第149話Ⅰ-149 ネフロスのシンボル
■チタの町
ショーイとミーシャのやり取りは川に浮かべたゴムボートの上で聞いていた。川から裏口を見張っていたのだが、誰も出てくることも無く制圧は完了したようだ。川から上がって倉庫の中に入ると、足から血を流した男が床で転がっていて怯えた馬のいななきが響いていた。
4人は足を撃った後にスタンガンでミーシャが無力化してくれている。ショーイが奥の部屋の前で呼んでいたので一緒に中に入ると、机や床の上で倒れた男達と隅で固まっている娘たちが居た。
「サリナ、女の子たちに飲み物を飲ませてやってくれ。ハンスとショーイは倒れている奴らを倉庫の方に引き摺り出して」
「うん、わかった」
ストレージからペットボトル飲料を5本出して散らかっている机の上に置いてやると、サリナは娘たちに話しかけながら飲み物を手渡し始めた。酷い目にあった後だから女同士にした方が良いだろう。
俺は倉庫に戻って倒れている奴ら全員に手錠をかけた。ショーイが相手した奴らは頭から血が出ているので、しばらくは寝かせておくしかないが、早めに情報を引き出しておきたかった。
「ショーイ、首領とかネフロスの手がかりは何かあった?」
「いや、特に見つからなかった」
「ここには金とか貴重品とかは置いてないのかな?」
「見えるところにはガラクタしかないようだ」
アジトと言っても人が集まるだけの場所なのかもしれない。だが、組織である以上はどこかに金を置いてあるはずだ。やっぱり聞いてみるしかないだろう。
「ショーイが入った時に話してきた男はどれ?」
「左から3番目の奴だ」
魚河岸のマグロのように9人の男が倉庫の地面に並んでいる。ショーイが言った男を引き離して尋問することにした。
「今から、治療魔法をかけてやるけど騒ぐなよ。騒ぐとまたビリビリってなるからな。-ヒール-」
「てめえ、こんなことを・・・グゥッ!」
うるさかったのですぐにスタンガンを3秒ほど押し当てて静かにさせた。
「もう一度言う。静かにしてないと、何度でもビリビリってするからな。-ヒール-」
今度は治療魔法が効いても何も言わずに口を真一文字に結んでいた。
「よし、じゃあ、いくつか教えてくれ。お前は黒い死人達の首領を見たことがあるのか?」
「・・・」
「話さないと、またビリビリっとするけど良いのか」
「・・・、グァッ!」
今度はスタンガンの短い放電で痛みだけを与えてやった。3回ほどやったが我慢強い男で何も話さないので、タオルと水方式に変更すると2回で従順に話してくれるようになった。
「俺は首領に会ったことは無えよ」
「最初からそう言えよ。じゃあ、ネフロスの信者っていうのがこの組織にもいるのか?」
「ネフロス・・・、首領の使いの事か? お
-首領の側近はネフロスの信者なんだな。
「首領の使いって、何人もいるのか?」
「何人かは判らねえが、二人見た事がある」
「マント以外に何か特徴は無いのか?」
「あいつ等は腕に入れ墨をしている。それが首領の使いである証だと聞いているぜ」
「どんな入れ墨だ?」
「ギザギザした形だ」
-ギザギザ、全然わからんっちゅうねん。
俺はレポート用紙とボールペンを渡して、手錠のままで書かせてみた。男の絵は下手くそだったが書いた図には見覚えがあった、現世で言う三角形を二つ組み合わせた六芒星というものだった。
「ショーイ、この目印に見覚えはある?」
「いや、初めて見るな」
何処かの教会に掲げてあるようなマークでは無いようだ。それでも布教するためにはネフロスの信者もどこかで集まっているような気がする。
「ところで、このアジトには金目のものとか武器とかは置いてないのか?」
「ここには・・・、無い」
不自然な間と泳いでいる目で何かを隠しているのがバレバレだった。
「また、水を飲むのか? 肺で水を飲むと辛いんだろ?」
「・・・」
「そうか、仕方ないな・・・」
タオルを見たらあきらめたようだった。
「わかった! もう勘弁してくれ・・・」
男が案内すると言うので、後ろから銃を構えて付いて行った。裏口から桟橋に出ると、桟橋の上でしゃがみ込んで敷いてある横木を取り外すと出来た穴の中に手を入れた。麻紐のようなもので川の中に何かを沈めていたのだろう。紐を手繰りあげて重そうな袋を両手で引きずりあげた。
「金はこれだ。隠し場所は俺とお頭しか知らねえ」
「本当か?他にも隠してるんじゃないのか?」
「嘘じゃねぇ! 誓って本当だ!」
嘘かもしれないが別に構わない。金が目的と言うわけでもなく、こいつらの資金を奪ってダメージを与えたかっただけだ。倉庫の中に戻って男達を一人ずつ大型犬の檻の中に入れて鍵をかけた。奥の部屋で袋から金を出すと金貨が200枚ほど入っていたので、さらわれてきた娘たちに20枚ずつと残りは俺以外の4人で分けるように言ってサリナに渡した。金が無くても生きていけるとこの世界の金に対してほとんど興味がわかない。
「こいつらと娘たちはどうするつもりなんだ?」
「俺達がセントレアに言ってお頭を捕まえる間はこのままにしておきたい。だから、ショーイはハンスとリンネと一緒にこの倉庫で待っていてもらえるか?攫われてきた娘の面倒を見ててほしいんだ。」
「お前たち2人だけで大丈夫なのか?娘たちは明日にでも馬車に乗せて帰せばいいだろう?」
「いや、俺達がここを襲ったことが伝わる前にお頭を抑えたいんだ。ひょっとすると他の仲間が来るかもしれないから、来たらショーイが中に引き込んで捕まえておいてくれ」
「そういう事か。わかった、気を付けて行って来いよ。ここのお頭は手練れだと言っていたからな」
セントレアの方は俺とミーシャが居れば十分なはすだ。こちらにもラプトルと人間の死人を10人ほど置いておけば、リンネが無敵にしてくれるから大丈夫だろう。
なんとしても、二つのアジトが襲撃されたと言う情報が伝わる前に此処のお頭を取り押さえておきたい。移動速度のアドバンテージを活かして先に動かなければならない。
■水の国王都セントレア
照明の無い暗い夜道だったが、チタからセントレアまでは1時間で到着することができた。アジトの男から聞いていた昇天楼と言う売春宿がある繁華街は20時を過ぎても人通りが多かった。太陽と共に生活しているこの世界では珍しい場所だ。
俺とミーシャは茶色いマントを深くかぶって売春宿の中に入って行った。店の中はタバコの煙が立ち込める酒場のような造りで、酒を飲んでいた男達は入ってきた俺達をちらっと見たが、すぐに興味を亡くしたようだった。奥にあるカウンターの中には口紅を赤く塗った女たちが何人も並んでいる。
「いらっしゃい、酒かい?女かい?」
俺は声を掛けて来た女に小さな四角い紙を手渡しながら小さな声でささやいた。
「黒い死人のお頭にこれを渡せ、俺達は表で待っている」
そのまま黙って外に出て明かりの届かない路地から出口の様子を伺う。俺の予想では紙に書いた六芒星の効果で必ず出てくると睨んでいた。暗い路地で待っている時間は10分ほどだった。背の低い男が売春宿から出てきて、通りの左右を見まわしている。俺はフードをかぶったままで路地から通りへ足を踏み入れた。
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