第26話Ⅰ-26 新しい馬車

■バーン近くの荒野


ミーシャが同行してくれることになったので、『馬車』を新しくすることにした。

大きなSUV車も考えたが、道路がある訳ではないので、悪路に強そうな4人乗りのバギーにした。

日本では販売していないがYAMAHAの4人乗りが海外モデルであったので、黒いタイプを選択して呼び出してある。


こいつも公道の走行不可と書いてあったが・・・関係ない!

そもそも俺は免許さえないのだ。


今までの二人乗りバギーと大きく違うのはハンドルとペダルだ。

特にアクセルとブレーキがペダルになっているのが初めてなので練習が必要だろう。


俺がバギーをストレージから呼び出すと、荒野に突然現れた黒い塊にミーシャは5メートルほどバックステップして剣に手をかけた。


「これが馬車です。僕も初めて乗るので少し練習してから二人を乗せますね。その間に・・・そうだ! サリナ、ミーシャさんに水浴びの仕方を教えておいてよ。サリナもシャワー浴びていいからさ」


キャンピングカーを呼び出してエンジンをかけた。

ミーシャはバックステップをしなかったが、一言も口を利かない。

まさに、唖然としているのだろう。


キャンピングカーの中にタオルとお風呂セット、それからミーシャに合いそうなサイズの服を何種類か置いて二人を車の中に呼ぶ。

ミーシャは警戒するようにサリナと一緒に中へ入ってきた。


「これは、一体なんなのだ?」


「これは・・・サリナの家ですね」


「サリナの・・・家? 確かに寝る場所などがあるようだが、家?なのか?」


素材も含めてこの世界では存在しない色で囲まれているためだろう、あちこちを触って試している。


「これから外で寝る必要があれば、この中で寝ようと思ってます。水浴びが嫌いでなければ、サリナに聞いてサッパリしてください、僕は馬車の練習に行ってきます」


サリナはミーシャと上手くやれそうだ、さっそく得意げにタオルやシャンプーの説明を始めている。

俺は安心してキャンピングカーを降りた。


周囲は荒地で獣の気配は無いが、サブマシンガンとハンドガンはいつもどおり携帯している。

ヘルメット、ゴーグル、グローブ、フェイスマスクを装着してバギーに乗り込んだ。

丸いハンドルは何となくイメージ通りだ。

ペダル・・・、右がアクセル、左がブレーキ。

昨日確認した動画の手順を思い出す、ブレーキを踏んだままエンジンをかけて、シフトレバーをドライブに入れる。

アクセルをゆっくり踏んで・・・するする走り出した!

5メートルほど進んでアクセルから足を離してブレーキを踏む。

またアクセルを・・・、何度かアクセルとブレーキを交互に踏みながら進み方を確認できた。

思ったより簡単だ。

もっともぶつかる壁もなければ、撥ねる人間もいないのだから、現世での運転とは比較にならないのだろうが。


時速10kmから20kmぐらいの安全運転で、ぐるぐるとキャンピングカーの周りを5周ほどした。

ゆっくりでも結構楽しいが、もう少しスピードを上げてみる。

40kmを超えるとかなりバギーが揺れる。時折全身が弾むような感じだ。

フレームに頭をぶつけるかもしれないから、全員ヘルメットは必須だろう。

少し離れたところまで走って行って、これなら人を乗せても走れるぐらいにアクセルとブレーキの感覚が掴めたところで練習は終了にした。

時計を見ると2時間ぐらい経っていた、かなり夢中になっていたようだ。

異世界で乗る乗り物も銃と同じぐらい面白いかもしれない。

今度は他の車も試してみることにしよう。


キャンピングカーに戻ると・・・半裸のエルフが座っていた!


ミーシャはタオルを前にかけているが、濡れた髪をたらして、他には何も着ていない状態で座っている。


サリナはバスタオルを体に巻いて立っているが、こちらも何も着ていないようだ。

ちょっと刺激が強すぎる・・・


「二人ともどうして服を着てないの?」


「サトル、風の魔法が必要!!」


そうか、俺がドライヤーを用意していなかったのか。

俺は直ぐに発電機とドライヤーを取り出した。


「み、ミーシャさん、ば、バスタオルを巻いてから、向こうを向いてもらって良いですか?」


「わかった」


男前のミーシャは立ち上がりながらバスタオルを巻いた・・・胸がちょっと見えた。

俺は心臓の鼓動を無視して、ドライヤーから風を送りブラシでミーシャの髪を梳く。


-ここは天国や~。


異世界には武器だけでも良いと思っている俺だが、実物のハーフエルフの破壊力は半端ない。

透き通った肌の上で踊る金髪の髪が少しずつ乾いていく、目の前には綺麗なうなじが・・・

今までは妄想だったが、これはリアルなのだ!


「少し熱いぞ」


「ああ、スミマセン。じゃあ、冷風で」


髪がほとんど乾いているのに、うなじに見とれすぎていたようだ。

白い首筋は細くて綺麗だった。


サリナの髪も手でワシャワシャやって乾かした。

待遇に差があるが俺はエルフ派なので仕方ない。


「ミーシャさんもサリナと同じ服でも良いですか?」


「ああ、サリナに聞いたがその服は動きやすいらしいな?」


「はい、サトルの服も世界一です、ちょっとボタンが多いのが面倒ですけど」


なるほど、この世界ではほとんどがプルオーバーの服だからボタン自体が珍しいのだろう。


「じゃあ、ボタンがないヤツに換えてあげるよ」


タブレットでオリーブグリーンのロンTを何種類か呼び出して二人に渡してやる。


「外に居るから、着替えが終ったら呼んでよ」


外に出てバギーに携行缶からガソリンを追加してからストレージに戻す。

『乗り物の部屋』に新しい仲間が入ったはずだ。


さて、これからどうするか?

日が暮れるまでは時間はまだたっぷりある。

今からなら夜までには迷宮まで到着できるかもしれない。


タブレットに画像で取り込んだ地図で迷宮の方角を確認する。

ここからだとほぼ東にあたる場所だ。

迷宮の向こうにある山に向かって走れば近くまでいけるだろう。


ストレージからバギーをもう一度呼び出した。

やはり、今日中にいけるところまで行って見る事にしよう。

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