タコ殴りにされるドワーフ鍛冶屋
人間の魔王ファウストゥスと、クリムが繋がっていたとは。
「なるほど。
「ファウストゥスは、何を企んでいるんだ?」
「文明に頼りすぎた人類を、物質で物理的に支配することです」
モノに溺れたいなら、望みどおりにしようと、ファウストゥスは考えているそうだ。
「ランバート。χの本拠地は、【龍の背骨】で間違いありません」
膨大な資源があり、難攻不落の要塞を築く場所として、龍の背骨はうってつけだと、サピィは語った。
「魔物でさえ、立ち入るのをためらう場所だ。そんなところに?」
「だからこそです。ファウストゥスなら、χを束ねられるし、龍の背骨だろうと根城にするでしょう」
たしかにここなら、誰にも邪魔されず研究に没頭できる。
「とはいえこれだけ見ても、ファウストゥスとクリム氏との関係はわかりません。やはり直接会う必要があります」
「そうだな。おそらく、クリムもそこにいる」
俺たちは、ダイブを終えた。
「なにかわかったの?」
「ああ。クリムの居場所について、おおよその予測はできた」
しかし、ここから先は大変な旅になる。
「準備をしに帰るよ。ありがとうグレース。おばさんにも伝えてくれ」
「気をつけてね。ごめんなさい。友だちのあなたに、なにもかも押し付けてしまって」
「俺は、そのためにいる。気にすることはない」
ペールディネを離れて、アイレーナの街へ帰ってきた。
「コナツ、クリムの居所が掴めそ……」
鍛冶屋に戻ると、ダフネちゃんがコナツの顔面を殴っていたではないか。
「いい加減に目を覚ますです!」
腹に馬乗りになって、何度も拳をコナツへ振り下ろす。
そのダメージは大したことがない。
ましてコナツはドワーフだ。弱いほうだとはいえ、タフである。
「いつまで腑抜けているですか、コナツ。あなたが立ち上がらなかったら、ランバートもサピィもみんな死ぬです! みんな、あなたの作る装備が命綱なのです! あなたもパーティです。あなたの想いを、全員が背負っているです!」
ダフネちゃんに殴られながら、コナツは抵抗しない。
「もういい。やめろダフネちゃん!」
「止めてはダメです、ランバート」
俺は抑えようとしたが、サピィが止めた。
「いいぞ。もっと殴ってやってくれ」
実の娘であるトウコも、父親がノームにタコ殴りにされているさまをじっと見ている。
「トウコはいいのか?」
「かまわないぞ。オヤジはきっと、自分のなすべきことがわかってるんだ。だから、反撃しない」
事実、コナツは拳からハンマーを手放していない。
「あなただって、わかっているです。どうすればいいのか。でも、あなたはまだ迷っている。迷っているなら、装備を打つです。ダフネちゃんたち生産職には、それしか真実にたどり着く道がないです」
ダフネちゃんの言葉を持ってしても、コナツは心を開いた様子はなかった。
「でも、オレの作った武器がクリムを殺すことになったら」
「お前の武器にやられるほど、クリムは落ちぶれていない!」
俺はサピィに引いてもらい、コナツと話す。
「ランバート?」
「コナツ、お前の武器は、クリムを探す重要な手がかりとなる。今や、クリムのような一流のハンターを探す手立ては、お前の装備しかないだろう」
他の店やダンジョンのドロップ程度では、【龍の背骨】を攻略できないレベルに達していた。
「俺が龍の背骨から、素材を大量に持ってくる。お前はそれを加工して、ダンジョン攻略のために装備を充実させてくれ。これは、お前にしか頼めないんだ」
「そこまで気にかけてくれるのか、ランバート」
コナツが、俺の手を握る。
「わかった。そこまで頼まれちゃあ、放っておけねえ! 野郎ども! 火を炊け! ボロくなったランバートの刀を打つ!」
コナツの指示で、弟子たちが活気づく。
「よかったのです。やはり響くのは、同業者より友だちの声なのですね」
賢者ルエ・ゾンの力で具現化しているためか、ダフネちゃんが達観したような言葉をこぼした。
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