第220話Ⅱ‐59 少女たちの海水浴
■火の国 南方大森林
野営地を出発してどんどん細くなる道をバギーでゆっくりと進んでいくと、2時間ぐらいで潮の香が感じられた。海が近いのは間違いない、そのタイミングでようやく俺は気が付いた。
―海があるからって、砂浜があるとは限らない!
すぐに無線でサリナに話しかけた。
「サリナ、マリアンヌさんにこの先の海には砂浜があるか聞いてくれ」
「すなはま? それは砂がいっぱいあるところ? 昨日の絵みたいな?」
「そうだ、昨日の絵みたいな海かを聞いてくれ」
「わかった! お母さん、この先の海も昨日の絵みたいに砂がいっぱいあるところ?」
「・・です。・・・・から」
「うん、すなはまもあるってさ。お母さんは何回か来たことがあるって!」
「そうか、ありがとう」
良かった、このタイミングで絶壁しかないような海岸線だとお手上げだからな。しかし、この道を何回か来たことがあるのか?馬でもかなり大変な道のりだが、何しに来たんだろう?
そのまま1時間ほど進むと森の切れ目から青い海が見えてきた。左の方には木の柵のようなものが続いているのも見える。このあたりは日差しも強く、空気は乾いているが泳ぐには十分な気温だろう。
「わーい! エル、アナ、海だー!」
「すごーい! サリナお姉ちゃん、本当にこんなに水がたくさんあるんだ!」
ママさんの言う通り、たどり着いた海は広大な砂浜が広がっていた。それに、大きな
俺は無邪気な子供を見ながら、快適な環境づくりに着手した。まずは、いつものようにキャンピングカーを呼び出して、水着に着替える場所を確保する。その後は、大きなテントやマット、チェアやビーチパラソル等などをどんどんと砂浜に並べていく。こうなると、ちびっ娘にも働いてもらう必要がある。
「ミーシャ、サリナを呼んで一緒にテントを作ってくれ」
「わかった。 おーい! サリナ! 戻ってこい!」
「はーい!」
波打ち際まで行っていたサリナ達が戻ってくるのを見て、ママさんたちには先に着替えてもらうことにした。俺も暑くなってきたので、サーフパンツとタンクトップに着替えてからショーイ達と作業を再開した。テント、タープ、ビーチパラソルで日陰を作り、マットとチェアにテーブルを並べて快適環境が誕生した。冷蔵庫も出せなくないが、あえてクーラーボックスに氷を入れて飲み物を並べておく、なんとなく楽しい気分になってきた。用意が整ったので、サリナ達も着替えに向かったときに後ろから声がかかった。
「あら、素敵な場所ができましたね」
振り返ると、ママさんとリンネが水着で降りてきていた・・・凄い!ママさんは白のハイレグワンピースをチョイスしていた。そもそも何歳か知らないが、すごくきれいなおば・・・、お姉さまになっている。足が長く、腰は引き締まって、胸も大きく開いて谷間が・・・。リンネは真っ赤なフリルがたっぷりついたビキニになっていた。スカートのような?感じで腰のあたりにフリルのあるものだ。細い体形だが、胸はそれなりに・・・。それに何といってもリンネは色が白い、透き通るような肌に深紅のビキニが綺麗に輝いていた。
「あら、黙って見ていますが、似合っていませんか?」
「い、いえ、二人ともよくお似合いです。と、とっても綺麗です」
「ふふ、ありがとうございます」
「少し肌寒い気もするけどねぇ」
―死人に暑い寒いがあるのか? って言っちゃダメだな。
「それなら、何かその上に着るものを出すよ。泳ぐときだけ脱いでよ」
俺はパーカーや水着の上に羽織れる薄手のものを何種類も出して、テーブルの上に並べた。
「へー、こんなのもあるんだね。これなら、この水着の上から着ても良さそうだね」
リンネは麻でできたマドラスチェックのプルオーバーを着て、にっこりとほほ笑んだ。
―リンネもママさんも美人だよな・・・、化粧してなくてこれだけ綺麗なんだからな。
ママさんはパーカーを手に取ると目ざとくクーラーボックスの飲み物を見つけた。
「まあ!?これも飲んでも良いのでしょうか?」
「もちろんです、好きなだけ飲んでください」
「ありがとう、こんな素敵なところで飲めるなんて・・・」
ママさんはチェアに腰かけて優雅に足を組むと、缶ビールのプルタブを開けて美味しそうに飲み始めた。
―美しい・・・絵になる・・・が、もう少し小道具が欲しいな。
「マリアンヌさん、海がまぶしかったらサングラスをかけてみてください」
おれは大きめのサングラスを取り出して、ママさんに手渡した。ママさんは手に取っていじっているが・・・、そうか、眼鏡もないし、見たことないんだな。
「これは・・・」
サングラスを手にとって、ママさんの顔にサングラスをかけてやると、素敵な女優さんのような仕上がりになった。リンネにもわたしてやり、女優チームは優雅なビアタイムを楽しみ始めた。
「なるほど、海の光を減らしてみることが出来るのですね。これなら、ゆっくりとできますね。リンネ、あなたも楽しんでますか?」
「ああ、良いねぇ。まさか、こんな遠くまで来ることが出来るなんてねぇ。海って言うのは何だかゆったりした気持ちになれるところだね」
「ああ、海は見て、波の音を聞いているだけでも寛げるからね。別に海に入らなくても良いんだよ」
「じゃあ、水着もいらないんじゃないか?」
「ま、まあ、それは・・・でも入るかもしれないだろ?」
「そうだね、あたしは後で海に入るつもりだよ。せっかくだからね、次にいつ来られるかわからないし・・・」
二人の美女はゆったりとくつろいでチェアに体をゆだねて、サングラス越しに海を眺めていると、キャンピングカーから大きな声が飛び出してきた。
「わーい! 行くよ! エル、アナ!」
「はーい!」
俺の横をちびっ娘を先頭に三人の少女が海に向かって走って行った。サリナの水着は紺色の生地に花柄がプリントされたビキニだ。昨日見ていた雑誌の表紙に乗っていたモデルが着ていたもので、モデルはスレンダーだったから心配していたのだが・・・、意外と似合っているかな?やはりムチムチで水着からはみ出しそうになっている大きな・・・。まあ、本人がよければそれで良いんだろう。エルとアナは文字通りしっぽを振りながらサリナに続いた。二人も水玉の水着が子供っぽくて可愛い少女になっているが、3人は豪快に波の中に突っ込んでいった。
「ゲホッ! 何これ、変な味がする!」
「辛い、辛いよ!」
「でも、気持ちいいー!」
俺のイメージする女子の海水浴とは違う豪快な泳ぎっぷりで3人とも海に潜り始めた。髪もぐしゃぐしゃになっているがお構いなしだ。3人とも泳ぐのは得意なようでどんどんと沖に向かっている。
「あいつらは、もう泳いでいるのか?」
声を聞いてすぐに振り向くと、そこには俺のミーシャ様が水着を着て仁王立ちしていた。水着は何種類かの緑色の生地でプリーツと濃淡がつけられたワンピースだった。スカートっぽいものがついていて、普段のパンツルックと違って女の子っぽい!スタイルは予想通りスレンダーで足が長ーい!胸は無いこともないって程度の膨らみだ、サリナと足して2で割ればちょうどいいのだろうが・・・。
「どうした? 何か変なところでもあるのか?」
長く見つめすぎたのだろう、ミーシャが怪訝な表情で俺を見返してきた。
「いや、水着というか、うん、良く似合っているよ」
「そうか、動きにくくは無いのだが、やはり足元が少し頼りないな。これで森を走るとケガをしそうだ」
―いや、その時は着替えてくれ!
「よし、私も泳いでくる。お前は行かないのか?」
「ああ、そうだな。もう少ししたら行くよ」
「そうか、わかった。じゃあ先に行くぞ」
ミーシャもさっそうと海に向かって走り出した。そして、波打ち際を数歩走ると頭から飛び込んだ。先の3人もさっきからほとんど潜っている。海の中で何かを見つけて喜んでいるようだ。
―何かちょっと違うな・・・
俺のイメージではもう少しキャピキャピした感じで、水と戯れる少女を想像していたのだが、これでは小学生男子の海水浴だ。3人、いや4人ともガンガン潜っていく。華やかな雰囲気は全くない・・・が、それでも全員楽しんでいるようだから良いのか?
良し、ではあいつら用におもちゃを用意してやろう。波打ち際まで歩いて行ってから、水中メガネとシュノーケルを用意する。
「おい、サリナ! 潜るならこれを使えよ!目が痛いだろ!?」
「うん、そうなの。目が痛いの。何でかな?」
「塩水だからな。これを使えば水の中が見えるし、目もいたくない。それとこの筒を咥えて顔をつけるとそのまま息ができるからな。こんな風に・・・」
俺は自分で装着して、顔をつけて呼吸をする見本を見せてやった。
「ふーん、わかった! サリナもやってみる!」
さっそく自分で水中メガネを装着して、シュノーケルを口に咥えると頭から水の中に飛び込んだ! が、すぐに顔を上げてせき込んでいる。
「ゲホッ! ゲホッ! さ、サトルの嘘つき! 息したらみ、水 ゲッ!」
「ばかやろう!潜るときは息を止めるか筒から口を離すんだ! これは水面で使うんだよ」
「? 水面? 潜って遊んじゃダメなの?」
「いや、ダメじゃないけど・・・」
「サトル、私に貸してみろ、それの使い方は分かるぞ。筒を使って池の中を潜っていたからな」
―筒って、ミーシャ、あんたは忍者か!?
「そうか、じゃあこれを使えよ」
俺は何気なしに、自分がつかっていた水中メガネとシュノーケルを渡すと、ミーシャはすぐにメガネを装着して口に咥えた。うん、これで間接キッスまで進んだな。俺の変態的な満足には気が付かずに、ミーシャは水面を泳ぎ始めた。ちゃんとシュノーケルの先は海面に出て呼吸ができるようだ。だが、すぐに潜って姿が見えなくなった。
―こいつらはなんでこんなに潜るんだ?
「なあ、潜るのが好きなのか?」
「あれ? なんで?泳ぐって潜ることでしょ? 水の中には魚とかいっぱいいて楽しいよ!」
―泳ぐ=潜る?ってそれがこの世界のデファクトスタンダード?
「そうか、それならやっぱりメガネとシュノーケルの使い方を覚えろよ」
「うーん、できるかなぁ・・・」
自信なさげにしているサリナの元へ水中からミーシャが現れた!
「フワ―ぁ! ミーシャ、どうだった?」
「ああ、これは良いぞ! これなら行きたいところまで泳いで、そこで潜りたいだけ潜れるな! サリナたちにも使い方を教えてやるから安心しろ」
「本当? やったー!」
そこからは、ミーシャ先生のスキンダイビング教室が開催され、4人の女子は海女のように自由に潜れるようになっていった。
―なんか違う・・・、もっとこうキャピキャピとした・・・、女子の恥じらい的な・・・。
海水浴初日から俺の思惑は大きく外れつつあった。
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