第165話Ⅱ-4 心配事
■南方州の荒れ地
俺達3人はエドウィンで情報収集をした後はクロカン4WDで更に南へ移動した。レイジーと言う町の南まで3時間弱のドライブだったが、ショーイもリンネも気持よさそうに寝ていた。
このあたりがサリナやミーシャと違うところだった。二人なら俺が運転しているときは必ず起きていたし、周りに目を配ってくれた。やはり年上だからかショーイ達には悪い意味で余裕があるのかもしれない。
荒れ地の中で車を止めて双眼鏡で獲物を探すと、500メートル程向こうにブラックティーガーが2頭いるのを見つけた。今回はリンネが使う新兵の募集だから、虎系の魔獣ぐらいでちょうどいいだろう。
300メートルぐらいまで近づいて、狙撃銃の2脚を車のボンネットの上に置いて構えた。スコープの中のティーガーはこちらを見ているようだが、距離が遠すぎてお互いに脅威だとは思っていないようだった。
ミーシャに教わった風の読み方だと少し左に流れて行くはずだったので、首の付け根より右側に十字線を動かしてトリガーを絞った。サプレッサーでくぐもった発射音の後にスコープの中で横倒しになったティーガーが見えた。すぐにもう一匹にターゲットを合わせてトリガーを引く。今度もきれいに首筋を撃ち抜くことが出来た。
自分の腕前が上達していることに満足して、車を移動させて倒したティーガーをストレージに回収しておく。この調子なら明日の午前中には新兵の勧誘は終了しそうだ。まあ、勧誘と言うよりは徴兵制なのだが。
■森の国王都 クラウスの宿
サリナはミーシャと一緒に居酒屋でテーブルに並んだ焼き串を食べていた。ミーシャが進めるだけあって、確かに美味しいお肉だった。
「美味しいね」
「そうだな、良い鶏肉と鹿の肉が入ったらしいからな」
「そうだね・・・」
「ああ・・・」
二人は肉をかみしめながら、お互いの顔を見ていた。
「でも、ちょっと味が薄いかもね」
「そうだな、サトルが居ればな・・・」
「大丈夫! 良い物を持って来ているから!」
サリナは腰に付けた大きなポーチの中から、シオコショウとサトルが言っていた物を取り出した。
「これを使うと美味しくなるって言ってたから!」
「ああ、それは里でも使っていたな。肉がさらに上手くなる。いつの間にそんなものを?」
「えーと、今日の朝にサトルが渡してくれたの。他にもマヨネーズとケチャップもあるよ」
「そうか、じゃあまずはシオコショウからだな」
「うん!」
二人はサリナが取り出したシオコショウのボトルを肉に振りかけた。サリナは味のしなかった肉が急に美味しくなった気がしていた。
「やっぱり、味が全然違うな。私たちはすっかりサトルの味に慣れすぎてしまったようだ」
「そうだよね。サトルが居ないと・・・」
朝別れたばかりだったが、サリナはサトルと会えなくて既に寂しくなっていた。しかも、炎の国との戦いはいつまで続くのかがわからない。
「ねえ、ミーシャ。
「それは、炎の国を追い払うまでだからな。いつまでかは判らない」
「そっか・・・、じゃあ、早くやっつければ早く終わるんだよね」
「そうだ。今回の件はサリナにも迷惑をかけて申し訳ないな」
「ううん! そんなことは良いの! ミーシャとサトルはお兄ちゃんも助けてくれたし、魔法具も見つけてくれたし、こんどはサリナが頑張る! だけど・・・」
サリナはミーシャを見て笑顔を作ろうとしたが無理だった。
「お前はサトルと一緒に居たいんだな?」
「うん、サトルも一緒が良い。ミーシャは違うの?」
「そうだな、アイツと一緒の方が楽しいな。昨日の焼肉も楽しかった」
「そう! サトルと一緒に食べる焼肉が最高なの!」
そう、出してくれる食事が美味しいだけでは無い。サトルと一緒に食べるから美味しいのだ。
■南方州の荒れ地
俺は日暮れまで狩りを続けて、虎系の魔獣を20匹程調達して今日の予定を終了した。キャンピングカーを荒れ地に呼び出して、リンネとショーイにシャワーを浴びるように言ってからストレージに入った。俺もシャワーを浴びてさっぱりしてから、これまで我慢していた尋問を再開することにした。
ムーアで捕らえたお頭は3日以上暗闇の無音空間で放置してあった。そろそろ、ボッチが寂しくなって話をしてくれるかもしれないと思い、ストレージの空間の上の方から光を入れて声を掛けてみた。
「おーい! 生きてるか!? って死んでるんだよな・・・」
「お、お前! 居たのか!? ここは何処なんだ? 俺は死後の世界に行けたのか?」
死後の世界? 死人のセリフだと意味がよくわからないな。
「教えて欲しければ、先にお前の名前を教えろ」
「名前は使っていない。俺達の組織では幹部は名前を使ってはいけないことになっている」
使ってはいけない? 確かに今までのお頭も名前を名乗らないのが多かった。
「どうして、名前を使ってはいけないんだ?」
「名前を知られると・・・、呪い殺すことが出来るからだ」
昔の中国や日本でも本名を隠すと言うのがあったような・・・
「だけど、生きてた頃の名前があるんだろ?それに、お前は死人だから今更死ぬこともないんだろ?」
「俺達も亡ぼすことのできる呪法だと聞いている。俺はレントンと呼ばれていた・・・が、大昔の話だ」
「そうか、じゃあレントンでいいや。レントンが黒い死人達の首領と呼ばれる一人なのか?」
「いや、違う。俺はムーアの町を任されているだけだ」
「そうなのか? だが、ムーアのアジトには色々隠していたじゃないか? あそこがお前たちの本拠地じゃないのか?」
「お前、床下を見つけたのか!? 」
「ああ、その中身も後で聞くが、その前に質問に答えろ。あそこが本拠地じゃないなら、お前たちの首領は何処に居るんだ?」
「それは俺にもわからない。首領は年に1回来るかどうかだ、殆どは使いが連絡してくる」
こいつでも首領の情報は持っていないのか・・・
「お前たちとネフロスの信者はどんな関係なんだ?」
「俺達はネフロス信者じゃないが・・・、首領と使いはネフロスの信者だ。もともとはネフロス教の荒事を請け負う人間たちが集まって出来たのが今の黒い死人達だ。なあ、何でも話すからよ。水を貰えないか? 喉が渇いちまった」
死人の喉が渇くのは不思議な気がしたが、随分と口が軽くなったようなので、ペットボトルの水を目の前に出してやった。
「な、なんだこれは!?」
「その水色の所を持って捻れば蓋が開く。違う! そうじゃなくて、細くなっているところを握って・・・、そうだ! そのまま回せば飲めるようになるはずだ。お前たち死人も喉が渇くのか?」
「ああ、飲まず食わずでも死ぬことは無いが空腹も感じるんだ」
死人だと言うのに不自由な気もするが、リンネは美味い物が味わえるのは良いことだと言っていた。
「どうすれば、首領に会う事が出来る?」
「向こうから来るのを待つしかない」
「お前が会いたいときはどうしていたんだ?」
「俺から会いたいと言う事は無かったが、月に一度は使いが来るから必要なら言伝を頼んだだろう」
その手は使えないから結局のところ俺が首領を捕まえるのは難しいようだ。
「よし、じゃあ、次は火の国との関係だ。お前たちは火の国と繋がって悪事を働いているんだろ? 王の命令なのか?」
「俺達は金を貰って頼まれたことをやるだけだ、その代わり火の国の中では多少の悪事は見逃してもらっている。火の国からの頼み事は首領を通してだから、王が命令しているかは知らねえ」
それなら火の国から仕事を頼んでいる奴が見つかれば、首領達への連絡方法がわかるかもしれない。やはり、王を捕らえて口を割らせる必要があるだろう。
「じゃあ、最後に床下にあったものだが、あの髑髏と紙の巻物は何だ?」
「あれは預かり物だ。首領の使いが必要になる時が来るから預かっておけと言っていた」
使い道が判りませんと・・・
「それと、木の箱があったけど。あれの開け方は判るか?」
「それならここに鍵がある。中には魔法具が入っているが、そっちも使い方は判らねえ」
レントンは腰帯をほどいて裏側に隠してあった鍵を取り出して差し出した。俺は手も出さずにストレージの中で鍵を俺の手元に移動させた。
「き、消えたぞ! 確かにここに鍵が・・・?」
「安心しろ、俺が預かっただけだ」
中身は魔法具だが使い道が判らないと・・・、色々聞けてもさっぱりだな。
「森の国との戦に備えて傭兵を集めていたんだろ? いつ戦が始まるかは判っていたのか?」
「いや、だが、すぐに始まっても良いようにしろと言われていた・・・、だけど・・・」
ここまでスラスラと喋っていた男が最後に言いよどんだ。
「どうした? まだ隠し事か?」
「違う! ひょっとして、風の国で俺達のアジトを襲ったのもお前たちなのか!? あそこが一番傭兵の数が多かったのに、しばらくは送れないと連絡が入ったんだ」
「さあ? それは知らないな」
こちらから情報を与える必要もないだろう。他に聞くことは・・・
「ところでお前はどうして死人になったんだ?」
「それは・・・、俺の両親がネフロスの信者だったからだ。馬車に引かれて死んだ俺を死人として蘇らせて、その代わりに二人とも死んだんだ」
「そのネフロスの信者と言うのは何処で集まっているんだ?」
「それは・・・、それだけは言えない」
「なぜだ? お前は信者じゃないんだろ?」
「・・・」
その後は何も話さなくなった。それでも最低限の事は聞き出せた気がしたので、そのまま暗闇に放置することにした。また、しばらくしてから聞いてみることにしよう。
■森の国王都 クラウスの宿
サリナはミーシャと同じ部屋のベッドで寝ていたが中々寝付けずに何度も寝返りを打っていた。
「どうした? 眠れないのか?」
「うん、ミーシャも起きていたの?」
「ああ、私も少し寝付けなくてな」
「そっか・・・、ねえ、車は大丈夫かな?」
サリナはベッドに横になってから森の中に隠した車の事を思い出して、心配になっていた。
「お前も気になっていたのか。私もだ・・・、あれには大切なものが入っているからな」
「ミーシャも! そう、武器も車も、それに、かふぇおれ・・・」
「そうだが、まあ、明日の朝までだからな」
「でも・・・、もし・・・」
「・・・そんなに心配なら今から行くか?」
「えっ!? 良いの?」
「うむ、気になって眠れないぐらいなら車で寝た方がゆっくり休めるかもしれないからな」
「そうだね!じゃあ、行こう!」
サリナとミーシャはリュックからライトを取り出して宿を出た。宿の外は明かり一つなく真っ暗闇だがライトの光で足元はしっかり見えている。
「おかしいな・・・」
ミーシャが足を止めて突然つぶやいた。
「どうしたの?」
「うん、こんな時間なのに走っている人間が大勢いるようだ」
ミーシャの耳には静かな町の中に響いている足音が聞えていたようだ。
-火事だぁ! 燃えているぞ!
今度はサリナにもはっきり聞こえた、町のどこからか大きな声がしている。
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