第146話Ⅰ-146 回状の効果

■チタの町


 サリナとショーイは町はずれを目的も無く歩いていた。サトルは町の様子を探って来いって言ってたけど、サリナにはどうすれば良いのかが判らなかった。


「ショーイ、町の様子を探るって何をすれば良いのかな?」

「そうだな、悪い奴らが集まりそうな場所とか兵士が居る場所とかを見ておけば良いんじゃないか?」

「兵士? 悪い奴らは判るけど、兵士が居るところはどうしてなの?」

「この国の兵士は風の国ほどやわじゃない。今日の夜も派手にやるつもりなら、兵士に追われる覚悟も必要だからな」

「そっか」


 風の国は王様と先に話をしたから兵士も協力してくれたけど、この国の王様には話をしていない。悪い奴らでも勝手に捕まえると叱られるかもしれないのか。


「サトル。私とハンスをつけてくるヤツが居る」


 無線からミーシャの声が聞えてきた。でも、サトル宛だから返事をしちゃいけない。呼ばれたとき以外は黙っておかないと後で叱られる。


「ねぇ、ショーイ、ミーシャが誰かに付けられているって」

「それで!? 何処でどうするって言っているんだ?」


 ショーイは刀を握って、今にも走って行きたそうにしている。


「うん、ミーシャは川沿いを歩いて、後ろからサトルが追いかけるって」

「俺達はどうするんだ?」

「何も言われてないよ」

「なんだよ、また仲間外れかよ!宮殿の時もお前らだけで行っちまうしよ・・・、とりあえず、俺達も見に行ってみようぜ!」

「でも、勝手なことをしたらサトルに叱られるよ」

「様子を探ってたら、たまたま出くわしたことにすればいいさ」

「えー、でも・・・」

「良いから行くぞ、お前が行かないなら俺一人でも行くからな!」

「ちょっと待ってよ!」


 ショーイは言う事を聞いてくれずに走り出した。勝手に動いてサトルに叱られるのは嫌だけど、ショーイ一人で行かせても同じ気がする。無線を持っているのは私だけだから一緒に居ないといけないのに。


-なんでショーイと二人にされたんだろ?損した気がする。


 サリナは少し怒りながら、ショーイの後を追って走り始めた。


 §


 4人の男たちは早い時間から飲みに行くために大通から船着き場に向かう場所でそいつらを見かけた。


「おい! あれはさっきの回状の・・・、獣人とエルフが二人ともいるぞ!」

「そんなにうまい話が・・・、あの獣人、片腕だ!」

「だろ!? どうする。4人でやるか?」

「ああ、二人生け捕りなら金貨200枚だ。一人頭50枚の取り分を減らす必要もねえだろう」

「よし、じゃあお前ら二人は俺達の後ろから少し離れて付いて来い。できるだけ人気のないところに行くまで待ってから、俺が道を尋ねるふりをして声を掛ける。お前たちはそのまま通り過ぎて後ろから足に斬りかかれ。だが殺すなよ、必ず生け捕りだ」


 男は挟み撃ちにして確実に仕留めたかった。懸賞金は生け捕りと書いていたから、殺さずに逃げられないようにするのだ。


 獣人とハーフエルフは両脇に並ぶ店を眺めながら船着き場の方に歩いて行く。船着き場を通り過ぎて倉庫街に入っても歩みを止めずにその先の小道へ入って行った。この先には小舟が何艘かつながれている船溜まりがあるだけで、川沿いの小道には昼でも人通りがほとんど無いはずだ。


 これは神様からの贈り物だな・・・。男は金貨50枚の使い道を考えながら、獣人達との距離を詰めた。


「あんのー、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが?」


 獣人とエルフは足を止めてこちらを振り返った。小道の左側は川で右側は連れ込むにはちょうど良い雑木林になっている。


「なんだ? 何か用か?」


 返事をしたエルフは透き通るような肌をしている。まだ少女のようだが火の国に連れて行けば金貨20枚ぐらいで売れそうだ。


「いやー、あっしらは船で着いたところなんですが、どうも道に迷ったみたいで、教会は何処にあるんでしょうか?」

「教会か?それなら反対側だ。振り向いて見てみろ」

「そうですかい・・・」


 後ろからきている奴らを先に行かせるためにも、丁度振り向きたかった・・・、何だ?後ろの二人がいない? あのバカたれどもは何処に行きやがった!?向こうからは人影が・・・ 


「どうした、教会が見えないのか?」


 畜生!? どうする、2対2だ・・・やるしかない!もう一人の男に目配せしながら、剣を抜いて獣人の足を切り払いに踏み込んだ。


 -パン! -パン!


「グアッ!」


 エルフの女の右手が上がったと思った瞬間に変な音がして太ももに何かが刺さって、しびれるように痛んで血も出てきている。相棒も同じように太もも抑えて膝を着いていた。その後ろにはいつの間にか若い男と綺麗な女が立っている。


「安心しろ、殺さないつもりだから」


 若い男が胸から何かを取り出してこっちに向けた途端に体がしびれ始めた。全身が震えているが、声も出せない痛みが全身を襲っている。


 -こ、こいつらは一体!?


「じゃあ、担架に乗せて右の奥に運ぼう。丁度良い雑木林の中に最初の二人も連れて行ったから」


 -畜生! 俺達が狩られていたのか!?


 §


 2人組だと思って俺はそいつらを見逃すところだったが、リンネが気付いて俺の袖を引っ張って小声でささやいた。


「この二人もお仲間だよ」


 ミーシャとハンスの後ろをつけている二人組の50メートルぐらい後ろを、剣を差した男がもう二人歩いていた。確かに身なりの汚い男たちで仲間と言われればそんな気もする。


「ミーシャ、もう二人いるようだから。先にその二人を倒してから追いつくよ。それまではゆっくりと歩いていて」

「承知した」


 俺は目の前の二人が小道に入ったところで、後ろから近寄って、一人をスタンガンで、もう一人をテイザー銃で無力化した。道端の草むらまで引きずって、後ろ手に手錠をかけて転がしておく。


 前方にいるミーシャ達を追いかけていると、無線から男たちに呼び止められる声が聞えた。教会までの道を聞かれているようだった。


 追いついた俺には小道の向こうで男が剣を抜こうとしたのが見えたが、相手が踏み込む前にミーシャのハンドガンから発射音が連続して二人の男は膝を着いている。


 俺は近寄って二人ともテイザー銃で無力化して、右にある雑木林の中に担架で運びこんだ。先の二人も運んで来て4人を林の中に並べたところで、ショーイ達も走って来て全員が揃った。


「なんだよ、もう終わっちまったのか!?」

「ショーイ達も来たのか?」


「私はダメって言ったんだけど、ショーイが言う事を聞いてくれないの!」

「そうか、まあいいや。とりあえず、こいつらからいろいろ聞かないとな。ミーシャに話しかけて来た男は?」

「一番左の男だ」


 長髪を後ろでポニーテールにしているひげ面の男だった。


「今から治療してやるから、大声を出すなよ。 -ヒール- 」


 俺がかざした右手からいつもの温かい空気が男の体に流れて行く。


「もう、話せるだろ? まずはお前の名前を教えてくれよ」

「・・・」

「そうか、だったら最近覚えたての方法で聞くしかないな。ゲイルのお頭って人も意外とおしゃべりだったぞ」


 俺はタオルと水を用意して、昨日の夜と同じ拷問を始めた・・・。


 咳き込みながら水で顔を三回洗ったエバンズと言う男から聞き出したところによると、四人は黒い死人達で間違いなかった。それにハンス達が見つかるのはリンネが言った通りに回状が回っているからだった。二人を生け捕りにすると金貨100枚がそれぞれ貰えるらしい。回状は他の国にも回っているから、ここでもすぐに見つかったと言う事だ。


-ハンスは見つかりやすい・・・、だが、それを利用できそうだ。


「それで、お前たちのアジトには今日は何人ぐらい居るんだ?」

「10人ちょっとだと思うが、俺達が出た後の事は知らない」

「チタのお頭と組織の首領もいるのか?」

「俺達のお頭はセントレアに行っている。首領っていう人には俺達は会ったことが無い」

「お頭はいつ戻って来るんだ?」

「さあ・・・、あっちに女が居るから。気分次第だろ」


 手下を捕まえても仕方がないが、風の国でこいつらの仲間を壊滅させた情報が伝わる前にアジトを叩いておきたかった。


「セントレアでは何処にいるんだ?」

「・・・」

「そうか、まだ水が欲しいんだな・・・」

「わかった! 言うよ、だけど俺が殺される・・・」

「俺がお頭を捕まえてやるから安心しろ。で、何処にいる?」

「セントレアの風俗街にある『昇天楼』っていう売春宿だよ」


 -昇天って、まんまやな。


「それでお頭の名前は? どんな見た目なんだ? 強いのか?」

「ああ、強い。短剣を両腰に刺している背の低い、目つきの鋭い男だ。髪の毛が赤いからすぐにわかるさ。名前は知らねえ、俺達はお頭としか呼んだことが無い」


 ここのお頭もか・・・、名前を出すと呪われるとでも思ってるのか?


 だが、必要な情報はこんなところだろう。今日の夜にここのアジトを襲って、明日セントレアでチタのお頭を確保することにしよう。


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