第6話Ⅰ-6 ジュラルミンの盾
■エドウィンの町
俺は日の出と共に領主の館に行ったが、残念ながらたいした情報は得られなかった。
掃除は庭の手入れをすることだった。
庭師が切った木や花を俺が集めて捨てに行く、夕方までひたすらそれだけだ。
庭師から得られた情報は極めて少ない。
この国の名称は水の国。
女王様は優しい人(だから獣人も兵士になっているらしい)。
領主様も優しい人。
南への道は昼間でも危ない。
無いよりましだが少なすぎる。
もっとも、庭師は無口ではなく、木や花や、子供たちの情報を沢山くれはした。
興味が無かったから、俺が全く覚えて居ないだけだ。
ギルドに報酬を受け取りに行った俺の会員証を見たお姉さんは目と口を大きく開けた。
「一人で、一晩に狼を3匹も!?」
「たまたまですよ。目の前に出てきたから」
俺は適当な言い訳をしてお姉さんから報酬を受け取った。
歩きながら掲示板を眺めたが新しい仕事や求人は無いようだ。
-このままここにいても狼しか撃てそうに無い。
-せっかく全部持って来たのに。
今日もホールには食事をしている男達が何組かいるが、昨日と違って俺を見ている3人組がいた。
嫌な感じの目つきだった。
ギルドを出て町の外へ向かおうとしたが、さっきの3人組が後ろを付けてきているようだ。
-理由は判らないが面倒くさそうだ。
俺は通りの角を曲がった瞬間にストレージに飛び込んだ。
1cmぐらい隙間を開けて外をうかがう。
曲がってきた3人組はキョトンとしていた。
「オイ!? どこいった? どこにも隠れるのとこなんか無いだろうが?」
「知るかよ! 一人で3匹も狼を狩ったなんて絶対いんちきだ。誰か他の奴と組んでるはずだ、相棒を見つけるまで探せ!」
3人組はバラバラに通りを走っていった。
-なるほど、俺の背後を知りたいのか。誰も居ないのにな。
ストレージで中古のジュラルミンの盾を用意してから外に出た。
武器屋まで周りを気にしながら歩いていく。
無事に店の前にたどり着いたので、周囲の目を気にしながらストレージから盾を取り出した。
「もう、店を閉めるとこだぞ・・・、ああ昨日の兄ちゃんか、本当に来るとは思ってなかったぜ」
「はい、軽くて丈夫な盾を持ってきましたので、見てください」
「結構でかいんだな・・・、何だこりゃあ? 無茶苦茶軽いじゃねぇか」
「だけど強度もあるみたいだな、兄ちゃん、そこいらの剣でぶったたいて見てくれ」
店主はかなり興味を持ったようだ。
俺は小さめの剣を抜いて、店主が持っている盾を野球のスイングのように打った。
-バァーァン!!-
店の中に派手な音がこだまする。
「それでと・・・、こっちは全然凹んでねぇな。・・・剣は欠けちまったか。兄ちゃん疑って悪かったな、こいつは本当に凄い盾だぜ! どこで手に入れたんだ?」
「それは内緒です。商売上の秘密ですから、ですけどこれは一点ものです」
「一点ものか・・・。うん、わかった。約束どおり金貨5枚で買ってやるよ」
「ありがとうございます、銀貨にしてもらえると助かります」
俺は銀貨50枚を手に入れて武器屋を出た。
これだけ軍資金があればしばらく町から離れても大丈夫だろう。
通りを見回しても3人組は居なかった、そのまま町を出ようと大通りへ向かった俺の目の前に小さな影が走りこんで来た。
「待ってください!」
昨日ギルドで会ったサリナだ。
「どうしたの?」
「さっき見てました! 何も無いところから大きな盾が出てきました!」
-そうか、気がつかなかった。こいつが小さいからか?
「うん?何の話かな?」
無視して歩き出す俺の腕にサリナがしがみつく。
-胸が腕にあたっとるがな。
「さっき見たあの魔法を私に教えてください!」
「んん? ああ、あれは俺にしか出来ないからね」
俺は腕と胸が気になって、嘘をつく余裕がなくなっていた。
「だったら、その凄い力で私をこの町から連れ出してください!」
-話がわからんようになった。
「あれ? 南方に行きたいんじゃないの?」
「南方にいきたいですけど、今日中に町を出ないと、私、売られちゃうんです!」
-なんじゃそりゃ?
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