第143話Ⅰ-143 容赦なく

■王都ゲイル 下町の宿


 前日の偵察でストレージから出るときは危なかった。日の出前にアラームで目を覚ますと周りには黒い死人達がたくさん野宿していた。夜中のうちに到着したやつらが、アジトの中には入り切れなかったようだ。黒い目だし帽をかぶり暗闇に紛れてストレージから出てショーイと一緒に宿まで戻って来た。


 宿の方は変わりが無かったが、通りの角で見張っているやつが居るのに気が付いた。黒い死人達も俺達の居場所を把握しているのだろうが、そのままにしておいた。昼間に襲ってくることは無いだろう。


 俺が戻るとすぐに組合から紹介された大工が来てくれた。やってほしいことを伝えるのに時間が掛かったが、今の扉の枠を大きくして、俺が用意したアルミ製のドアをはめ込むことをなんとか理解してくれた。やり方は俺には判らなかったのでお任せにしてある。


 二階の食堂にみんなを集めて、朝食を取りながら偵察の報告と今夜の予定を伝える。パンとサンドイッチ、ペットボトル飲料をテーブルの上に並べながら説明した。


「奴らは既に100人ぐらい集まってるけど、今日も大勢集まるらしい。おそらく今晩ここを襲うつもりだと思う」

「この間のように待ち伏せをするのか?」


ミーシャは相手の人数を聞いても反応を示さなかった。


「いや、今日は日暮れと同時にこちらから襲撃する。最初は俺とミーシャが撃っていくから、みんなは近寄ってくる奴が居ないか、見張ってくれるだけで良い」

「リンネには使えるやつを出しとくから。俺達が撃つ方向と反対側に逃げないように配置しておいてくれ」

「ああ、お安い御用だよ」


「サリナはどうすればいいの?」

「お前も俺達の近くを守っておいてくれ」

「わかった!」


 ちびっ娘もやる気満々だが今回は大人しくしてもらおう。前回見逃してしまったゲイルの頭は生け捕りにする必要があるのだ。


「じゃあ、ハンスやショーイ達は眠いだろうから、夕方までは部屋でゆっくり休んでてよ」

「サトルは大丈夫なのか?お前もアジトの近くで一晩中起きていたんだろ?」

「あ、ああ、俺も後で少し昼寝するよ」


 一人だけ安全なストレージで寝ていたといはショーイに言えなかった。


■ゲイルの町はずれ 黒い死人達のアジト


 大工の腕は良かった。夕方までにはアルミ製のドアを玄関と勝手口のそれぞれに隙間なくはめ込んで、動かないように固定してくれた。アルミサッシの窓枠設置も追加で発注しておいた。


 日暮れ前に、まずは見張りの男たちを片付けることにした。ハンスをおとりにして、後をつけてくるヤツを狭い路地まで誘い込んで、俺が後ろからテイザー銃で仕留めた。おとり役をサリナとミーシャも使い分けながら、同じ要領で無力化していく。4人とも後ろ手に手錠をかけたうえで両足も縛って近くの廃屋へ転がしておいた。


 アジトの傍に来た時にはすっかり日が沈んで、林の中は真っ暗になっていた。遠くに見えるアジト前でたき火をしている赤い光が白い壁をゆらゆらと照らしている。今朝見た時よりも人も馬も増えているのは間違いない。外にいる数だけでも100は超えている。こっちは6人だが全く不安を感じない。むしろ、優しい俺は俺達を殺しに来る相手を可哀想だぐらいに思っていた。


「じゃあ、リンネ。こいつらを反対側に回り込ませて、ゆっくりとアジトの方に来るようにさせてくれ」

「あいよ」


 今日も頑張るラプトルと氷獣の狼はリンネに触られると暗闇の中をアジトとは違う方向に静かに走り去っていった。


「俺はもう少し近づくから、ミーシャはもう少し右側に回り込んで撃って」

「わかった」


 アジトまで300メートルぐらいの場所だったが、林の中は真っ暗でこちらの動きは見えないはずだ。俺もミーシャも暗視装置をつけているから、たき火の光が届かないところの方が良く見えていた。前方から大きな笑い声も聞えてきた。俺達を襲撃するのを楽しみにしているのかもしれない。200メートル地点まで進んで、ミーシャに無線で声を掛ける。


「ミーシャ、用意は良い?」

「いつでも大丈夫だ」

「良し、撃とう。俺は左から、ミーシャは右から」

「承知した」


 無線からいつもの落ち着いた声が聞えてきて、静かな掃討作戦が始まった。アジト前にたむろしているやつへスコープの十字線を合わせて、狙撃銃のトリガーを引き始める。サプレッサーから空気が漏れる音が続き空薬莢が飛んで行く、暗視装置の緑色の世界の中で男たちが倒れて行く。


 -何だ!? -どうした!? -痛え!・・・


 男たちの悲鳴と騒ぎが広がって行く。聞えてくる声を無視して動いているやつを見つけては次々とトリガーを引いて行く。3本目のマガジンを交換していると、アジトの中から何人か出てきたが、立て続けにミーシャが撃ち倒した。5分もしないうちに見えている範囲に立っているやつは見えなくなった。


「よし、じゃあ。アジトに乗り込もう。ミーシャは裏にまわって、窓から逃げるやつが居ないか見といて」

「承知した」


 俺は後ろにサリナ達を引き連れて、アサルトライフルを構えながら、ゆっくりと林の中を進んで行く。立ち上がろうとしているやつへは銃弾を撃ちこむ。今日は手加減をするつもりが一切無い。


 アジトの中には大勢が居るはずだが、玄関で倒された奴を見たのだろう。誰も外には出て来なくなっている。玄関の扉は倒れた男が挟まって半開きになっていた。いつものようにスタングレネード(閃光音響弾)から使うことにした。玄関脇に背中をつけて、ピンを抜いて開いている扉の中に二本投げ込んだ。


「おい、これは?」


 扉の中の声を聴いて耳を塞いでしゃがみ込むと爆音が扉の隙間から聞えてきた。アサルトライフルを構えて扉の中に突入する。廊下にうずくまる5人の男が居たので、銃弾を叩きこむ。廊下からは左右と正面に閉まっているドアがあったので、左側のドアを開けてスタングレネードを投げ込んだ。爆音と悲鳴を聞いて中に入ると元は厨房と食堂だったようだ。10人ほどの男たちがうずくまっていたのでアサルトライフルで撃ち倒していく。マガジンを交換して、廊下の反対にある部屋でも同じ手順で制圧した。廊下の突き当りにもう一つドアがあるが、手前には二階へ上がる階段があった。


「ショーイ、ハンス、2階から誰も降りてこないように見張っといて!」

「わかった、任せておけ」


 ショーイは既に炎の剣に火を灯し、ハンスも槍を右手に持っていた。間取り的には奥の部屋が一番広そうな気がしていた。扉に近づくと、中の声が聞えてきた。


 -さっさと行かねえか!


 扉のすぐ向こうにいるようだったので、ドア越しにアサルトライフルで連射した。サプレッサーから出る空気音と飛び散る薬きょうの合間に部屋の中から悲鳴が聞えてくる。この部屋にも穴だらけの扉を開けてスタングレネードを使った。爆発音の後にサブマシンガンを構えて部屋へ入ると、扉の周りには血だらけの男たちが5・6人倒れている。広い居間の壁際には方向感覚を失って耳を押さえている奴らが並んでいたので、サブマシンガンで薙ぎ払いながら倒していった。


 -ガァッ! -ギャッ! -グゥッ!


 男たちは様々な悲鳴を上げながら床に倒れて行った。


 俺のお目当ての男が大きなソファから立ち上がろうとしているのを見つけた。よろめきながら床に手を着いている。サブマシンガンで手と足の両方へ短く連射する。


「グゥァッ!」


 男は短い悲鳴を上げて顔から床に倒れ込んだ。居間の制圧が終わったので、廊下に戻ってショーイ達の様子を見た。ショーイは階段の下から上に居るやつを睨んでいたが、部屋から廊下に出てきた俺を見てニヤリと笑った。


「二階の奴らは俺に任せてくれよ」

「まだ、大勢いるけど大丈夫か?」

「問題ない。この刀の試し切りには不足だが、慣れるにはちょうどいいだろう」

「じゃあ、どうぞ」


 階段を駆け上るショーイを見送って、もう一度部屋の中に戻る。ゲイルの頭は床の上でもがいていた。


「この間言ったよな? もう二度と俺達に手を出すなって」

「ち、畜生、さっさと殺せ!」

「いや、殺さないよ。死ぬよりつらい思いをしてもらうから」


 俺はうつ伏せになっている男の両肩をハンドガンで撃ちぬいた。


「ガァーーー!」


 男の絶叫が部屋の中に響いた。


「サリナ、足を治療してやってくれ」

「うん、わかった」


 ちびっ娘は残虐な光景も気にならないようで、ニコニコしながら男の足に手を向けた。


「ヒール!」


 膝のあたりから大量に出ていた血が止まったようだ。


「よし、お前に聞きたいことがある。黒い死人達の首領にはどうやったら会えるんだ?」

「・・・」


 今度は左足の裏を銃で撃ちぬいた。


「クッゥーー!」


 痛みを押し殺す苦鳴が口から洩れたが出血は大したことが無いようだ。まだ、話す気にならないようなので、映画で勉強した拷問をやってみることにした。重たい大男を仰向けにして、口の上に広げたタオルを置いた。両肩を撃ちぬかれた男は腕が全く動かなくなっている。タオルの上から口の中にペットボトルで水を・・・。


「グボゥ、ガフゥッ!」


 この拷問は濡れタオルに鼻と口をふさがれて空気を求めて呼吸をすると、流し込まれる水が器官に入って胸が焼けるようになる・・・らしい。やるのは初めてだったが、大男はのたうちまわるほど苦しがっているから、効果があるのは間違いない。


 1リットルほど水をかけて、タオルを取ってやった。


「話す気になったか?」

「・・・」


 同じことをして欲しいようだったので、今度は2リットルが空になるまで水を口の中に注ぎ込んだ。必死で顔を振ってタオルを外そうとするので動かないように額を足で抑える。


「ブガゥ、グフゥッ! ゲホッ!」


「話す気になったか?」

「は、話す! だからもうやめてくれ!」

「そうか、それで首領にはどうやったら会えるんだ?」

「それは・・・」

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