第25話Ⅰ-25 ミーシャの実力

■バーンの宿屋


食事の後に俺はミーシャから地図の見方と迷宮について教えてもらった。

地図は開いた大きさが馬車で10日分の距離を示しているそうだ。


旅団の縄張りはバーンから南へ半円を描く範囲が割り当てられていた。

北の方-俺達がこの町に来た方角-は、縄張りでは無いのでフリーゾーンになっている。


地図の南側にはピザを切ったように縄張りが色分けされていた

南東が赤、南が緑、南西が白に薄く塗られている。

だが、南の山脈のあたりが無色だった。

ここが未開地という事になる。


町の周りにも色がついていない、概ね馬車で1日ぐらいの距離はフリーゾーンのようだ。


肝心の迷宮だが、周辺には何箇所か迷宮があって地図上には三角の印と数字が書いてある。

赤いエリアの中には三角が二つあるが、1の数字が割り振っている方が馬車で3日の距離だ。

サリナのお兄ちゃんはここに置き去りにされたのだろう。


「ミーシャさんはギルドで『旅団に入らなくても縄張りに入れる』みたいなことを言っていましたが、あれはどう言う意味なんですか?」


「単純な話だ、勝手に入れば良い。だが、見つかれば旅団に殺されるだろうな」


-じゃあ、駄目じゃん


「なるほど、密猟みたいな感じですね」


「いや、正しくはそうではない。縄張りは三つの旅団を整理するために作った物だ。だから旅団に入っていない者なら本来はどこで狩りをしても良いはずだ。だが、旅団が勝手に縄張りに入る者を排除し、ギルドと国がそれを黙認しているだけなのだ。だから殺されなければなんの問題も無い」


-スゲェ理屈だけど、殺されたら終りじゃん。


話を終えた俺は、ストレージに入ってシャワーを浴びた。

ミーシャにはしばらく消えるが魔法だから気にしないように言ったが、気にならない訳は無い。

俺が消えた空間の辺りをぐるぐる回って見ていた。


シャワーのほかにも使った物を片付けたり、明日の馬車を手配したりするとあっという間に2時間ぐらい経っていた。

ストレージから部屋を見ると、ミーシャはベッドに横になっていたが、サリナは膝を抱えてベッドの上に座っている。


こういう仕草を見てしまうと放って置けない気がする。

父性本能? 愛? 同情?

判らないが、このままだと俺の寝つきが悪そうだ。


「眠らないの?」


「サトルさんと一緒に寝ます」


-なるほど・・・、って!


仕方が無いか、こいつは淋しがり屋なのだ。


ランプを消して一緒に布団の中に入り、腕枕で添い寝してやった。

1.2.3・・・7を数えたぐらいで今日も寝付いた。


だが、今日はサリナが俺のスウェットを右手で固く握り締めたまま寝ている

もう少しこのまま添い寝してやることにした。


■バーン近くの荒野


翌朝、豪華な洋朝食を済ませた俺達はバーンの町を南門から出て東へ進んだ。

バーンの町には北と南にしか出入り口が無い。


道と呼べない程度に踏み固められた土の上を、アサルトライフルを抱えて進んで行くと町を出て5分ほどで獲物が現れた。


サンドティーガーだ。

100メートル程向こうでこちらの様子を伺っている。


「ミーシャさん、腕前を見せてもらって良いですか?」


エルフの狩りを早く見たかったのでお願いしてみる

ミーシャは軽く頷くと流れるような動作で、背中の弓と矢を同時に掴んで弓を構えた。


-ブンッ- -シュンッ-


弓の弦が弾かれ、矢がサンドティーガーに向かって飛んでいく。


-グオゥーッ!!-


放物線を描いた矢が見事に虎の頭に刺さった!

目を貫いたようだ!


驚く俺の視界にはサンドティーガーに迫るミーシャが入ってきた。


-いつの間に?


俺が矢を目で追っている間に走っていたのか。


サンドティーガーは矢を外そうと顔を触っていたが、近づくミーシャに反応して飛び掛った。


危ない!だが、ミーシャは空を飛んだ・・・ように俺には見えた。


飛び掛ったサンドティーガーの爪を飛び越えて背中に剣を突き立てている。


-グオッ! -グオッ! -グオッ!


剣を抜いて飛び上がる動きを2回繰り返して首筋に剣を刺すと虎の動きは止まった。

虎の上でワイヤーアクションをしているように見えた。


「スゴイッす。感動しました!」


俺は獲物の横に立つ美しいミーシャさんに近づきながら拍手していた。


「このぐらいはどうってことは無い。お前も出来るのだろう?」


「ええ、まぁ。ちょっとやり方は違いますけど・・・」


「やり方などどうでも良い。獣の息の根を止められるかどうかがすべてだ」


-ウワー、綺麗な顔をしてオッソロしい。


「サトル! あっち!」


ミーシャの顔に見とれている俺にサリナが教えてくれた。


左の林から今度は黒い虎が2匹出てきて、こちらの様子を伺っている。

この世界の魔獣たちはあまり姿を隠さないようだ。

こちらを弱者としてみているのかもしれない。


距離は100メートル足らず、俺の腕では少し遠いが1匹は行けそうな気がする。


アサルトライフルのレバーで発射可能にしてから片膝をついてドットサイトを覗き込む。

ドットを首の付け根にあわせてトリガーを絞った。


-バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!-


-バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!-


2回の連射で1頭目、2頭目にそれぞれ命中したが2頭目は致命傷にならなかった。

足を引きずりながら林の奥へ戻っていく。


「それが、サトルの魔法具なのか!?」


「ええ、他にも何種類かありますけど、今の距離ならこの道具で丁度良いみたいです」


「真っ直ぐ何本かの矢が飛んだように見えたが?」


「そうですね、『弾丸』という矢ですけど、このぐらいの距離ならあまり下に落ちはしないです」


「・・・どのぐらいの距離なら届くのだ?」


「上手な人なら500メートルぐらいでしょうか?」


-俺の中では100メートルぐらいだけど。


「ミーシャさんの矢はどのぐらい届くのですか?」


「普通に撃って、200メートルぐらいだ。精霊の加護を得ればその倍ぐらいは届く。だが、お前の矢ほどの威力も数も撃てないだろう。その力ならサリナが言う通り迷宮に行くことができるのでは無いか?」


「ほら! ミーシャも大丈夫だって! お願い!!」


-ミーシャ様、余計なことを・・・


「えぇ、前に居る敵は大丈夫なんですけど、近い敵とか見えないところから出てこられるとどうしようもないでしょ」


「だから、お前の背中は私が守ると言ってやっただろうが」


-確かに、剣も弓も達人だ。


「そうですねぇ、とりあえず行ける所まで行ってみますか」


「ありがとう、サトル!」


サリナは俺の胸に飛び込んできた。

ミーシャにつられてか、いつの間にか俺のことも呼び捨てだ。

そして、大きな胸が容赦なく俺に押し付けられてくる。


何度も繰り返すが、俺の異世界に美少女は・・・

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