第275話Ⅱ-114 土魔法の奥義

■スローンの町 森の中


 雨が降りしきる森の中で足を抑えて震えている男から色々な情報を聞き出すことが出来た。しかし、サリナ達を救出するための情報は俺が眠らせてしまった魔法士しか持っていないようだ。スローンの町は町長も含めて大勢がネフロスの信者だということを男は白状した。町長が俺を欺いたことへの怒りもあったが、それよりもサリナ達を魔法士が封じ込めた洞窟からどうやって出してやるかが先決だった。


 俺達が入った時は10メートルほどしか洞窟の通路は無かったが、男の話では洞窟はもっと奥まで続いているらしい。薄い壁のようなものだったら破砕道具で何とかなるが、サリナ達はもっと奥-10メートル以上先にいるようだ。現世の道具でトンネルを掘るようなものもあるのだろうが、普通の高校生が使える訳もない。ダイナマイト等だとサリナ達ごと吹き飛ぶか崩れて下敷きになるだろう。結局のところ、何でも持っているが現世の道具だけでは時間がかかるのは間違いない。


「マリアンヌさんは土魔法が使えないんですよね?」

「そうですねぇ、洞窟の土を動かすことは練習しても無理でしょうね」


 今から練習して習得したころにはサリナは飢え死にしているだろう。すでに洞窟に閉じ込められてから24時間ぐらいたっているはずだ。水は魔法でいくらでも出せるから2~3日は死ぬことは無いだろうが、何とか早く助け出してやりたかった。眠らせた魔法士もある程度で意識は戻るとは思うが、正直なところ適当に薬を打ってしまったので5時間で目覚めるのか10時間で目覚めるのか見当がつかない。それに意識が戻ったとしても協力する可能性も低いだろう。他に手段は・・・


「マリアンヌさん、ちょっと自分の部屋に行きますから、こいつを見ておいてください」

「はーい♪」


 どうも調子の狂う返事だが、俺がストレージに入るのをにっこり笑って見送ってくれた。自分の娘が洞窟の中で閉じ込められているのに危機感が全く感じられない。今までリカルドを不思議ちゃんだと思っていたが、実は似た者夫婦だったのかもしれない。


 俺はストレージの中で捕まえている黒い死人達の司祭-ゲルドの部屋を呼び出した。こいつもゴーレムを操る土の魔法士だったから、聞いてみる価値はあるはずだ。ゲルドは相変わらず首から上だけの状態でストレージの中で浮いているように見える。明かりをつけて、お互いの顔が見えるようにして何十日ぶりかで声を掛けた。


「久しぶりだな。元気にしていたか」

「・・・。ふむ、ここだと時の流れが判らぬ・・・」


 今日は少しは話をする気があるようで安心したが、足元を見られたくなかったのでいつもの調子で軽く相槌を打つ程度にしておいた。


「そうか。外の世界はだいぶ変わったけどな。お前はここが好きみたいだからな、ゆっくりしていけば良いよ。まあ、永遠ってことだけど」

「永遠・・・か。ここは一体どういう場所なのだ? お前の結界の中か?」

「ふーん、少しは興味を持ってくれたみたいで嬉しいね。だけど、お前が何も情報を話さない以上はこちらも教えてやる気は無いね」

「・・・何が知りたいんだ?」


 -おっと! 向こうから歩み寄ってきた。


「そうだな・・・、色々あるが答えやすそうなところから行こうか。黒い死人の首領やネフロスの本拠地については答えにくいだろ?」

「うむ、答えるつもりは無い」

「そうか・・・、だったら魔法について教えてくれよ。おまえが使ったのは土魔法だよな?あの土人形はそれで作ったんだろ?」

「ああ、そうだ。だが、そんなことはお前たちも知っておるだろう。勇者の一族が仲間にいるのだろう?」

「ああ、居るよ。だけど、使い方が違うし、あんなに大きな土人形を作ることは出来ないからな、どうやったら土魔法を上手く使いこなせるようになるんだ?」


 今のところ土魔法を使える仲間はいないが、こいつに教える必要は無いだろう。だが、勇者の一族なら使えて当然という口ぶりだが・・・。


「素養、修練、そして師だな。他の魔法と何も変わらんよ」

「そうか・・・、お前の師匠は誰なんだ?」

「我の師は・・・始祖しその一族だ」

「始祖の一族って何?」

「それは・・・、まあ構わんだろう。我ら死人しびとを最初に作りだし、ネフロス神と最初に話をしたのが始祖だ。そして、その始祖の一族が我らに土の魔法やネフロス神の力を与えてくださったのだ。


 どうやらネフロス教の教祖の一族的な人が伝道師となって土魔法や死人しびと使い等を広めたようだ。


「そうか。お前と同じぐらい土魔法を使える魔法士はたくさんいるのか?」

「我と同じ? そのようなものはおらんだろう・・・、いや、あと一人はいるか・・・」


-そのもう一人は俺が眠らせてしまったかもしれないが。


「なるほどね。じゃあ、そっちも聞きたいことがあれば聞いて良いよ」


 もう少し掘り下げたいところだったが、貴重な情報だと思われて出し惜しみされないように敢えて話を切り替えた。


「うむ。あの後、戦はどうなったのだ? 火の国は?」

「戦はもちろん俺達が勝ったよ。そして、火の国の王と大臣と将軍を捕らえた」

「王と大臣を? 将軍は戦場には来ておらんかったはずだが・・・」

「王宮に押しかけて拉致してきた」

「・・・」

「他に聞きたいことは無いの?」

「王はどうなったのだ? それに後継は?」

「前の王様は俺が遠くに追い払った。次は奥さんが女王になったよ」

「!?・・・そうか」


 ゲルドはイージスが女王になったと聞いて笑みを浮かべたように俺には見えた。何かこいつにとって都合が良いことがあると言うことだ。


「魔法の話だけど、俺が土魔法を覚える為にはどうしたら良いだろう?その始祖の一族ってまだいるのか?」

「お前が土魔法を? 必要なのか?お前には何か違う力があるのだろう?」

「ああ、色々あるけど。火の魔法とか水の魔法も覚えたから土の魔法も覚えたいんだよ」

「お前は火と水の魔法も使えるのか!?」

「ああ、これでもこの世界の勇者ってことになっているからね」

「なるほどな。勇者であればすべての魔法を使えるはずだな・・・。始祖の一族は今はいない」

「全員死んだのか?」

「そうだ。この世界で生きている始祖はいない」


 -この世界で?


「ふーん、この世界以外なら生きているってことか」

「!・・・どうしてそう思うのだ?」

「ああ、ネフロスのアジトは他の世界に繋がっているんだろ?」

「誰から聞いた!?」


 冷静だったゲルドが急に気色ばんで目を見開いている。


「それは企業秘密だな。だけど、他の世界に行くつもりは無いからなぁ・・・、この世界で教えてくれそうな人は知らないか?」

「・・・何故、勇者の一族に教えを請わんのだ?」

「ん?・・・まあ、色々あるんだよ。それにお前ほど自在には扱えないしな」

「・・・」

「どうした?」


 ゲルドは突然考え込んで黙ってしまった。その後は俺が何を言っても口を開かず目を閉じている。一体どこで間違えたのだろうか?順調に尋問は進んでいたはずなのだが・・・。


 -勇者の一族が土魔法を自在に扱えない・・・って言うくだりか?


 俺はストレージから出てテントの横で火を起こして暖をとるマリアンヌさんに聞いてみた。


「マリアンヌさん、実は・・・」


 突然黙ってしまったゲルドとの会話をママさんに伝えると、ママさんは至極当然の事のように頷いた。


「ゲルドは私たちが土魔法も自在に扱えると信じているのです。だから、あなたの言っていることが嘘か、もし本当なら情報を与えない方が得策だと考えたはずです」

「でも、マリアンヌさんもサリナも土魔法は使えないんでしょ?使えるけど上手くない程度にして伝えたんですけどね?」

「・・・あなたは南の迷宮で魔法具をたくさん見つけてくれましたよね?」


 突然違う話を始めたママさんに面くらいながら俺は頷いた。


「ええ、いくつも迷宮を周ってきました」


 思い返せばすごく昔のような気がする。常にビビりながらだったが、緊張感を持ちながらもサリナとミーシャが一緒で楽しい思い出だった。


「あの迷宮はすべて先の勇者が土魔法で作ったものです。ですから、土魔法を使えないなら勇者の一族では無いと考えたのかもしれません」

「えーっ!? あれ全部ですか? でも、山みたいに大きいのがありましたよ?」

「大きさなど何とでもなるのです。ですから勇者の一族が土魔法を使えない・・・それは、ゲルドにとっては受け入れられない情報だったはずです」

「でも、今となっては、使える一族はいないと・・・」

「・・・いるのです。一人・・・。ゲルドは知っているのでしょう・・・」

「居るって誰が?」


 ママさんは露骨に嫌そうな表情を浮かべたが、渋々と言った感じで言葉にした。


「私の父が使えるのですよ。おそらく誰よりも上手く土の魔法をね」

「お父さん? サリナのお爺ちゃん・・・、生きているんですか!?」

「私の中では死んでいますが、まだ生きているかもしれません」


 何だかよく分からないことを言い出したサリナの母親から聞いた話は、やっぱり良く分からなかった。


 -やっぱり、この母親も変だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る