を、戦士が振り下ろした。


 槍斧が刀に触れた瞬間、俺は反射的に刀を振るう。相手の攻撃を受け流しつつ、反動を利用して旋回した。


「ぬう!?」

雷斬らいきり!」


 真一文字に、敵を切り裂く。


 戦士は、肉体を半分に両断されて息絶える。


「な、これは、デーニッツの【雷斬らいきり】じゃないか!?」


 魔術師が、俺から距離をとった。


 見よう見マネでやってみたが、うまくいったらしい。


 雷のような速さで放つ、カウンター技である。


「そんな。エンチャントの力なしで、あんな大技を。いくら【早熟】持ちでヴァスキーを倒したとはいえ、強くなりすぎています」


 サピィが、驚いた様子で俺の技を見ていた。


 エンチャントを用いない素の力でどこまで戦えるのか、試したかったのである。


「どれくらい、ランバートは強いんだ?」

「ちょっとした、デーモンロードクラスですね。魔王と肩を並べるくらいだと、思っていただければ」


 魔王の側近【デーモンロード】が相手なら、サシでも戦えるレベルか。


「いったいランバートは、どこまで強くなるというのでしょう?」


 俺は【早熟】というスキルを持っている。他人より、レベルアップが早い。


「どうした、そこまでか?」

「うるさいなぁ! デーニッツと同じ技ができるからって、いい気になるな!」


 魔術師は、両手に鉄をも溶かすほどの火炎魔力を収束させた。爆炎の魔法で、このフロアごと吹き飛ばす気だろう。頭に血が上っているのか。


「みんな、あたしの後ろに避難してっ!」


 フェリシアが大型の盾を構え、俺以外の全員を下がらせた。


「【ホーリーウォール】!」


 全員が避難したことを確認して、フェリシアが盾に魔力を込める。


 フェリシアたちの前方に、光の壁が発生した。


「あんたも早く!」

「俺はいい」


 手招きをするフェリシアに対し、俺は首を振る。


「何を考えているの!? 早く逃げないと!」

「本物のエンチャントがどんなものかを、教えてやる」


 俺は、刀を鞘へ納めた。


「バカが! 剣をしまってどうするってんだ!」


 このダンジョンを破壊するほどのエネルギーを、術士は充填完了したらしい。


「エンチャント!」


 俺は刀に、氷魔法のエンチャントを施す。俺の武器である【イチモンジ】は、相手を斬るというより「殴る」に適した武器だ。しかし、エンチャントすることによって切れ味を増す。最初から、エンチャント前提で開発された武器だ。


「なにをしても同じだ。死ねえ! 【デトネーション】!」


 自分の魔力回路すら焼き切るほどのエネルギーを、術士は放つ。


せつっ!」


 赤熱の爆炎を、俺は居合でかき消す。再度、刀を鞘へしまった。


「なあ!?」


げつっ!」


 困惑している魔術師の両手を、居合で斬り捨てて無力化する。再び刀を鞘へとしまう。


っ!」


 最後に、袈裟斬りで相手を両断した。


 ふう、と呼吸を終えて、刀を鞘へ収める。


「すっげえ。いくら落第者だっていったって、魔物クラスに強化されてやがるんだ。そんな二人を一瞬で」


 ビョルンが、口笛を吹いた。


「殺しても、よかったのか?」


 会話からして、敵はχカイの残党らしかった。情報を聞き出せたかもしれない。


「いらねえよ。こんな奴らは組織の末端だ。ろくな情報もねえ。下手に拘束しても、ギルドが危なくなるだけだぜ」


 ビョルンは、冷たく言い放つ。


「あんたも見ただろ? 爆炎の魔法。あれはおそらく、自爆用に持たせたようなもんだ。あんなもん、ギルドの牢屋でブッパされた日にゃあ」


 たしかに、危なかった。


「俺の判断は、正しかったか?」

「大正解ってやつだよ。お見事!」


 やや冷やかしっぽく、ビョルンは手を叩く。


「ちょっと待て……つまりこいつは、自身の判断で【デトネーション】を唱えていない?」

「そういうこった」


 仲間を遠隔でコントロールして、自爆させるヤツがいると。


 改造を施したのも、いざというときに操作するためか。「強くしてやる」と甘い言葉で勧誘して、自身の手足として動かしているのだろう。


「相当ヤバイ相手だぜ」

「そのようです」


 半分以上地中に埋まっていた魔石を、サピィは片手で軽々と持ち上げた。


「お嬢、これは!」


 シーデーが、魔石を見て言葉を失う。なにかあったのだろうか?


「ええ。あの女の仕業みたいですね」


 サピィが、ダンジョンに埋められた魔石を回収する。


「おいおい、素手って。チョクでそんなもん触って、大丈夫なのか?」

「平気です。わたしは魔族なので」

「ひええ。おったまげたねぇ」


 サピィの正体を知って、ビョルンが舌を巻く。


「それよりビョルンさん、ルエ・ゾンさんとの面談を早急に」


 ただならぬサピィの気配に、ビョルンは目を丸くした。


「わたしは、こんなことができる卑劣な輩に、心当たりがあります。ダンジョンで起きている異変も、我々なら解決できるかと」


 サピィの言葉を聞きながら、ビョルンはあっけにとられている。しかし、すぐに返答した。


「……わかったよ。そのデカイ魔石が、なによりの証拠だ。そいつを見せりゃあ、あの爺さまも態度を改めるだろう」


 俺たちは、災厄の塔から立ち去ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る