第274話Ⅱ-113 サリナ達の行方2

■スローンの町 森の中


 地面で転がる男にアサルトライフルを構えたまま近寄って、何も言わずに膝を狙ってトリガーを引こうとした瞬間、地面が大きく揺れた。突然足元の土が盛り上がり、俺は後ろへ投げ出される形で背中から倒れた。俺と男の間の地面はどんどんと高くなり、壁のように・・・、いや人の形をするゴーレムが起き上がって、俺に向かって右手を振り下ろそうとしていた。


「ハぁッ!」


 後ろからママさんの声が聞こえるのと同時に風魔法でゴーレムの右腕がはじけ飛んだ。その隙に転がりながら立ち上がって、首筋のあたりを狙ってフルオートで5.56㎜弾を叩き込んだ。ゴーレムの首は土がはじけ飛んでかなり削れたが、そのままこちらへ歩こうとしている。断ち切られた右腕も少しずつ根元から再生して既に肘ぐらいまで伸びてきているから、こいつをいくら砕いても効果は薄いのだろう。


 -魔法士を狙うしかない。


「マリアンヌさん、風魔法で手足を砕いてください!」

「はーい♪」


 何とものんきな返事が返ってきたが、魔法は返事と違って強烈だっと。後ろからうなる風の音が聞こえると同時に両手両足が付け根から砕かれて胴体が俺のほうに倒れてきた。それを右に回り込んでかわしながら、背後にいる魔法士が見える場所まで移動してアサルトライフルで狙いをつける。魔法士はテントを張っていた大きな木に体を預けながら右手をゴーレムの方に伸ばしていた。


 -パシュッ!パシュッ!パシュッ!


「グワァッ!」


 立っていた両足を銃弾が捕えて魔法士は悲鳴とともに突っ伏した。そのまま駆け寄ってテイザー銃を取り出して、背中に向けて高圧電流の電極を発射した。全身の筋肉がけいれんし始めた魔法士は声も上げられずに体を震わせながら濡れた地面に顔をつけている。足側から周り込んで、ストレージに入れられるか試してみたが地面に横たわったままだった。そのまま足首に手錠をかけてうつ伏せになった男の両手も後ろ手に手錠でつないでから、男を仰向けにした。


 男はスキンヘッドに眉毛無しで薄い唇をひくひくと震わせている不気味な人相だった。もっとも、唇が引きつっているのは俺の高圧電流のせいなのだろうが。俺は太ももと膝の銃創を血が止まる程度に治療魔法で治してやってから、濡れタオル方式の尋問を始めることにした。治療魔法の効果で既に体の痙攣も収まっていて話せるはずだったが相手も俺もまだ一言も口をきいていない。


 厚手のタオルと1ガロンの水ボトルをストレージから取り出して、タオルお男の顔に撫せると何も言わずに口のあたりにボトルから水を流し続けた。


「グォッ! ゲホッッ! ガハァ!」


 空気を求めて呼吸をするたびに肺に水が流れ込んで激痛が走っているのがわかる。体を必死でゆすって、タオルを外そうとするので俺はタオルを両足で踏んで抑えてからもう一度水を流した。せき込む音が深くなってきたところで一旦やめて、タオルをとって男の顔を見た。男は横を向いて吐けるだけの水と息を吐いたが、やめてくれと哀願することも無かった。まだまだいけると言うことだ。俺も何も言わずにもう一度濡れタオルを顔に乗せて水をかけ始めた・・・。


 男は意識を失うところまで行っても、一言も口を利かなかった。電気ショックやアンモニアの気付け薬で起こしてから同じことを繰り返したが何も話さない。凄い精神力だと思いながらも手を緩めることは無かった。だが、そろそろ時間がもったいなくなってきたところで俺は尋問をあきらめた。このままやっても殺すだけになってしまいそうだったからだ、殺すことに抵抗は無いが殺すこと自体が目的では無かった。意識を失った男を放置して、テントとして使っていた場所を物色してみると、空き瓶と蓋つきの器が転がっていた。


 -誰かが食料をここまで持ってきていたのだろう。


「マリアンヌさん、こいつを運ぶんで手伝ってもらえますか?」

「はーい♪」


 相変わらずご機嫌な様子で返事をしてくれるが、俺が尋問をしているときは離れた場所でしゃがんで黙ってみていた。拷問についてどう思っているのが気になったが、サリナ達を見つける為に手段を選ぶつもりは無かった。ママさんと二人で担架に魔法士の男を乗せて町から離れるように森の奥に男を連れて行き、大きな木の陰に大型獣用の檻を出して中に入れておいた。出血は止まっているが、ひざの骨は砕けたままだから、普通なら逃げられないはずだ・・・普通なら? すでに普通でないことは判っている訳だから、檻では安心できない。俺はチオペンタールと言う危険な鎮静剤をストレージから取り出して、男の腕に注射した。この薬は鎮静、催眠効果のある薬でちゃんと静脈に入ればしばらくは起きられないはずだった。


 檻の横にママさんと二人で入れる迷彩柄のテントを立てて、赤外線カメラと双眼鏡で監視しながら魔法士のテントに来る奴を待つことにした。すでに日が暮れ始めていて、夕食を持ってくる時間も近いはずだと予想している。俺達も雨に打たれて体が冷えて来ていたので、スタバの温かいカフェモカを取り出してママさんと飲みながら外を見ていると森の中にほとんど日差しが入らなくなってきたころにランプの明かりが遠くに見えてきた。


 ゆっくりと、だが確実にテントの方向に向かってきている。双眼鏡でランプの方を見ると男が一人で籠のようなものを持ってきていた。


「念のため、両側から挟み込みましょう。俺が左から行きますから、マリアンヌさんは右からお願いします」

「はーい♪」


 何一つ異論を挟むことなくママさんは右の方向へ静かに動き出した。俺も腰を低くしてアサルトライフルを抱えて左からテントに近づかないように回り込んでいく。ランプの光は同じぐらいの速度で少しずつ近づいてきている。俺は魔法士のテントから50メートルほど離れた場所にあった大きな木の陰に体を隠しながら、ランプの男がテントの傍まで来るのを待った。男が何の疑いも無くテントの近くまで来た時に、俺は男に向かって走り出した。男はテントの中を覗き込んで、誰もいないことに驚いたようにあたりを見渡して走ってくる俺と目が合った。


「な、なんだ、アンタは!」

「動くな、動くと痛い目にあうぞ」

「い、いきなり何を! クゥッ!」


 3メートルぐらいの距離からテイザー銃を使って体の自由を奪うと、男は持っていた籠を下敷きに前のめりに倒れた。近寄ってストレージを試したが、入らないのですぐに手錠・足錠をかけて仰向けにしてから治療魔法で痙攣をとってやる。


「な、今のは一体・・・」


 話せるようになるとすぐに話し出した男を見て、俺はさっきよりは上手くいきそうだと安心した。


「お前は黒い死人の仲間か?」

「ち、ちがう。そんな物騒な奴らとは関係ない!」

「そうか、じゃあ、なんでこいつのところに食事を持ってきた?」

「それは・・・」

「昨日王宮から来た二人の女がどこに行ったか知っているか?」

「・・・」


 沈黙はYESということだから、俺はアサルトライフルで男の太ももを撃ち抜いた。


「ギャァー! 痛い! 痛い!」


 痛みで体を震わせる男の太ももを踏みつけて尋問を続けた。


「二人は何処にいる?言えば、治療してやる」

「ど、洞窟だ! 痛い、何とかしてくれ!」

「洞窟? だが、すぐに行き止まりで誰もいなかったぞ?」

「ここに居た土の魔法士が洞窟の中を動かしたんだ。だから、元あった通路は途中でふさがって・・・」


 銃弾一発で何でも話してくれる男の話を聞いて、俺は失敗したことに気が付いた。あの魔法士はおそらく12時間程度は意識が戻らないはずだった。となると・・・、塞がった洞窟からどうやってサリナ達を助け出せば・・・。

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