友の葬儀:サピィサイド

 サピロス・フォザーギルは、シーデーのサポートの元、魔界へ帰ってきた。


【魔界】とは、地上階とは違う次元に位置する異界である。各世界のダンジョンと通じているが、魔物や魔族でしか行き来できない。


 ダミアーニの城内へ、歩を進める。


 ジェンマは友人が少ない。参列者は義理で来ているのだろう。本当にジェンマの死を悲しんでいる仲間は、ほんの一握りである。そんな人達に見送られて、ジェンマもさぞ無念であろう。


「落涙公だ」


 魔族の一人が発した言葉により、ただでさえ冷え切っていた葬儀場の雰囲気がさらに凍りつく。


 ただの魔物が、高貴なる魔族の場にくるとは、図々しい。

 魔族を倒して魔物から成り上がったくせに。


 様々な陰口を叩かれつつ、サピロスはジェンマの棺へ進んでいく。罵倒など意に介さない。

 サピロスとジェンマの友情の前に、彼ら「弱き魔族」の暴言など涼風に等しかった。


「待たれよ。サピロス・フォザーギル」


 一人の屈強な魔族が、サピロスの行く手を阻止する。


「ここは貴公のような者が足を踏み入れて良い場所ではない。お引取り願おう」

「道を開けてください。わたしは、ダミアーニ卿から正式に呼ばれて、この地に来ているのです」

「あなたが、魔族に対して攻撃をかけるのではないか、というウワサが立っている。この厳粛な場で、我々も騒ぎなど起こしたくないのです」


 無礼な態度ではあるが、筋は通している。

 彼だって、立場上サピロスと対立する形を取ったのだろう。

 他の魔族とのメンツもあるから。

 

 処世術とは難しいのだなと、サピロスは嘆く。


「こちらも、引くわけには参りません。友の葬儀なのです」

「落涙公、意地を張るようでしたら我々も」



「やめよ」



 たった一言で、喪主はその場にいる者たちを黙らせた。

 ダミアーニ卿である。

 筋肉質のボディは、今にも喪服を引きちぎりそうであった。


「娘の葬儀であるぞ。わきまえよ」

「申し訳ございません。ですが」

「私が彼女を呼んだ、と言ったはずでは?」


 サピロスに因縁をつけてきた相手が、冷や汗をかく。


「承知いたしました。サピロス殿、ご無礼を」


 魔族が、道を開けた。本当は自分など、背中から切り捨ててしまいたいだろうに。


「ありがとうございます」


 これで、ちゃんとジェンマとお別れができる。


「ジェンマ」


 棺の中を見せてもらった。瞳を閉じたジェンマが、中で眠っている。


「きれいだろ?」

「はい。まだ生きているみたいで」


 触れることは、さすがに許されない。

 しかし、亡き友の存在を実感することはできた。


 もう十分すぎる。サピロスは帰ろうとした。


「お待ちを、サピロス殿」


 モノクルを付けた老紳士から、呼び止められる。

 胸の紋章から察するに、ダミアーニ一族の執事か。

 サピロスを嘲るような態度は感じられない。


「ダンナ様が、あなたをお茶へ誘うようにと」

「お気遣いなく。落ち着きません」

「ぜひに。お見せしたいものがあるとのことでして」


 執事から「こちらへ」と、裏道へ案内される。


「表から行きますと、他の魔族たちが騒ぎ出しますので。窮屈でしょうが」

「結構です。で、見せたいものとは?」

「行けば、わかりますよ」


 意味ありげな言葉を放ち、執事は前へ進む。


 この先に、何があるというのだ?


 たどり着いたのは、魔族の屋敷内とは言い難い、機械まみれの部屋だった。


「ここは?」

「研究棟でございます」


 なんの研究をするというのか。

 まさか、このサピロスをモルモットにでもするつもりで?

 ならば容赦はしない。


 とはいえ、執事からはそんな殺気など感じなかった。

 むしろ、友好的な雰囲気すら漂う。


「どうか、警戒なさらずに。あなたの大切なものが、こちらにはございますゆえ」



 執事が魔法を唱えると、鉄製の扉がゴゴゴと音を立てて開く。


 目の前には、人間が入るサイズの培養カプセルが。


「ジェンマ!」


 サピロスが見たのは、培養カプセルに入れられたジェンマだった。

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