第308話Ⅱ-147 神託
■水の国皇都セントレア 王宮
女王は理由を言わずに『王から話があるので同行願いたい』とだけ言い、転移魔法を使って俺達を皇都セントレアの王宮へ連れて行った。日が暮れた皇都の大教会から馬車で移動した王宮では応接のソファーに座った王とその後ろに摂政が立って待ち構えていた。
「すまんな。急に呼び立てる形になってしまって」
水の国の王はいつもの柔らかい表情では無く険しい顔をしていた。
「いえ、それは構いませんが、一体何が?」
「うむ、わしはドリーミアの各地に密偵を放って動きを探っておる。この水の国はもちろん、それ以外の国にもじゃ。特に火の国の動きについては、朝、昼、晩と早馬で報告があるのだが・・・、今夕届いた報告によると火の国の王都ムーアが消えたらしい」
「消えた? ってどういう事ですか?」
-何でもありのこの世界とはいえ、人口数十万の町が消えるって・・・。
「正確に伝えると、見えなくなったと言うのが正しいのかもしれん。何やら灰色の影に包まれて見えなくなったのだ。そして、その影の中に入って行ったものは誰一人出てこなくなったのだ」
-灰色の影? ラプトルが居るところのカーテンみたいなの?
「その灰色の影ですけど、空から幕が下りているようなものですか?」
「ほぉ・・・、 心当たりがあるのか?」
「実は・・・」
火の国北方での出来事を王に報告した。
「うむ、魔獣が溢れていることは聞いておったが、そこまでの数であったか」
「ええ、放っておくと危険です。凄い数で増えていますから」
「そうじゃな、そちらには我が国の兵を向かわせよう。マクギーよ、すぐに準備を整えよ」
「かしこまりました」
摂政のマクギーは軽く頭を下げて、その場から立ち去ろうとした。
「いや、人では・・・、この国の兵では犠牲が出るだけですからやめた方が良いでしょう」
「・・・ならば、どうする?」
「そちらは私が何とかします」
「ふむ・・・、じゃが、お主には別の事を頼まねばならん」
「ムーアの町ですか?」
「そうだ、あの町には30万人の人間が住んでおる。他国とは言え、見殺しには出来ん」
「・・・」
確かに見殺しには出来ない・・・か? 関係ないと言えば関係ないし、それに・・・。
「私が行ってどうなるものでもないのでは?その灰色のカーテンの原因は判っていないのでしょう?」
「それは女王から話を聞いてもらった方が良いな」
王は横に座った女王に目をやって、ソファーの背もたれに体を預けた。
「昨晩、アシーネ様の神託がありました」
「しんたく? 神のお告げ?」
「そうです。久しく神の声を聞くことはありませんでしたが、眠っている私の中に入って来たアシーネ様はこう仰ったのです。-『魔の門が開きました。勇者に力を借りなさい』-と」
-魔の門? 魔界的な話か?
「・・・それだけですか? 他に具体的なことは何も?」
「ええ、それだけです。あなたの力を借りろ・・・と」
水の国の女王であり、聖教会の教皇でもあるマリンは表情を変えずに俺を見つめている。こっちは困惑した表情を浮かべて首をかしげることしかできなかった。
「力を貸すといっても、ムーアの件かどうかもわからないですよね? それに魔の門って何のことですか?」
「魔の門は魔の世界へと通じるものです。魔竜が復活するときには開かれると伝えられています」
「具体的な場所は?」
「場所・・・、場所であって場所では無いかもしれません」
「?」
「魔の門が開くというのは魔の世界とこのドリーミアが繋がる状態を示しているのです。ですから、ムーアの町と北方に現れた灰色の空は両方ともつながりを表しているのでしょう」
-異世界? 異空間? そんなイメージ?
「じゃあ、どちらも魔の世界に繋がっていると言う事でしょうか?」
「おそらくは・・・、そして、いずれはこの世界のすべてが魔の世界に取り込まれることになるのです」
「・・・」
さてと・・・、どうする俺? 何もしなければこの世界が魔界(?)になるかもしれないと言っているようだが、俺に何が出来るんだ?
「それで、女王は私がどうするべきだと考えているんですか?」
「勇者はその心の赴くままに・・・、私があなたに指図することはありません。・・・ですが、この世界のために力を貸していただきたい・・・」
「・・・」
言っていることが判るようで、判らない。相変わらずと言う感じだ・・・、魔竜っていうのもいまだに判らないし、灰色の空とやらもどういう状態か判らない。問題が判らないのに解決しろと言われても困る。あの灰色のカーテンの中に入って行けば良いのか?その先に倒すべき魔竜が居るとはっきりしていれば・・・、いずれにせよ、まずは確認だな。
「今のままでは、何が出来るか判りませので、ムーアの近くに行って状況を確認します。それでどうするか決めたいと思います」
「ありがとうございます。この国の・・・いえ、このドリーミアの民を代表してお礼を言います」
「勇者殿よ、我らにできることがあれば遠慮なく言ってくれ。犠牲が出るとしても、北方の魔獣を食い止めることは出来ると思うぞ」
摂政のマクギーは善意で言ってくれたようだが、ラプトルを甘く見ている。あんなのが1000匹単位で出て来たら、剣や弓でどうにかなるもんじゃない。
「戦うのは止めた方が良いでしょうね。大勢が殺されるだけです。ですけど、北方から逃げて来ている人達がいますから、その人たちの保護をお願いします」
「なるほど、わかった手配しよう。魔獣の方は任せて良いのだな?」
「ええ、朝のうちに手配してから、ムーアへ行ってみます。状況を確認して王宮に戻ってきますので、具体的にどうするかはそれから決めましょう。それと・・・」
俺は女王の目を見て少し間を置いた。
「何でしょうか?」
「できれば今晩の夢で、アシーネ様にもっと具体的に聞いておいてください。何をしたらいいのかを・・・、ちょっとサービス悪すぎですよ」
「わかりました、寝る前にお願いしてみます」
俺の失礼な依頼を聞いても女王は表情を変えなかった、本当にお願いしてくれるつもりのようだが、その声が届くかは・・・、俺にも女王にもわからない。
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