第250話Ⅱ‐89 リカルドと村おこし
■獣人の村
俺は獣人の村に来る前にリカルドとハンスを呼んでこれからやりたいことを伝えていた。リカルドには知識を集めるだけじゃなくて、それを使うように仕向けてみたかったのだ。
「じゃあ、僕があそこで塩造りの技術を試すことが出来るということかな?」
「そうだよ。道具と人・・・といっても最初は死人中心になりますが、それはこっちで用意します。手順も紙の資料と動画―紙芝居みたいなものを見ればわかるようになりますから、リカルドさんは実際に塩田から作ってみてください」
「私は何をすれば?」
「ハンスは村の人とリカルドさんの間で色々と調整してほしいんだよ。それに死人に具体的な指示をだしてやってくれ」
「判りました・・・、ですが塩を作るというのはそんなに簡単なのでしょうか?」
「効率・・・、上手く作るのは難しいけど、簡単に言うと海水を鍋で茹で続けて水がなくなれば、塩が出来ると言う事だから、作るだけなら簡単だよ。リカルドはある程度分かっているんだろ?」
「うん、さっきサトルから説明も聞いたからね。どんどん濃いい塩水を作って最後に釜で煮るんだよね」
「そうそう、その濃い塩水を作るための池みたいなものを、死人達に作らせるんだ。海水を運ぶのも重労働だけど、あいつらは疲れ知らずだから大丈夫だろう」
「なるほど、なんとなくわかってきました」
「リカルドには塩づくり以外でもあの獣人の村が快適になるように色々と作ってもらいたい。必要な道具や材料は全部与えるから、何をどう作るかだけを考えてみてよ」
「考える・・・、うん! わかった、色々とやってみたいな!」
「よし、ハンスはそれを助けてやってくれ。これは勇者計画の一つだからね。しっかりと頼むよ」
「はい、わかりました」
こんな感じで、二人は塩づくりをすることに同意してくれている。リンネを連れてきたのはもちろん死人を操ってもらうためだった。
「じゃあ、100人ぐらいだすからさ、リカルドとハンスの言うことを聞くように頼んでよ」
「わかったよ。さっき言っていた作業を手伝わせるんだね?」
「そういうこと」
俺達は獣人の村を出て浜辺まで移動して、ストレージから
死人の次には黒虎たちも20匹出しておく、警戒のためではなく馬や牛の代わりに使おうと思っていた。もちろん、トラクター等も出せるのだが現代技術は抑え気味でやるつもりだった。道具も電動ではなく普通の
「サトル、この四角い石は?」
「これは人間が加工して作った石のようなものだな。同じ大きさだから並べたり繋げたりすると壁なんかが作りやすいだろ? 今回は通路と塩田の囲いに使ってみてくれ」
「この四角い石も作れるようになるのか?」
「どうかな、この世界に材料があるかどうかだが、材料があれば可能だろう」
「そうか、それも探してみたいな」
「色々興味があるのは分かるけど、まずは塩田で塩を頼むよ。一つずつだよ、リカルド」
「うん、わかった」
新しいものに目が無いリカルドはどうしても意識が色々なところに飛んで行ってしまう。責任者として心配だが、ハンスとの組み合わせなら何とかなるような気がしていた。ハンスはくそ真面目だから、塩田を作れと言えば何があっても作ろうとしてくれるだろう。
「用意は出来たよ。大体の事は理解しているから、後はリカルドかハンスが指示を出せば、ちゃんと働いてくれるよ」
「ありがとう、リンネ。じゃあ、リカルド、ハンス、指示を出してよ」
「うん、わかった。じゃあ・・・、みんな! 塩田の草をまずは全部刈り取ろう!そこの鎌を持ってついて来て!」
リカルドが元気よく声を掛けると死人達はしっかりとした足取りで農具が置いてある場所へ集まり、鎌を持ってリカルドに続いて列を作った。
塩田は海岸から200メートルほど入ったところに作られていたが、長い間使っていなかったので、雑草が伸び放題で小さい立木などもあった。まずは、草を取り除いてから水を溜められる塩田を棚田状に整備する予定だった。
「じゃあ、あっちはリカルドに任せるとして、マリアンヌさんは森の開墾をお願いできますか?」
「もちろん、お手伝いしますよ」
「じゃあ、リンネとハンスは追加で作業員をだしておくから、通路の整備をさせておいて」
「あいよ」
追加で20人の
作業の進行に安心して、ママさんと一緒に村のすぐ北側にある森に向かった。森の入り口付近に昔は畑だった場所があるが、今は手入れされておらず荒れ果ててこちらも雑草が伸び放題だった。
「マリアンヌさんの魔法でこの畑にある雑草を刈り取ることは出来ますか?」
「ええ、もちろんできますよ」
ママさんはにっこり笑うと、右手を肩まで持ち上げて少し目を細めた。
「ウィンド!」
短く言葉を発すると同時に右手を大地に振り下ろした。口笛を鳴らしたような風切り音と同時に一面に生い茂る雑草を根元から一気に断ち切った。3回繰り返すと、野球場ぐらいの広さの空き地が誕生した。
「今のは何かを切るような風ですよね?それもかなり大きい幅の・・・、どうやったらできるのですか?」
「イメージと練習ですぐにできるようになりますよ」
「イメージ?」
「風の魔法は空気の魔法です、私は空気を薄く固めてそれを一気に放つイメージを持っています。風の
「薄く固める風の
「大丈夫、あなたならすぐにできるようになりますよ。今度、サリナと一緒に練習しましょう」
「ええ、ぜひ。風の刃で木を切ることもできますよね?」
「大丈夫ですよ、岩でも切れますからね」
「岩・・・」
村おこしをするための資材をどうするか悩んでいた。悩んでいたのはストレージから全部出すかどうかだった。加工された木材や石材を用意することは簡単だが、俺の力に依存し過ぎて復興させるのも良くない気がしている。
―関与の度合いが難しいところだ・・・。
■セントレア 王家別邸
「メアリー様、あの付き添いのエルフ達はどうするおつもりですか?」
「さあ、勇者様が戻ってきてから考えるわ」
「必要でしたら、すぐにでも排除しますが」
「・・・、まだ良いわ。もう少し必要な情報を集めてからね」
「承知しました」
メアリーと従者の魔法士アイリスは二階の一番日当たりのよい部屋で言葉を交わしていた。アイリスの言う“排除”は文字通りこの世から消すと言う意味だったが、メアリーは今のところ賛成しなかった。アイリス自身も情報を集めるように首領たちから指示を受けており、そのこと自体に異論はないのだが、あのエルフと剣士は勘が鋭いようで、アイリスの力に気がついているようだった。
―思ったより、厄介なところに来てしまったかもしれないな・・・。ゆっくりと情報を集める余裕は無いかもしれない。
アイリスは指示通りに動けるかどうかは成り行きだと考え直し始めていた。
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