第144話Ⅰ-144 首領

■ゲイルの町はずれ 黒い死人達のアジト


「それは・・・、無いんだ」

「無い? ふざけてんのか?」

「違う! 嘘じゃねぇんだ! おかしら達とは使いを通してしか話ができねぇ」

「じゃあ、お前が連絡を取りたいときはどうするんだ?」

「3つの国の本部に書状を送るんだ。すると、そのうち返事が来る」


 そんないい加減な・・・こいつの言っていることは本当なのか?


「お前はそのお頭と会ったことがあるんだよな?」

「ああ、年に一度はここにも来ている」


 さすがに、ここに来ることはもう無いだろうが・・・


「金はどうしているんだ?」

「金?」

「上納金みたいにお頭に納めているんだろ?」

「ああ、月に一度送っている」

「どこに?」

「・・・水の国のアジトだ」


 ようやくまともな情報が出てきた。


「水の国のアジトは何処にあるんだ?」

「それは・・・、わかった! 言う!」


 俺がタオルを手にしたのをみて大男はビビりまくっている。


「セントレアの南にあるチタの町にある倉庫だ」

「チタのどの辺だ? 何か目印はあるのか?」

「町から離れた川下に緑色の小屋が立ってる。その横にある石造りの大きな倉庫だ」


「他の国は何処に本部があるんだ?」

「それは知らねえ。嘘じゃねぇ! 俺が知っているのは隣の国だけだ!」


-嘘かもしれないが、追及は他の人に任せよう。


「それで、お頭ってのはどんなヤツなんだ? お前みたいな大男なのか?」

「いや、3人ともお前よりも小さい」


-あれ? 変なこと言ったぞ!?


「ちょっと待て、3人っていうのはどういう事だ?」

「お頭は3人いるんだよ。男が二人と女が一人だ」


 -合議制? トロイカ体制なのか?


「名前は何て言うんだ?」

「名前は名乗らない。俺もお頭としか呼んだことが無い」


 -3人いて名前が無いと不自由なはずだが・・・、それよりも。


「そんな小さな奴らで、なんでお前らみたいな悪人の首領ができるんだ?」

「お頭達は闇の魔法が使えるんだ。殺そうと思えば触っただけで相手を殺すことが出来る」

「闇の魔法? だけど、槍とか弓矢とかでお前らなら触られる前に殺せるだろうが?」


 -触っただけで死ぬのは怖いが、触られる前に倒せばいいだけだろう。


「それは無理だ・・・、お頭達は死人だからな。切ろうが焼こうが死ぬことは無い。お前たちと一緒に居るリンネと同じなんだよ」

「・・・」


 -黒い死人達・・・、名は体を表すと言う事か。


「サトル、王宮の兵士たちが来たぞ」


 無線からミーシャの声が聞えてきた。王宮の近衛隊長には日が沈んでしばらくしたら、兵士を率いてこの場所に来るように指示をしてあった。生きている奴は牢に入れてもらうことになるが、入りきれないかもしれない。


「わかった。倒れてい居る奴らを縛って馬車に積み込むように隊長に言っておいて」

「承知した」


 この男の尋問が終わるまで近衛隊長には待ってもらおう。


「それで、話を戻すと。その3人のお頭の見た目に特徴は無いのか?」

「3人とも見た目は若いお前と変わらないらいだ。それと夜になると目が赤く光る」


 -夜になると目が赤く・・・


「えーっと、そのお頭ってひょっとして人間の生き血を飲んだりしない?」

「お前、なんでそれを!? まさか! お前も同類なのか?」

「いや、俺は違う」


 -マジッすか、不死の人間と思ったらバンパイアなのね。


 尋問を終えた大男はサリナに血が止まる程度に治療させてから手錠をかけて、近衛隊長に引き渡した。


「こいつは殺さずに牢へ入れておいてよ。こいつらの首領を捕まえた時に、顔を確認してもらうからね」

「わかった。しかし、凄い数だな。死体を積む荷馬車が後3台は必要だ・・・」

「ああ、死体は俺が回収するからいいよ。生きている奴だけ連れてってくれ」

「だが、これだけの数だぞ?」

「魔法で消すから大丈夫」

「?」


 俺は倒れている人間を片っ端からストレージの“悪人の末路”と名付けた部屋に入れて行った。動かないがストレージに入らなかったのが何人かいたが、まだ生きているということだ。そいつらは兵士を呼んで馬車に連れて行かせた。かなりの数を殺したことになった・・・、だが、こうなることは覚悟をしていた。相手があきらめない以上は徹底的にやるしかない。俺がこの世界で生きるためなのだ。


 二階にもショーイに斬られた死体が20以上はあった。ショーイはハンスや本人が言う通りの腕前なのだろう。綺麗に切り落とされた腕や首が床にたくさん転がっているのを見て、だんだん気分が悪くなってきた。


 アジトの外に出て近場で死んでいる奴らだけをストレージに入れて、ここから撤収するためにみんなを集めた。ラプトルと氷獣狼もリンネの元に戻っていたので、ストレージに収納する。


「みんなお疲れ様。じゃあ、拠点に戻ろうか」


 俺以外の5人は笑顔を浮かべている。誰も怪我をせずに目的が達成できたからうれしいのかもしれない。


 拠点の食堂でアイスクリームを食べながら、聞き出した情報を元に明日の予定をみんなに伝えた。


「明日は水の国に異動して、チタっていう町にあるアジトを偵察する」

「チタは川沿いの町ですね。交易の要になる場所です」


 物流の中心地なら悪人達にも都合が良いのかもしれない。


「それと、首領は3人いるらしいけど全員がリンネと同じ死なない人だ」

「あたしと同じ!? 他にもいたんだね? そいつは、驚いたね・・・」

「完全に同じかは、判らないけど・・・、リンネって人間の生き血を飲んだりするの?」

「ば、バカなことをお言いで無いよ! なんでそんなものを・・・、でも、それはネフロスの信者だろうね。確かに熱心な信者は人の生き血を神に捧げて、それを飲んでいる奴らが居たよ。だけど、あたしはそんなものは金を貰ったって飲むもんか!」


 -宗教上の儀式みたいなものでバンパイアじゃないのか? でも目が赤く・・・


「リンネはそうなんだ。でも、その3人は生き血を飲むらしい。それと、目が赤く光るって言うんだけど、この国には吸血鬼とかバンパイアはいるのかな?」

「血を飲む化け物の伝説はエルフの里にもある。実際に見たことは無いが、人や獣の生き血を飲む怪物が夜になったら襲ってくるというものだ。血を吸われたものたちは干からびて息絶えると言われている。だが、目が赤いと言うのは聞いたことが無いな」


 -ほぼ吸血鬼って感じだけど、赤い目ではないのか・・・


「わかった。一階の警備はラプトルに任せてとりあえず今日は寝ようか」


 ここを今日襲ってくるヤツはさすがにいないだろうが、念のために、俺は一階に降りてからストレージに入り、ラプトルと一緒に外を眺めながらベッドに入った。


 -吸血鬼? どうやって殺せば良いんだ? 


 殺し方を考えると沢山の死体を思い出して眠れなくなった。ベッドを出てシャワーを浴びながらこれからの事をもう一度考える。


明日は水の国のアジトだが戦いは始まったばかりだ。銃があれば手下どもは問題ないが、不死の首領・・・。結局、眠りに着くまでに良い考えは浮かばなかった。

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