第148話Ⅰ-148 手がかり
■チタの町
ショーイは胸に黒い小さい箱と耳の中に入れる無線と言うものをサトルに付けてもらい、日が暮れるとすぐに黒い死人達のアジトに入って行った。こいつらは自分達が襲う事があっても、襲われるつもりはないから倉庫の扉に鍵は掛かっていなかった。
ショーイが中に入ると大きなテーブルを囲んで酒を飲んでいた4人の男が顔を上げた。ランプの明かりしかない薄暗い倉庫の中に荷物は殆どなかったが、がらくたや空き瓶それに馬車と馬が入っていた。
「誰だ、お前は?」
「俺はゲイルの支部から来たショーイって言うんだ。ゲイルの兄貴に言われてチタのお頭に
「いや、お頭は今居ねえよ。ゲイルって、アジトが吹き飛ばされたって聞いたが本当なのか?」
-思ったより情報が伝わるのが早いな。
「あ、ああ、良く判んねえんだが、あのあたりの倉庫が全部壊れちまったらしいな。お頭は何処に行ったんだ?すぐに戻って来るのかな?」
「セントレアだと思うが、いつ戻って来るかは判んねえな」
-さっきの男たちの話は嘘では無かったようだ。
「そうかい、ところでチタは景気の方はどうだ?新しい金儲けの話は無いのか?」
「相変わらずだな、娘を攫って売り飛ばすか、頼まれ仕事で人を殺すかぐらいしかねえな・・・、お前んとこから回って来た回状の件はどうなんだ? 金貨百枚だろ!?足取りは掴めてねえのか?」
だるそうに酒を飲んでいた男たちは、金貨百枚の話で身を乗り出してショーイを見ている。回状の効果は組織の中では大きかったようだ。ショーイは黒い死人達と行動を共にしていたが、仕事を回してもらうだけで組織の運営がどうなっているのかは殆ど知らなかった。
「ああ、風の国にいるのかも分かってない。ひょっとすると、このあたりに居るのかもな」
「そうか! もし、見かけたら俺達にも声を掛けてくれ、手を貸してやるからよ」
「その時は頼むよ。今はお前たち4人だけなのか?」
「いや、奥の部屋に5人いる。今は攫って来た女たちとお楽しみのはずだ」
「へえー、良い女がいるのか? 何人ぐらい居るんだ?」
「4人だ。もうすぐ火の国に送るからお前も楽しみたいなら、早く行って来いよ」
「そうか、そいつはありがてぇな。俺ものぞいて来るよ」
ショーイは笑顔を4人に向けながら、右側の奥にある扉に向かって歩き出した。
「おい、チョット待て」
後ろから声を掛けられたショーイは腰の刀に手をかけながら振り向いた。
「なんだ?」
「女を抱くなら銀貨1枚を中の奴らに払ってやれよ。よその奴がただ乗りすると揉めることになるからな」
「わかったよ。銀貨1枚だな・・・」
ショーイは奥の扉を開きながら、胸の小さな箱にささやきかけた。
「今から奥の部屋に入る。ミーシャは倉庫に入ったらすぐに4人を倒してくれ」
「承知した」
ミーシャの短い返事が耳の中で聞えた。何かは分からないがサトルの魔法が凄いのは確かだ。離れた場所でも普通に話せるし、ミーシャとサトルが使っている魔法も恐ろしい威力だ。正直言って剣の修行では太刀打ちできないだろう。
奥の部屋には机と椅子それからソファーが乱雑に並べられていて、男たちが泣いている裸の女を思い思いに抱いていた。一人だけ女にあぶれた男は机の上に座って、酒を飲みながら眺めている。
「お、おめえは? なんだ?」
かなり酔っ払った男は不思議そうにショーイに尋ねて、もう一度酒瓶を煽った。
「俺か・・・、俺はお前らを捕まえに来たんだよ!」
ショーイは刀を抜いて刀の背で座っていた男の首を打ちすえた。首の骨が折れないように加減したつもりだが、男は机の上に昏倒してピクリとも動かなくなった。
「なんだ!?」
「一体何事だ!」
ソファーの上で女を膝の上に乗せていた男が女を突き飛ばしながら立ち上がろうとしたので、同じように首筋を打ちすえた。他の男たちも立ち上がる前に頭と首を峰うちで倒していった。サトルから殺すなと言われていたので、面倒だったが言われた通りに倒すだけにしたつもりだ。剣も持たない5人の男達を倒すのには1分もかからなかった。
サトルは人を殺すことが嫌いなようだ。ショーイも殺しが好きなわけではないが、相手が敵であれば迷うことなく殺すことを選ぶ。生かしておけば、相手に反撃の機会を与えるだけだからだ。
「奥の部屋は片付いた。そっちはどうだ?」
「こっちも終わった」
「じゃあ、ハンス達も中に入って、俺は裏口から入って行くから」
耳の中からミーシャとサトルの返事が聞えてきた。ショーイは部屋の隅で震えている女たちに服を着るように言って、何処から連れて来られたかを聞いた。二人はバーンで、後の二人は聞いたことのない町から別々に連れてこられていた。誘拐と殺人は黒い死人達にとっては日常のことだ。命の価値は値段でしか考えてないから、若い女は目をつけられたら終わりだ。この娘たちもどこかに売られて、奴隷か愛妾にされた後に捨てられるのがお決まりの流れだったろう。
ショーイは女たちが服を着終わったのを確認して、部屋の中の物色を始めた。ここの頭や組織の首領につながる手がかりを探すためだったが、机には引き出しも無く、部屋の隅にある棚は酒瓶とがらくたが並んでいるだけだった。唯一、机の上にあった回状だけが役に立つ情報かもしれない。発信がゲイル支部でハンスとミーシャを探しているものだが、-片腕の若い虎の獣人、剣を持つハーフエルフの娘、いずれも生け捕りで金貨100枚-単にそう記されているだけで、最後に読めない記号で署名がしてある。
他にもなにか情報が無いか・・・、部屋を見まわすと机の上で意識を失っている男の下にあった紙に気が付いた。乱暴に男を押しのけると2枚の回状が出てきた。2枚とも大した情報では無かったが、いずれも炎の国にある支部からのものだった。
-傭兵募集 銀貨4枚/1日 6カ月
-魔法の石 1個/金貨3枚以上 ※聖教石と教会が呼ぶもの
炎の国で戦いの準備が進められているのだろう。ショーイの両親が殺されたのには炎の国とネフロスの信者が関わっている。そしてネフロスの信者と黒い死人達が深い関係である以上、炎の国と黒い死人達にもつながりがあるはずだ。
ショーイにはサトルやハンス達には言っていないが、ネフロスの信者を追う理由が仇討ち以外にもあった。ゲルドと言う男は父親と同じで昔の教会の教えを信じている仲間だった。だが、いつの間にかネフロスの信者に取り込まれていたのだ。他にも裏切った仲間が居るかもしれない、そいつらを必ず見つけ出して排除する。そうしなければマリアンヌ様を炎の国から奪い返しても、ショーイ一人では守ることが出来ないだろう。
もっと強く、そして非情にならなければ相手には立ち向かえない。ショーイにとってはサトルが勇者かどうかは関係なかった。まずはマリアンヌ様を取り返すこと、それが最優先なのだ。
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