第147話Ⅰ-147 ショーイの想い

■チタの町


 俺達は男たちから必要なことを聞き出して、手錠をかけた上で足を縛りあげ、口をダクトテープで塞ぎ終えた。アジトの襲撃までどこかに隠しておくべきだろう。


「なあ、サトルよ。今晩もアジトを襲うんだったら、俺に行かせてもらえないか?」

「お前が最初に行きたいのか?どうしてなんだ?元の仲間だから、やり難くないか?」


 ショーイはサトルの仲間になっていたが、自分がサトルに受け入れられていないことを自覚していたようだ。


「前にも言ったが、あいつ等は仲間じゃない。それに、俺があいつ等と居たのは金のためもあったが情報を集めてたんだよ」

「情報? って何を?」

「闇の神ネフロスの信者の情報だ」

「ネフロス・・・、それがショーイとどう関係があるの?」


 -ネフロス、リンネを生き返らせた闇の神様?


「それは・・・、俺の両親が闇の魔法で殺されたからだ。俺の親父は教会武術士で剣の達人だった。だから、教会の命によりサリナの母親であるマリアンヌ様の警護を務めていたんだ。俺も小さい頃から剣を仕込まれていて、魔竜復活の時には勇者の力になるようにって言われて育った」


 -マリアンヌ、サリナの母親はそういう名前だったんだ。


「勇者の一族と俺達は火の国の小さな町でひっそりと暮らしていたんだが、火の国の王はマリアンヌ様を王宮に来るように何度も誘っていた。だが、マリアンヌ様は金や宮殿でのぜいたくな暮らしに全く興味を示さなかった。そのうち、王は兵を送るだの脅しをかけてきたけど、俺の親父達は全く動じずに追い返していたのさ。相手も正面切って襲ってくることは無かった。それは、俺の親父を恐れてではなく、圧倒的な魔法力を持っていたマリアンヌ様が怖かったのさ」

「そんな時に一人の男が親父のところへ訪ねてきた。教会魔法士のゲルドと言う男で親父の古い友人だったようだ。親父は歓迎して夕食を振る舞ったりしていたが、翌朝起きるとゲルドは居なくなり・・・、俺の両親は死んでいた。それも全身が茶色に干からびてだ。その時は闇魔法なんて知らないから、子供だった俺には何が起こったか全然わからなかった。だが、大人になって、あれが闇魔法による死の呪術だと知った。人の生気をすべて奪う闇の魔法だとな・・・。親父たちが死んでからすぐだったよ、警護が手薄になったサリナとその父親が王宮に連れ去られて、マリアンヌ様が火の国の軟禁に応じたのは。俺の両親の暗殺からすべてが始まったんだ」


 -闇魔法、触れるだけで殺すことが出来るらしい。


「ハンスもその話は知っていたの?」

「いえ、闇魔法の話は初めて聞きました。ショーイの両親が死んでサリナ達が連れ去られたのはその通りですが・・・」


「ショーイはそのゲルドってやつを見付けたいんだな?」

「ああ、必ず見つけ出して、敵を取るつもりだ。組織の首領の話は昨日初めて知ったが、俺が調べた範囲でも黒い死人達とネフロスの信者は深くかかわっているはずだ」

「なんで、今頃になってそんな話をするんだ?もっと早くになぜ言わなかった?」

「それは・・・、昨日の夜まではお前の本気が判らなかったからな。ラインの領主の所でも、出来るだけ助けてやろうとしていただろう?」


 -確かに、出来るだけ殺さない方針は昨日の夜から完全に撤回したな。


「リンネはネフロスの信者については何か知らないのか?」

「あたしの知っている話は200年以上前だからねぇ。だけど、前の魔竜騒乱の時にネフロスの神を最初に信じた人たちは南に居たらしいよ」


 -南? 迷宮があったバーンの方か・・・、情報がアバウトすぎるな。


「別にショーイに任せても良いけど、一人だと危ないからミーシャと・・・、ラプトルも一緒に行けば?俺は裏口を固めて逃げられないようにするよ。サリナとハンスは二人の背中を守ってやれよ」

「そうか、かたじけない。俺も十分役に立つところを見てほしいんだ。それに、お前が黒い死人達を狩りに行くって言ってくれたことには本当に感謝している」


 俺の中でショーイのためにと言うのは1ミリも無かったが、本人が喜んでいるなら放っておこう。


 §


 日が暮れる前に緑色の小屋の横に立つ大きな倉庫を3組に分かれて偵察した。捕まえた4人組は雑木林の奥に小さな貨物コンテナをだして手錠をかけたまま閉じ込めてある。


 俺はリンネと一緒に川上から手漕ぎボートに乗って、川の上から倉庫の裏側を眺めていた。ボートは公園でデートの時に乗るような手漕ぎのやつだ。現世でデートなんてしたことが無いから、俺のボートデートのデビュー戦は死人相手と言うことになる。もっとも、リンネは美人だったから、現世の俺ならデートはおろか口を利くことも無かっただろう。血の気が薄いから病人のように見えるが、切れ長の青い目に長いまつげが伸びている。死人で無ければ年上のお姉さまに恋心を抱くタイプだ・・・が、残念ながら200年以上前に死んでいるのだ。


 シモーヌ川の川幅は100メートルを優に超えていて、川の流れはゆったりとしていた。下流に向けてボートを惰性で流しながら、アジト裏の桟橋と大きな扉を見ていた。船で物や人を運び込むのに最適な裏口を見張るには川からの方がよさそうだった。日が暮れたら電動モーター付きのゴムボートで下流から近づくことにしよう。


「ミーシャ、表側の動きは無い?」

「ああ、一人出て行ったがさっき戻って来た」


 -仲間が4人ほど行方不明になっているが、騒ぎにはなってい無いようだ。


「じゃあ、予定通りに日が沈んだら開始しよう」

「承知した」


 では、ショーイの腕前を見せてもらうことにしよう。やる気のある人にやってもらうのが一番良いと俺も思うからな。

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